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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
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6-14

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 帝都の包囲は迅速に行われた。要所となる部分は、エリオットが極秘裏に協力をしているのだから、簡単なことであった。ただ、エリオットのいわば裏切りは、必ずシルは気づくことになる、ばれないなどという甘い考えは捨てており、エリオットは細心の注意でもって行動することになる。

 先の戦いで生じた捕虜は、協同国や財団(ファウンデーション)、王国の後続部隊に引き渡して、帝都周辺に展開する連合部隊は身軽となっていた。そればかりか、後続の部隊は、帝都までの道のりで帝国兵の部隊を遭遇すると、相手が少数であれば果敢に責め立てて排除し、己が以上の規模であれば迂回回避し、ハラスメント攻撃を仕掛けるに留まっていた。

 今や、帝国は三つの戦線と対峙する事になっており、開いているのは砂漠方面だけとなっていた。しかも、帝都が包囲封鎖されているため、戦況を見据えての指示も出せず、帝都外に展開する帝国兵部隊は連携も一切取ることが出来ず、軍事、経済の面で大きな混乱が生じていた。

 一部の貴族領では、反撃の動きがあったが、連合部隊の迅速なる鎮圧あるいはエリオットによる説得によって防がれていた。

 そして、帝都、帝国全土では協同国に協力的な獣人達が、ローダン商会を通じて出される指示に従って、新たな混乱を生み出していた。

 時が迫っていた。

 貴族達はもちろん、帝室内部からも現状についての打開を求める声が上がっており、この場にいたって、影ではシルの責任を問う者も出始めていた。

 ただ、帝都を封鎖しているとはいっても、民を困窮させるのは忍びず、またそれが目的でないため、ある一定以下の貧困に陥る様な家庭には、密かにローダン商会が手を差し伸ており、またそれが、反シルの動きへと繋がるような状況であった。

 先の戦いで、数を減らしているのもあったが、近衛は最後の戦力となっているため、簡単に帝都から打って出る事もなかった。

 アキラの周囲は、ある意味平穏であった。


モス帝国 帝都ロンデニオン 王宮 第三王子執務室

 連合部隊の包囲が始まった当初は、殺人的な仕事量であったが、日数が経つに従って、外部からの情報もなく、また帝都そのものも機能しているとは言えないため、エリオットは比較的暇であった。

 もちろん、それは見せかけだけのもので、信用に足る暗部を動かして情報を集め、指示を飛ばし、ローダン商会の暗部とも通じて、連合部隊と連絡を取り合っていた。

 そして、もっともやっかいなのは、包囲を何とかしろという、帝室あるいは貴族のクレーム処理であった。

 帝都外の部隊に働きかけようにも、包囲がそれを許さない。内部に留まっている近衛に至っては、決戦兵力とみなされ、温存が帝王によって定められ、指揮権はエリオットから取り上げられた。もちろん、先の敗戦による懲罰の意味合いも含まれている。

 ただし、エリオットから見て、何故か張り切っている帝王の軍部への指導は、朝令暮改も甚だしく、近衛からの評判も悪かった。

 普段通りに書類を片付けてしまえば、大した量でもないため、すぐに手が空き、茶でも飲んで、外を眺めているしかないと、そんな態を装って、カップを手にして外をエリオットは眺めていた。

 背後の気配にエリオットが振り返ると、そこにはシルが立っていた。いつもの表情とは違って、エリオットには焦りや悩みがあるように見えた。

 シルの様子に、そろそろかとエリオットが考えていると、シルが口を開いた。

「まったく、ブルーの人気を見誤っていたよ」

「ほう、シル様が泣き言とは珍しい」

「あなたも含めてよ」

 どうやら、シルはすでに裏の状況を掴んでいる。しかし、エリオットはそれを感じたとしても惚けるように肩をすくめるだけだ。

 ソファに身体を投げ出す様に座るシル。気だるげな姿勢でエリオットを見た。

「私が出る。兵を損ねたくなければ、アキラとリーネ、それにツキだけ前に出ろ」

 そのシルの言葉に惚けようとしたエリオットだが、シルの視線に籠もった何かを感じて口を開くことなく頷くに留める。

「やれやれ、楽しみだね」

 呟くシルの目は、なぜか期待に満ちている様に、エリオットには見えたのだった。


 シルの誘いに、すぐさま戦いが生じる事はなかった。エリオットの暗部と、ローダン商会の暗部が綿密にやりとりを行い、先ずはシルからの申し出が真実である事が確認をなされ、続いては戦う場所の選定などの条件闘争が行われることとなった。

 アキラとしては、魔術が使用できなくなることを想定し、身を隠すことが出来る森近くを希望したが、シルは開けた草原を希望していた。

 その希望を聞いたアキラは、シルが魔術で決着をつけることを臨んでいると考えた。それは至極当然であった。必ずシルはリーネの魔術を封じてくる。そうなればリーネは敵の良い的になってしまうし、アキラとしては魔術が使えないとなると、剣による斬り込みしかないのだから。

 少なくない日を使って、結局は大きな森が広がる横の草原にて、戦いを開始することとなった。

 決められた場所へと、精霊馬に跨がったアキラとリーネが向かう。ツキはアキラの後ろに跨がっていた。普段であれば、文句のひとつも言うリーネであったが、今はただひたすらに精霊馬を操っていた。

 フォイルやバス司令が指揮する部隊が同行していたが、お互いの同意の下、帝国兵も、連合部隊の兵も戦いの場所には連れずと決めていたため、途中で別れてきた。ちなみにカロニアは本陣を守るために残してきた。

 観戦する兵達がいない事を心配するフォイルとバス司令だが、それはシルが決めたことを破るのを心配してではなかった。その点は大精霊シルフィードを疑うことはなかった。ただ、アキラ達が敗れた時に、命だけでも救うために近くにて待機しておきたいとの思いからだった。

 笑って、アキラは部隊を残して、戦いの舞台へと向かった。

 三人は無言でその地へと駆ける。

 やがて、なだらかな起伏に、森と草原が見えてきた。

 草原の一角、森の脇にシルは立っていた。

 腕を組み、背中の羽を揺らめかせて。

 視線は遠くアキラを射貫いていた。

 シルから距離をおいて精霊馬から下りたアキラ達は、精霊馬に離れている様に指示をする。

 心配そうに、幾度となく振り返る精霊馬達。それへ、安心するようにと、リーネが大きく手を振っていた。

 空は雲一つなく、風も凪いでいた。

黒鹿毛:「タイマンだー」

芦毛:「オセロでか?将棋でか?」

社畜男:「……お前ら、仲いいね」

うんうん。


次回、明日中の投稿になります。

ああ、ディスクの山が……。

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