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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
122/219

6-13

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 ブルーがスカイドラゴンである事を説明し、リーネとツキが竜の巫女姫であるとアキラが説明し、何とか納得してもらうことが出来た。ただ、ローダン商会の会頭までいる事には、更に驚かれたが。

 しかし、地位としては最上位者であるフォイルが、アキラの麾下に入ると宣言したがため、かなりややこしい話しとなった。意外だが、過去のいきさつからカロニアは苦情を言い出すかと思われたが、どうやら、ディーネに事前に言い聞かされており、それを受け入れていた。そしてそれは、アキラの剣の腕前を見ていることも大きかった。

 そして、フォイルとカロニアが口を揃えて、アキラの強さについてバス司令に言って聞かせるのだが、アキラは十代半ばにしか見えない容姿である。結局はしぶしぶと言う形で、説明を飲み込ませることになったので、後々に揉める原因となるだろうと、アキラはげんなりとした表情であった。

 とにかく、部隊の指揮はフォイル達に任せるとして、帝都をどうするかの方針をアキラ達は話し合うことになった。

 真っ先にアキラは、すでに帝都を落とせるだけの武力は見せつけているため、まずは、まだ前線に滞陣しているであろうエリオットと話しをしたいと告げた。アキラとしては、帝国すべてを敵に回すのではなく、出来ればシル単体との戦いという形にしたいのだと。

「ふむ、一当てしている事だし、敵の司令と会っておくのは悪くないな」

 そう賛同してくれたのはバス司令であった。そして、反対がないため、使者を敵本陣に送ることになる。

 アキラ達が出向いて事故などが起こってはとんでもないので、選ばれた騎兵達が敵本陣へと使者として向かう。この世界であっても、白旗は戦意がない証とされているので、剣のみを武装として、騎馬数名が白旗を掲げて出発した。

 それを見送ったアキラ達だが、その段になってバス司令がアキラに尋ねてきた。

「口ぶりでは、エリオット王子をご存じのようだが?」

「エリオットはもちろんだけど、帝室から、ちょっとした仕事を引き受けて面識はある」

「さすがに、ドラゴンの縁者ということか……」

 感心したようなバス司令の言葉に、大した事ではないがと返すと、ブルーが横から大した事なんだよと混ぜ返すのだった。さすがに話す犬ということで、バス司令から暫定ドラゴンとして確定されたブルーに、なるほどと頷くバス司令ではあった。

 さすがに陽も落ちてきたことだし、食事をとりつつ使者の帰りを待とうかとなり、ツキが食事を作ると言い出すと、フォイルが巫女姫にそんなことはさせられないと抵抗した。

 しばらく、二人で言い合っていたが、ブルーの腹が減ったの言葉によってフォイルが折れて、ツキが食事をつくることになった。

「申し訳ないな。ツキは料理が好きだから」

「いや、少し意外だったからな。巫女姫と言えば、ドラゴンの脇で静かに佇む様子しか思いつかない」

「えー、そんなことないよ」

 どうやら、リーネとツキはフォイルの幻想を壊すことになったようだ。アキラも、リーネとツキは巫女姫として常識外れなのかと思い始めているところであったが。

 ツキが簡易に作られた厨房のありかを発見して、料理を始めたころ、事態が動いた。

 なんと、使者は返事を持ち帰るのではなく、エリオットと側近数名と共に戻ったのだ。

 さすがに、一国の王子を陣に迎えるとあって、準備がされていないと、日を改めてとなりかけたが、エリオットから非公式でとの申し出と、ブルーがこの天幕で良いとの言葉で、招き入れることになった。

 エリオットは武装を解除されることもなく、ただ側近は外に残して天幕に入ってきた。敵ではあっても帝国の第三王子である。さすがに拝跪はせずとも、軽く頭を下げて皆は出迎えた。

「久しいな」

 真っ先にエリオットが声をかけたのはアキラだった。その行為に、フォイル達が目を丸くする。帝国はなんといっても大国だ。その第三王子であるエリオットが、真っ先に挨拶したのがアキラだったのである。しかもこの場で最上位であると判断しているとなれば、驚くのも無理はなかった。

「そうだな、まあ、座ってくれ」

 そのエリオットの言葉を受けて、アキラも普段通りに言葉を返した。そして、先ずは注意しなければならないのは、シルがこの場に現れることだ。アキラはローダンとブルーに視線を送ると、一体と一頭は理解しているのか頷きを返す。

 シルが来ることは拒めないまでも、兆候を掴んで、事前に注意は与えてくれるだろう。

 椅子に座ったエリオットは開口一番。

「今回の件はすまない。個人の立場であるが謝罪させてくれ」

 これには一同は驚愕させられる。ただし、そこにはアキラは含まれていない。

「そうは言っても、シルが帝国を掌握している限り、宣戦布告は帝国の総意だろ」

「アキラの言うとおりだが、私としては、今回のことは間違っていると考えている」

 そして、エリオットはシルが帝国の統治を宣言したこと、したものの内実は変わらぬのだと。

「はっきりと聞くが、シルの古の盟約とはなんだ」

「分からん、としか言い様がない。シル様からは何も聞かされていない」

 アキラの質問に渋面を浮かべて返すエリオット。

 それでは手がかりはなしかとため息をつく。

「それで、使者をだしておいてなんだが、慌ててここに来た理由はなんだ」

 アキラの問いかけに、エリオットはじっと視線を向けるだけで答えなかった。ただ、何かを試されているような気がするだけだ。

 やがて、自分の中で何かを納得したのか、エリオットが口を開いた。

「私は、今の状態が非常に不味いと考えている」

 このままでは、周辺諸国を巻き込んでの大戦となってしまう。構図としては、帝国対諸国連合だ。しかも、協同国と本格的に戦争をするとなると、種族間での戦いであり、互いのどちらかを絶滅に追い込むまで戦う羽目、種族浄化だってあり得る。

