6-16
引き続き、
第6章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
動きを止めて対峙する一人と一体を、森の中からリーネはじっと見ていた。見て、ここに何のために来たのかと、自分に問いかけていた。
何も出来ず、ただ、アキラが戦うのを見に来たのか。
リーネは首を左右に振って、それを振り払う。
違う、自分はアキラの味方をするために、この場に来たのだ。
では、今は何が出来る。
じっと手の平を見る。精霊に呼びかけるが、返事はない。気配はあった。だが、その気配はいつもの慣れ親しんだものではなかった。
リーネは離れていった精霊へと、懸命に呼びかけていた。
アキラを助けたい。助けるんだ。
この想いはもしかしたら偽りかもしれない。自分の意志ではないのかも知れない。誰かが用意したのかもしれない。
でも、リーネはアキラを助けたかった。
アキラの側にいたかった。抱きしめたかった。ぎゅっとしたかった。頬ずりしたい。好きだった。愛している。
自分に資格がなくたって構わない。許されなくとも構わない。
この身投げ捨てでも、アキラの盾になる!
この気持ちは本物だ!
一歩、リーネは森から飛び出そうと足を踏み出した。
しかし、それは肩に置かれた手で止められることになる。気配もなく背後に立たれたと、慌ててリーネが振り返ると、そこには背に銀の薄い羽、顔には眼帯で片目を隠した大精霊が立っていた。
その顔を見て、その羽、眼帯を見てリーネははっと思い当たる。実際に会うのは初めてだが、その特徴は記憶にあった。
「……シルバー?」
「そうさ、シルバー姉さんだよ。叔母さんなんて言ってみろ、ぶっ殺す」
「えーと」
いるはずのない、いや、いてはいけない大精霊を目前にして、リーネの頭は混乱していた。
「いやー、ずっと覗いてたけどシルも酷だね。他の精霊に無理強いさせちゃって。いや、悪いのはニア姉さんか?」
混乱から抜けきれぬリーネを見たシルバーは、ぽんぽんとリーネの頭を叩き、そして撫でた。愛おしむように。
「まだ、規制がかかっているんだね。記憶も力も。でも、坊やを助けたいんだね」
そう言ったシルバーは、先の表情とは違って悲しげであった。まるで、それは自分を責めるようでもあった。
リーネはシルバーの言葉にこくりと頷く。
「それでは、掟破りもなんのその。お姉さんが手伝ってあげよう」
そう言って、シルバーは天を仰ぎ、頭上に輝く昼間の衛星シルバーを見上げて、大きく手を振った。それは奔流を生む。
銀の奔流がリーネを包み込んだ。
「みんな、ちょーと、環境が違うけど頑張ってな」
蘇る精霊との絆。だが、それはいつもと違う。それもそうだろう。今、リーネを包み込んでいるのは、衛星シルバーにいるはずの精霊なのだから。
「いいの、シルバー。ニアに怒られない?」
「あー、怒るだろうな。でも、気にするな。私の見立てでは、坊やはもう大丈夫だよ」視線をシルに向け「このままじゃ、坊やとツキが本気になって、シルがエーテルにされてしまうよ」
リーネには、シルバーの言うことすべては理解出来なかった。しかし、今はそれどころではない。シルバーも戦いに早く加われと言っている。
「シルバー、ありがとう!」
そのリーネの言葉に、手をひらひらと振って応えるシルバー。
手をさっと振り払うリーネ。その軌跡に幾つもの魔方陣が浮かび上がる。ただ、その書式は普段とは違う。それは、シルバーの精霊達の書式だった。
背中には黒の獣の羽が現れ、大きく羽ばたいた。
「行ってくる」
「はいはい、また後で」
加速の魔方陣が輝き、空気を圧する音とともにリーネが森を飛び出していた。
それを見送ったシルバーは、腰に片手をやり、もう一方の手で眼帯を撫でて呟いた。元気そうだなと口の中で言う。そして声を大きくした。
「まったく、姉さんにも困ったもんだ。坊やもシルも可哀想じゃないか」
やれやれとシルバーは顔を左右に振り、エンはうまくやってるかねーと呟くのだった。
