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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
126/219

6-17

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 大太刀から抜け出したツキが、シルバーの前で膝を地に突き、頭を垂れた。自身を鍛え生み出した存在。アキラはシルバーはツキの母親みたいなものだろうかと考えていたが、そうではないようだ。

 ツキに歩み寄ったシルバーは、その両脇に手を差し入れると、強引に立ち上がらせた。

「あなたは、私の身体から生まれた。姉妹、いや半身、双子と言っても良いんだ」 

 そう言って、シルバーは顔の眼帯を撫でた。

「しかし……」シルバーの言葉に、ツキの目から涙がこぼれ落ちて、「私は捨てられた身です」

 ツキの言葉に、シルバーはその身体を抱きしめた。

「ごめんよ。あの時は捨てるしかなかった。完璧なあなたを手元においてしまうと、あなたは成長しなかったんだ。だから、捨てた。この地に落とした。でも、いつもあなたを見ていた。あなたがアキラと出会う時も見ていた。真の仕手を得ることが出来て良かったね」

 こくこくと頷いたツキの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

「御身の目に適いましたでしょうか」

「もちろんだ。さあ、精霊も喜んでいるよ」

 不可視の精霊が、銀の軌跡を描いて空を舞い、空を銀で埋めていた。

「みんな、ありがとう」

 空を見上げたツキが、涙でかすれた声をあげた。

 長い時を経ての邂逅。ツキはどれほど待ったのであろうか。その腕に抱かれる時を。そんな様子に、アキラ達は、しばらくはそっとしておくために距離を空けて草地へと座り込んだ。

 戦いの時から、左腕に抱き上げていたリーネを、そっと草の上に下ろすと、リーネは腕に抱きつき、身体をアキラに寄り添ってきた。

 先ほどまで、剣を交えていたシルといきなりやってきたエンも、アキラ達の前に座った。風が少し吹いて、シルとエンの薄衣を揺らし、二体は背中の羽を揺らしていた。

「シル、古の盟約について教えてくれ」

 そのアキラの言葉に、シルは顔を伏せ、それにエンが励ますように肩に手を置いた。

「話せる事は少ないわ」

「盟約に縛られてか?」

 こくりと頷くシル。

 古の盟約とは、ブルーが想像したとおり、星の精霊ティターニアと始原の精霊の長姉(ちょうし)であるシルとが交わしたものであった。その内容は多岐にわたり、この世界の管理についてなどが主であった。しかし、その中に一つだけ異様な文章が混じっていた。

「それが今回の事に関するものなんだな」

「そうなの。だけど、母はその内容について誰にも言わぬように、きつく命じて盟約に付記した。もちろん、私は理由を尋ねたわ。何故と」

「なら、内容は今も話せないのか」

 アキラの質問に、シルはこくりと頷いた。

「それからは、私が話すわ。始原の精霊の末っ子として」

「はっ?」

 思わず、エンの言葉に変な声をあげてしまうアキラ。それに何故というように、リーネが腕に抱きつきながら見上げてきた。

「本当だよ」

「ええ、本当ですよ。ねっ、お姉さん」

「本当ですわ」

 アキラは頭を抱えた。

 どう見ても、エンが姉妹では一番上に見えるのだが、シルばかりでなく、リーネまでが末っ子だと認めていた。

 目の前の、どう見ても若妻風で、アキラには年下のあらあらお母さんにしか見えないエンが、サインやノーミーよりも姉妹としては生まれは後だと言うのだ。そして、それに加えて、シルの言葉使いが変わっている。というより、一部戻っている。

 少なくとも、大精霊の理不尽であり、長い時を生きている姉妹であれば、こんな場合もあるのだろうと、エンの場合は納得するにしても、シルはどうだと言うのだ。

 アキラはシルを問いただせずにはいられない。古の盟約の件はおいといても。

「実は……」

 シルが語るには、自身の生まれた時からの気質は上品なお嬢様、きっと自分で言うのは語弊があって、顔を真っ赤にしているが。繰り返すが、お嬢様気質でありそれに応じた話し方が自分では楽で素なのだが、長き時により、時代や状況によって自分を作ったり盛ったりしているうちに、それが癖となってしまったのだと。

「他の姉妹達は、そんな事もなく、素なのですが。何故か私は戻れなくなる時があって……」

 アキラはなるほどと。納得のいく説明であり、もうアキラの前では変に作ったり盛ったりは止めてくれと、シルに願うのだった。

 だが、今度はシルは良いとして置いておく。では、今の説明よれば、エンは今の状態が普通なのだろうが、昔からなのか?

