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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
125/219

6-16

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 動きを止めて対峙する一人と一体を、森の中からリーネはじっと見ていた。見て、ここに何のために来たのかと、自分に問いかけていた。

 何も出来ず、ただ、アキラが戦うのを見に来たのか。

 リーネは首を左右に振って、それを振り払う。

 違う、自分はアキラの味方をするために、この場に来たのだ。

 では、今は何が出来る。

 じっと手の平を見る。精霊に呼びかけるが、返事はない。気配はあった。だが、その気配はいつもの慣れ親しんだものではなかった。

 リーネは離れていった精霊へと、懸命に呼びかけていた。

 アキラを助けたい。助けるんだ。

 この想いはもしかしたら偽りかもしれない。自分の意志ではないのかも知れない。誰かが用意したのかもしれない。

 でも、リーネはアキラを助けたかった。

 アキラの側にいたかった。抱きしめたかった。ぎゅっとしたかった。頬ずりしたい。好きだった。愛している。

 自分に資格がなくたって構わない。許されなくとも構わない。

 この身投げ捨てでも、アキラの盾になる!

 この気持ちは本物だ!

 一歩、リーネは森から飛び出そうと足を踏み出した。

 しかし、それは肩に置かれた手で止められることになる。気配もなく背後に立たれたと、慌ててリーネが振り返ると、そこには背に銀の薄い羽、顔には眼帯で片目を隠した大精霊が立っていた。

 その顔を見て、その羽、眼帯を見てリーネははっと思い当たる。実際に会うのは初めてだが、その特徴は記憶にあった。

「……シルバー?」

「そうさ、シルバー姉さんだよ。叔母さんなんて言ってみろ、ぶっ殺す」

「えーと」

 いるはずのない、いや、いてはいけない大精霊を目前にして、リーネの頭は混乱していた。

「いやー、ずっと覗いてたけどシルも酷だね。他の精霊に無理強いさせちゃって。いや、悪いのはニア姉さんか?」

 混乱から抜けきれぬリーネを見たシルバーは、ぽんぽんとリーネの頭を叩き、そして撫でた。愛おしむように。

「まだ、規制がかかっているんだね。記憶も力も。でも、坊やを助けたいんだね」

 そう言ったシルバーは、先の表情とは違って悲しげであった。まるで、それは自分を責めるようでもあった。

 リーネはシルバーの言葉にこくりと頷く。

「それでは、掟破りもなんのその。お姉さんが手伝ってあげよう」

 そう言って、シルバーは天を仰ぎ、頭上に輝く昼間の衛星シルバーを見上げて、大きく手を振った。それは奔流を生む。

 銀の奔流がリーネを包み込んだ。

「みんな、ちょーと、環境が違うけど頑張ってな」

 蘇る精霊との絆。だが、それはいつもと違う。それもそうだろう。今、リーネを包み込んでいるのは、衛星シルバーにいるはずの精霊なのだから。

「いいの、シルバー。ニアに怒られない?」

「あー、怒るだろうな。でも、気にするな。私の見立てでは、坊やはもう大丈夫だよ」視線をシルに向け「このままじゃ、坊やとツキが本気になって、シルがエーテルにされてしまうよ」