その銀の奔流は、対峙しているアキラとシルにも見ることが出来た。いや、見ざるを得なかった。
『まさか、御身が……』
アキラの手の内で、大太刀が歓喜のために震えたようだった。
「シルバー叔母さんがここに?」
シルが呟くが、アキラには理解出来ない。
「何が起こっているんだ」
『月の精霊シルバーが降りて来たようです』
その言葉を合図にしたかのように、森から弾丸が射出されたかのように、リーネが飛び出し、アキラに飛びついてきた。
何とかリーネを受け止めたが、アキラはリーネを抱きかかえて、一気に後方へと飛んだ。間合いを開けておかねば、シルにやられると。
「大丈夫なのか?」
「うん、シルバーが精霊を使えって」
見れば、アキラの見覚えのない書式で描かれた魔方陣がリーネの周りには浮かんでいた。しかも銀に輝きつつ。
「私はいつだって、アキラの味方だよ」
そう言って、リーネは腰に両手を回し、アキラの胸に頬ずりをするのだった。
その姿を見ているシルは、どこか寂しげであった。
「これで、全員が揃ったのね」
左手でリーネを抱え直し、右手一つで大太刀ツキノナミダを構えるアキラ。
それに対して、シルが片手を一振りすると、空気の刃が次々生み出されて、アキラを襲う、しかし、それは一つとして届くことはなかった。リーネが一つの魔方陣を片手で前に押し出し、シールドを作っていたからだ。
アキラはリーネを後ろにやろうとすると、リーネが首を左右に振ってそれを拒み、腕に抱きすがった。
「リーネ……」
ぎゅっと腕を抱きしめるリーネ。
「駄目だよ。シルが消えちゃう」
「右手一本でやれと言うのか」
それにこくりと頷くリーネ。
それを見ていたシルは、怒るでなく、ただため息をつくだけであった。
「シルバーがそう言ったの?」
「アキラとツキが本気になったら、シルがエーテルになっちゃうって」
「そうか……」
意外にも、シルはとても嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ならば、見せてみろ!」
魔術ではリーネがすべて防いでしまうと、シルは光刃を煌めかせてアキラへと飛びかかる。
右手一本で、長大な剣でそれを受けたアキラ。
シルは右手の光刃がたわむのを感じた。逆に、よくも砕けずに耐えてくれたものと、自らの魔力に感謝していた。
もともとツキはシルバーが鍛えた剣。由来が衛星シルバーであれば、リーネが連れてきた精霊の力を借りるのは容易、いや、ただ側にいただけで、十分に力を底上げしていた。
すかさず、シルは身を引こうとするが、左手の腕にリーネを抱き上げたアキラがそれを追う。シルは魔術で刃を生み出して牽制するが、それをリーネがアキラの首にすがりつきながら、残った片手で魔方陣を動かして、すべてを防いでしまう。
向かってくる攻撃はすべてリーネが防いでいる。ならば、アキラは剣を振るのに集中できる。ツキの性能が底上げされているためか、大太刀を振る速度がさらに上がっていく。
シルは大太刀を光刃で捌こうとするが、交差する度にどんどん削られ、エーテルの香りが強さを増すばかり。
下がるばかりのシルに、アキラは大太刀を振るう。先は銀と虹の軌跡が舞っていたが、今は虹に銀が叩きつけられる、銀の舞のみになっている。
シルが一瞬の隙をついて、光刃がアキラの真正面から振り下ろされる。しかし、アキラの大太刀も鏡写しの如く振り下ろされた。
切っ先と切っ先が触れ合うと、光刃が大太刀から逃げるように逸らされていく。大太刀の軌道は微動だにしない。
振り下ろされた大太刀は、シルの顔と紙一重で止められた。
アキラの右手には、リーネの手が添えられていた。
「納得した?」
その言葉に、アキラが視線を向けると、そこに立っているのはエンであった。その背後にはシルバーが立っていた。
幼女もどき:「えーと……」
…………
…………
幼女もどき:ぽつーん「えっ、マジ!」
残念ながら、
マジです。
次回、明日中の投稿になります。




