6-15
引き続き、
第6章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
お互い、語るべき事はなく、シルは自身の周囲に風を纏わせ、ツキは光を発して大太刀へと宿る。
そして、リーネはシールドを張るべく、精霊に語りかけ魔方陣を作り上げるが、それは一瞬で霧散した。手はず通り、リーネは森へと逃げ込もうとするが、そこに真空の刃が襲いかかった。
抜刀、そして見えぬ刃をたたき落とすアキラ。
どうやら、リーネを逃すつもりはシルにはないようだ。守り抜いて見せよと言わんばかりに。
次々と放たれる刃だが、リーネはそれに背を向けて駆け続けた。何の躊躇もなく、振り返りすらせず、ただひたすらに森へと駆ける。たとえ、何があってもアキラは守ってくれる、信じているのはもちろん、リーネにとっては事実であり、真実であったからだ。
不可視の真空の刃が、大太刀によってたたき落とされる。一つや二つではなく、数すら数える事が出来ない。すでに、大太刀を振るアキラの腕は、宙に残像を浮かべるだけで、実際の太刀筋すら見えてはいない。
一つたりとて漏らしはしない。
損ねれば、不可視の刃はリーネの魔力を剥がす。そうなっては、この場からシルはリーネを逃がすことはないだろう。確実に息の根を止めに来る。
すでに、アキラは真空の刃を見てはいない。大太刀の刃を自ら感じた位置へと置きに行っているのだ。
精密機械の様に足を動かし、腕を振るアキラ。その脳裏にツキが浮かんだ。
『このままでは、埒もあきません。こちらから仕掛けるべきかと』
ツキの意図を理解したアキラが頷く。
「成功するか?」
『大丈夫ですよ、私の主様ですから』
大太刀を振るいながらも、苦笑を浮かべるアキラだが、それを見たシルが舌打ちをする。
『そんな表情が出来るほどの、余裕があるのか?』
シルとは距離があるため、思念がアキラの頭の中に飛ばしてくる。
「それがあるんだよっと」
髪の毛一つほどのタイミング。シルが思念を飛ばすことによって生じた隙を逃さず、アキラは大きく踏み込んで、宙を斬った。
それは大太刀ツキノナミダでしか出来ない芸当。文字通り、アキラは宙を、空気を斬ったのだ。斬られた空気はその傷の周りを圧迫して、圧縮された。その圧縮された空気は極薄い空気の刃となってシル目がけて滑るように飛んでいくのだった。
『魔術?いや、これは実体か!』
アキラの放った刃を、避けたシルだが、そのためにリーネを狙っていた空気の刃を生み出す事が出来なかった。
その時を狙って、二つ目の踏み込みで、アキラはシルへと飛び込み、袈裟懸けに大太刀を振るった。
しかし、それはシルが生み出した光刃によって受け止められた。
「良く受けた」
紛うことなく、アキラは驚き、シルを賞賛していた。今、アキラの踏み込みは、かってレインがリミッターを外した時を上回るものだったのだから。
「舐めてもらっては困る」
ぎりぎりと、実体を持たないかのように見える光刃だが、シルは大太刀と刃を合わせていた。シルとアキラの顔が近い。シルの吐く息がアキラの顔に届くほどの距離であった。
「名にし負う、さすがはツキノナミダ。この星随一、いや、星系を超える名声は事実だったか。私の光刃で斬れぬとはな」
『お褒めいただき、恐悦至極。では、切れ味も馳走いたしましょう』
アキラの脳裏で、ツキがにっこりと微笑む。
アキラとシルは、相手の刃を弾いて一旦後方へと飛ぶが、すぐさま踏み込み刃を振るった。
斬りつけ、受ける。腰を低く、重心下げてすり足で位置を変える。大太刀はその長さと重量を使い、光刃は重量無きが如く、軽やかにひらめく。
幾つ斬り、幾つ受けたかはすでに数えることなど出来ない。大太刀は剣筋に銀を残し、光刃はシルの羽のように、虹の軌跡を剣筋に残している。
錯綜する銀と虹。
剣が交差すれば、鉄の匂いが生まれるが、今は香を炊いたかのような匂いが周囲に満ちていた。なぜと、アキラの頭の片隅に疑問が生じる。それが迷いとなってはと、素早くツキが解を与えた。
『光刃が削れてエーテルに戻る時の匂いです。気にせずに』
なるほどとアキラは納得をした。以前にリーネから、精霊や魔力はエーテルから生まれると聞いた事があった。シルが使う光刃はまさに魔力が生み出した刃だ。
その会話の隙に、シルが光刃を素早く突き出してきた。受け損じると瞬時に判断したアキラは後方へと飛んだ。アキラは思考の時間が普段よりも加速していると感じていた。
お互いの間合いを外れ、一瞬の隙間が生まれ、アキラとシルはにらみ合うこととなった。
アキラは中段、腰まで下ろした大太刀の刃を後方に構えて刃を隠す。剣であれば勝てると考えていた、アキラは自分を罵るとともに、シルの剣技を賞賛もしていた。そして、そのシルは、アキラを嘲笑うように、片手で光刃を前に突き出していた。腰を軽く落とし、半身に構えている。
このままでは、アキラは自分が負けると考えていた。相手は大精霊。元いた世界では神と同義の存在。たかだか人間では、いかにツキノナミダを持とうとも、いつかは限界がやってくる。
だが、アキラの脳裏では、ツキが優しく微笑んでいた。
『相手が大精霊?関係ありません。主様に斬れぬものなどありません。ただ、今はまだ、力が満ちていないだけです』
「なるほど、シルは俺に立ちはだかる壁か」
これを超えなくてはならないのか。
では何のために?
強くなってどうする?
超えられないのなら、逃げたらいいさ。強くなっても意味はない。ただ、楽しく生きていければ。ブルーがいて、リーネがいて、ツキがいる。他にも仲良くなった者もたくさんいた。
仲間と一緒に楽しくやれればいいさ。
大太刀の柄を握る力が僅かに弱まる。だが、それを感じられるはずのシルが打ち込んでは来ない。ただ、見定めるように、目を細めてアキラを眺めていた。
「友や、仲間が蹂躙されればどうする?」
シルの問いかけ。
「それをシルがするというのか?」
「はっ!馬鹿を言うな」
なぜシルはそんな事を言うのか。何かを押しつけようとしているのか。
「で、どうする?」
「守ってみせるよ」
一つ大きく踏み込んで、間合いを詰めたアキラは、大太刀を横薙ぐが、シルは身体を引いてそれを避けた。
追撃を避けるためにも、アキラは再び間合いを外した。
シルは再びアキラを眺めていた。
社畜男:「今は、ソニッ○ブレードとか、ストラ○ブレードって言うらしいな」
幼女もどき:「昔は何て言ったの」
社畜男:「……真空斬り」
大太刀:「一周回って、格好よく聞こえるから不思議です」
空気投げと真空投げって、どう違うんだろう。
根本的に違うんだろうけど……。
次回、明日中の投稿になります。