 リーネには、シルバーの言うことすべては理解出来なかった。しかし、今はそれどころではない。シルバーも戦いに早く加われと言っている。

「シルバー、ありがとう!」

 そのリーネの言葉に、手をひらひらと振って応えるシルバー。

 手をさっと振り払うリーネ。その軌跡に幾つもの魔方陣が浮かび上がる。ただ、その書式は普段とは違う。それは、シルバーの精霊達の書式だった。

 背中には黒の獣の羽が現れ、大きく羽ばたいた。

「行ってくる」

「はいはい、また後で」

 加速の魔方陣が輝き、空気を圧する音とともにリーネが森を飛び出していた。

 それを見送ったシルバーは、腰に片手をやり、もう一方の手で眼帯を撫でて呟いた。元気そうだなと口の中で言う。そして声を大きくした。

「まったく、姉さんにも困ったもんだ。坊やもシルも可哀想じゃないか」

 やれやれとシルバーは顔を左右に振り、エンはうまくやってるかねーと呟くのだった。


 その銀の奔流は、対峙しているアキラとシルにも見ることが出来た。いや、見ざるを得なかった。

『まさか、御身が……』

 アキラの手の内で、大太刀が歓喜のために震えたようだった。

「シルバー叔母さんがここに?」

 シルが呟くが、アキラには理解出来ない。

「何が起こっているんだ」

『月の精霊シルバーが降りて来たようです』

 その言葉を合図にしたかのように、森から弾丸が射出されたかのように、リーネが飛び出し、アキラに飛びついてきた。

 何とかリーネを受け止めたが、アキラはリーネを抱きかかえて、一気に後方へと飛んだ。間合いを開けておかねば、シルにやられると。

「大丈夫なのか?」

「うん、シルバーが精霊を使えって」

 見れば、アキラの見覚えのない書式で描かれた魔方陣がリーネの周りには浮かんでいた。しかも銀に輝きつつ。

「私はいつだって、アキラの味方だよ」

 そう言って、リーネは腰に両手を回し、アキラの胸に頬ずりをするのだった。

 その姿を見ているシルは、どこか寂しげであった。

「これで、全員が揃ったのね」

 左手でリーネを抱え直し、右手一つで大太刀ツキノナミダを構えるアキラ。

 それに対して、シルが片手を一振りすると、空気の刃が次々生み出されて、アキラを襲う、しかし、それは一つとして届くことはなかった。リーネが一つの魔方陣を片手で前に押し出し、シールドを作っていたからだ。

 アキラはリーネを後ろにやろうとすると、リーネが首を左右に振ってそれを拒み、腕に抱きすがった。

「リーネ……」

 ぎゅっと腕を抱きしめるリーネ。

「駄目だよ。シルが消えちゃう」

「右手一本でやれと言うのか」

 それにこくりと頷くリーネ。

 それを見ていたシルは、怒るでなく、ただため息をつくだけであった。

「シルバーがそう言ったの?」

「アキラとツキが本気になったら、シルがエーテルになっちゃうって」

「そうか……」

 意外にも、シルはとても嬉しそうな表情を浮かべていた。

「ならば、見せてみろ!」

 魔術ではリーネがすべて防いでしまうと、シルは光刃を煌めかせてアキラへと飛びかかる。

 右手一本で、長大な剣でそれを受けたアキラ。

 シルは右手の光刃がたわむのを感じた。逆に、よくも砕けずに耐えてくれたものと、自らの魔力に感謝していた。

 もともとツキはシルバーが鍛えた剣。由来が衛星シルバーであれば、リーネが連れてきた精霊の力を借りるのは容易、いや、ただ側にいただけで、十分に力を底上げしていた。

 すかさず、シルは身を引こうとするが、左手の腕にリーネを抱き上げたアキラがそれを追う。シルは魔術で刃を生み出して牽制するが、それをリーネがアキラの首にすがりつきながら、残った片手で魔方陣を動かして、すべてを防いでしまう。

 向かってくる攻撃はすべてリーネが防いでいる。ならば、アキラは剣を振るのに集中できる。ツキの性能が底上げされているためか、大太刀を振る速度がさらに上がっていく。

 シルは大太刀を光刃で捌こうとするが、交差する度にどんどん削られ、エーテルの香りが強さを増すばかり。

 下がるばかりのシルに、アキラは大太刀を振るう。先は銀と虹の軌跡が舞っていたが、今は虹に銀が叩きつけられる、銀の舞のみになっている。

 シルが一瞬の隙をついて、光刃がアキラの真正面から振り下ろされる。しかし、アキラの大太刀も鏡写しの如く振り下ろされた。

 切っ先と切っ先が触れ合うと、光刃が大太刀から逃げるように逸らされていく。大太刀の軌道は微動だにしない。

 振り下ろされた大太刀は、シルの顔と紙一重で止められた。

 アキラの右手には、リーネの手が添えられていた。

「納得した?」

 その言葉に、アキラが視線を向けると、そこに立っているのはエンであった。その背後にはシルバーが立っていた。


幼女もどき:「えーと……」

…………

…………

幼女もどき:ぽつーん「えっ、マジ!」

残念ながら、

マジです。


次回、明日中の投稿になります。

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