 思わず、アキラはエンをじっと見つめるが、その視線に気づいたエンが微笑み、頬に手を当てて口を開いた。

「あらあら、どうしましたか?」

「いや、何でもない」

 大精霊の理不尽を、改めて感じるアキラであった。

 話しが横道に逸れたと、アキラはエンに話しの先を促した。

「星の精霊が長姉(ちょうし)のシルと古の盟約を交わしたのと同様に、末の私とも盟約を交わしたのです」

 それを聞いたリーネが、表情を険しくして口を挟んできた。

「エンもアキラを殺そうって言うの!」

 慌てたエンが、否定のために顔の前で両手を振った。

「違います。私は母から頼まれたのです。直前には止めるようにと」

 その役目はリーネに盗られてしまいましたけれどと、ため息ついた。それとは別だがと言葉を続ける。

「魔王は知っていますね?」

「そういう存在がいるとは聞いているけど?」

 ことさら、エンは顔を引き締め、真面目な顔をした。

「魔王が、人と獣人を滅ぼす決意をしました」

 今の配下を除いてと。

 優しげなエンの口から発せられた言葉とは思えず、幾度かアキラはその言葉を頭の中で反芻した。

 じわりと意味が理解できはじめた。だから、アキラは開口一番。

「何故だ、何の権利があって!」

「魔王曰く、いまの人と獣人は惰弱であるからと」

 これからは厳しい世の中となる。弱いものにとっては生きづらく、苦しい世界になるだろう。だから、その前に苦しまぬように殺して、滅ぼしてやろうと。それは魔王の慈悲であるとまで告げたというのだ。

「だが、人や獣人がいかに苦しもうとも、生きる権利がある。生き抜く努力をする権利がある」

「そうです。だから、魔王は続けて言いました。魔王の暴力から生き抜いてみよと」

 そのエンの言葉を聞いて、アキラは絶句した。

 魔王に何の権利があって、まるでこの世界を審判するがごとき存在だと、自らを宣言するのか。そんな事が許されるのか。

 知らず、アキラは歯を鳴らしていた。バキバキと、歯が折れそうなほど食いしばっていた。

 何事かと、ツキとシルバーがやって来た。手早く、事の成り行きをリーネが聞かせた。

「俺には、この世界に来て、守りたいものが出来た」

 皆の視線がアキラに集まる。皆、真剣な表情だ。

「きっと、その守りたいものにも、守りたいものがあるだろう。だから、俺は守りたい」

「きっとそれは、アキラの手では足りないぞ」

 それを言ったシルバーに、アキラは顔を向けた。

「そうだ、きっと足りない。それでもだ」

「理不尽を成すとするか。ならば英雄となるか?王となるか?」

 そのシルバーの問いかけに、アキラは首を左右に振った。

「ならば、何に成る?」

「俺は壁になる。脆かろうが、弱かろうが、俺は壁になる」

 そのアキラの言葉に、ツキが前に一歩踏み出す。

「主が成すのならば、それを支えるのも私の役目。壁を支える杖となりましょう」

「それじゃ、私は壁を強くする蔦になる」

 リーネがツキに続く。二人はアキラの脇に立ち、その腕をとった。

「そうですか。ならば戦いましょう、魔王と」

 決意を込めたシルの言葉に、アキラは頷くのだった。


大太刀:「母上」

長姉精霊:「叔母様」

幼女もどき:「えーと、えーと、近所のおばちゃん!」

銀の月:「ぶっ殺す!」

事実じゃん。

銀の月:「ぶっ殺す!」


次回、明日中の投稿になります。

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