「そこまでは無いと信じたいが、しかし、この戦いを始めたのはシルで、それに乗ったのは帝国だろう」

 いかにシルが帝国の統治を宣言したとして、戦いを回避する術があったはずだ。そのアキラの主張に、改めてエリオットが頭を下げた。

「確かに、帝国に非がある。だから、私はここにいる」

 シルの統治に浮かれて、命じられるがままにドラゴンへの攻撃を始め、人以上に精霊やドラゴンを大事にして信奉している獣人達の怒りを招くことなど予測出来たはずだ。

「シルの統治を止めさせる……。クーデターもどきを起こすか?」

 そのアキラの提案に、エリオットは意外にも素直に頷いた。

 説得のために、頭の中で問題点を洗い出していたアキラは、あまりにもあっさり頷いたエリオットに驚いていた。

「手は考えているのだろう?」

「ああ、先ずは帝都の武力、経済の封鎖で干上がせる。帝都内部に居住する獣人達を煽動、混乱を生じさせ、すべての責任をシルに被せて、おびき出す」

「おびき出す?正面きって戦うつもりか!」

 そのエリオットの言葉に、リーネとツキの顔見たアキラだが、二人はその視線にアキラの腕に抱きついた。

「ブルーは留守番だ」

「ふんっ、薄々気づいてるんだろ。シルの狙いがお前だって」

「ああ、シルを助けてやらないと」

アキラとブルーが交わす会話を、理解出来ぬとエリオットは頭を抱えた。

「エリオット、正直に言おう。お前が詫びる事などないんだ。この戦いは、シルとアキラの問題で、シルとアキラが戦う事でしか解決はできん」

「では、シル様は何故帝国を巻き込んだ!ただ、アキラだけと戦えば良かったではないか!」

 喉が張り裂けんばかりの叫び。何故国を、何故民を巻き込むのだと。

 ぽんと、ブルーがテーブルに飛び乗り、エリオットの肩に前脚を乗せた。

「これは俺の考えだが、恐らく古の盟約とは、シルと星の精霊ティターニアとが交わしたものだ。交わされたのは、俺が作られる前だと思う」

 それはブルーの想像であったかもしれないが、星の精霊が絡むこととあっては、恐らくは真実に近いのだろう。

 星の精霊はいわば創造主だ。

 ブルーが話した内容は、いわば知られざる神話が事実であり、それをドラゴンが敢えて語ったのだ。

 想像を絶する衝撃を、周囲に及ぼした。

「アキラ、ニアの真意は想像も出来ん。だが、シルを使って殺そうとしている」

「なぜ、俺が殺されなければならん」

「……、時と空間の精霊が、未来を見せたのかもな。何か将来起こる事があって、そこにアキラが関わる事を」

 衝撃を受けて、話すこともままならぬ周囲に比べて、この世界を良く理解していないアキラは、それほど驚いてはいなかったが、何故命を狙われるのか、いや、それ以上に疑問なのは、アキラがこの世界に転移してくることを、ニアは知っていたのか。

 そして何故、この世界に祖父がいるのかと。

 周囲が衝撃から立ち直りつつある中、アキラは逆に奈落に落とされたような気分であった。そして、それを助けるかのように、リーネとツキがしっかりと腕を握っていた。

「でだ、どうする?」

 落ち着いてはいるが、断固とした声でブルーはアキラに尋ねた。

「シルと正面きって戦う。そこで何かの答えが出ればいい」

 それに、ブルーは満足げにテーブルの上で伏せて、前脚に顎を乗せて目蓋を閉じた。聞くべき答えは聞いたとばかりに。

「主様、その時には存分に振るってください」

 右腕に抱きついたツキを見る。アキラと視線が合うと、ゆっくりと頷いた。

「初めて会った時を覚えてる?」

「もちろんだ」

「私はあの時から、アキラの味方だよ」

 アキラの左腕を抱きしめ、額を押しつけ、バサリと漆黒の獣の羽が、リーネの背中に広げられる。それを見たエリオットや、バス司令、ファイル、カロニアは驚くと共に、困惑の表情を浮かべた。

「リーネは破壊者ではない。俺がドラゴンとして保証する」

 というか、そもそもブルー自身が保護している竜の巫女姫である。改めていうことではないかも知れないが、言葉にすることは大事な事であった。

 また、リーネは人でも精霊でもないことをブルーは告げ、この場だけで他では一切口外しないように戒めた。

 もちろん、そのブルーの言葉に否やはない。アキラとリーネ、そしてツキ以外は拝跪して、従うことを態度で示した。そう、その中にはエリオットも含まれていた。

「それじゃ、帝都を締め上げようか」

 ブルーの宣言に、全員が頷き、金打音が響き、拳が胸に打ち付けられ、鞘が床を叩く音が天幕に響いた。


幼女もどき:「お淑やかだよ」

わんわん:「えっ」

社畜男:「えっ」

大太刀:「まったく、その通り」

わんわん:「これが身びいきというものか」

社畜男:「黒の羽根をばっさばっさしてるのに……」

幼女もどき:「ぶー」

……淑女ですよ。

言動があれだけど。


次回、明日中の投稿になります。

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