6-12
引き続き、
第6章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
何とか包囲を抜け出した帝国兵達を、連合部隊は追撃する事はなかった。包囲されて残った帝国兵を捕虜とするために手が割かれていたからだ。さすがに近衛が中心となっているため、捕虜となってからは見苦しい真似をする兵はいなかったが、それまでは最後の抵抗をする兵、近衛は少なくなかったのだ。
一部の地位が高い者には、フォイルあるいはバス司令が直接に説得をするはめになり、三カ国の指揮官が顔を合わせたのは、かなりの時間がたってからだ。
三人の中では、族長であるフォイルが最も地位が高く、自然と集まりの中で主導権を取らざるを得なかった。
意外とは言えないのだが、フォイルとカロニアが面識があったことにバス司令が驚いていた。外交などの外向きの事は人狐が受け持っているため、どうしても人虎の族長であるフォイルなどは、他との国とは接触がないと思い込んでいたのだ。
特に王国と協同国では、間に財団や帝国、守護地があるため、外交もあまりなかったからだ。
「カロニア伯爵には、救援の礼を」
「元伯爵だ。今は隠居の身、救援も王命に従ったまでのこと」
相変わらず、カロニアは剣を杖代わりにしており、鞘の切っ先で地面を叩いていた。恐らくは、何か含むものがあるのだろうと、バス司令は警戒をする。王国にいた頃に、あまり良い噂も聞いていない。
だが、そんな事に構うことなく、フォイルが言葉を続けた。
「良ければ、王命の内容を聞かせてくれないか?」
その言葉に、じろりとカロニアはフォイルを睨んだ。
厳密に言えば、王命を他国に漏らすことはあり得ない。また、聞くのも外交儀礼上では失礼にあたる。
これはしまったと、バス司令が間に入ろうとするが、意外にもカロニアはフォイルに語り始めた。
「厳密に言うと、王命ではない。ウンディーネ様から頼まれたからだ」
どうやら、ディーネが動いていたようだ。カロニアが言うには、ディーネから王国からの救援であることを表沙汰にするなと命じられているのだ。故に白羽の矢が立ったのが、隠居しているカロニアであったのだ。
最初、王宮で王命を受け取った時は断るつもりであったカロニアだが、すぐに現れたディーネから頼まれたのだ。
王からではなく、信奉し、長きにわたって王国を守り続けている大精霊からの願いである。王の命には伏する事はなくとも、その功績と王国への愛情の深さを知っているカロニアは、ディーネの願いを断る術など無かった。
「トカゲの親玉を助けるなど、業腹であったがな」
「では、我々に協力するというのだな」
「あのウンディーネ様が、手を取ってわしに頼まれたのだぞ。スカイドラゴンを助けてと」
その時を思い出しているのか、カロニアは目蓋を閉じて、天を見上げていた。それはまるで、感涙を零さぬようであった。
「全力を尽くす。フォイル殿の麾下に加えて貰おう」
わかったとばかりに、フォイルが手を差し出すと、それを握り返すカロニアだった。
癖の強いカロニアであったが、言行は一致している事は良く知っているバス司令は、胸をなで下ろすのであった。
ここに王国、財団、協同国の連合部隊にて帝都を攻略することになった。
三人が集まっているのは、戦いが行われた場所から、少し下がった丘の上に設けられた、偽装された天幕であった。三人は天幕から出ると、帝都を見下ろす。
「後続に捕虜を預けるまでは、ここで滞陣だな。捕虜の管理はバス殿に任せたい」
「承った。ここで大休憩をとるのも悪くはない。兵も疲れている」
「迂遠だな。だが、仕方あるまい。兵馬を労るとしよう」
すぐにでも帝都攻略を始めたい姿勢を見せたカロニアだが、さすがに国境を突破して、駆けに駆けさせたがために、ここで一旦は休憩をとることに異存はないようだ。
それになんと言っても、三カ国で連合を組むとなると、ある程度の編成を見直す必要がある。しかも、三カ国とも騎馬の部隊だ。先の戦いは獣人兵が馬を下りて歩兵の代わりを務めたものの、本職ではないため、都市へ攻撃に使うのは難しい。
さっそく、三者はどうしたものかと、頭を悩ますことになった。
天幕に戻って、すでに入手していた帝都近辺の地図を広げ、三者は額を突き合わせて相談を始めるのだった。
その相談も、夕刻になり、一旦止めて明日にしようとなった時、警備の兵が駆け込んできた。
一番の上位者であるフォイルが、報告を受ける。
「実は、スカイドラゴンとその縁者と名乗る一団がまいりました」
その警備の兵は当惑気味だ。
「ふむ、その一団に犬はいたか?」
脇からカロニアは口を挟む。その質問にフォイルがなるほどとばかりに首を縦に振り、バス司令は首を捻った。ただ、フォイルはブルーと話した訳ではないので懐疑的な表情を浮かべているが。
「おりました。馬の首筋に乗っておりました」
それを聞いたカロニアは、フォイルとバス司令に視線で許可を求めた後、ここに案内するように告げた。
「犬に変化しているとは聞いているが、本当なのか」
「わしは、その変化する場にいた。確かだ」
フォイルの疑問ももっともだと、カロニアがその時の状況を二人に話して聞かせる。そんな事で時間を使っていると、警備の者に連れられて、アキラ達が天幕に入ってきた。
アキラの姿を見たフォイルが、すぐさま膝を地面に突いた。
バス司令とカロニアはその様子に驚いていた。人虎の族長といえば、プライドが高く、筆頭族長であるサイモンにすら、拝跪はしようとしないからだ。
「ご挨拶遅れて申し訳ございません。ゴサイン様にご伝言お願いいたしましたとおり、人虎は私を筆頭にあなた様の麾下に参じます」
それを聞いたアキラは、ツキにすでに言われて心の準備を整えていたにも関わらず、どうしたものかとブルーを見下ろして助けを求める。
「受け入れるんだろ。堂々としておけよ」
「犬がしゃべった」
フォイルは聞かされていたので、少しだけ驚いただけだが、やはりバス司令は他人と同じ台詞を言い、他人と同じくいつものように驚くのだった。
わんわん:「トカゲの親玉……」
幼女もどき:「わんわんはわんわんだよ」
社畜男:「犬なのに、トカゲ呼ばわり」
わんわん:「……もう、なんて言ったらいいか、わかんねーよ」
社畜男:「精進しろ」
まさしく。
次回、明日中の投稿になります。




