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引き続き、
第6章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
モス帝国 帝都ロンデニオン 近郊 草原
帝国近衛騎兵の圧力を受けて、財団傭兵部隊の後退を指揮しているバス司令は、逆側の同様に後退しつつある、もう一つの傭兵部隊の動きを見ていた。
一気に下がっては、帝国近衛の全力が獣人歩兵達に向かってしまい、瞬く間に包囲されてしまうであろうから、バス司令は近衛騎兵を釣り出すように、傭兵部隊を慎重に後退させているが、逆の側ではそれが上手くいっていないようだ。
国境警備の騎馬部隊の指揮官にそちらを任せていたのだが、やはりバス司令ほど指揮能力は高くなく、かろうじて被害を抑えつつ後退していたが、うまく釣り出せているとは言えなかった。
だからといって、騎馬部隊の指揮官が無能だったわけではない。直前に策を説明されただけにしては、上出来だと言えよう。ただ、ここはモス帝国の深くにある帝都目前。被害が生じたからと言って、騎兵の補充は不可能なのだ。
歯ぎしりの音を立てて、バス司令は獣人歩兵へと視線を向ける。
獣人歩兵達は、帝国歩兵部隊に向けて、矢尻を作りつつあった。最初は面でぶつかり合っていたが、脇を帝国近衛騎兵に圧迫され、陣を縦長くせざるを得なかった。いや、縦長くしたのだ。
長方形の陣が、フォイルを先頭にして矢尻の形を作りつつあった。近衛騎馬がサイドから責め立てているが、それは獣人ならではの、魔力の硬化に長けた者を配置することによって防いでいた。
確かにバス司令が事前に言っていたように、獣人兵には負荷がかかっていたが、魔力の硬化というものに、帝国近衛は戸惑っている。
帝国は人とは争ってきたが、協同国と争うことは少なく、獣人兵との戦いに不慣れであった。剣や槍ではなく、無手で向かってくる獣人兵達。要所を魔力で硬化して戦う様に戸惑わずにはいられなかった。
フォイルを中心とした獣人の最精鋭が矢尻の先端に立ち、帝国歩兵の陣をじりじりと穿ち、穴を開けようとしていた。バス司令はそれを助けるために、そして続く動きを用意しなければならなかった。
フォイルが作ろうとしている機を逃す訳にはいかない。盾を割り、帝国歩兵を宙に舞わせて進んでいく、獣人兵が作った矢の陣。ばらばらと、魔力が剥がれて戦闘不能になった者達が、後方へと逃れていく。
矢の陣がどんどん小さくなっていくのだ。
だが、その時が訪れる。
フォイル達獣人最精鋭が穴を開け、帝国歩兵の後方へと飛び出たのだ。
それを見たバス司令は、麾下の騎馬部隊に反転を命じた。
帝国近衛は獣人歩兵部隊の脇を突くために分けられていた。倍する以上の部隊に向かっていたのだが、それは追撃であったからこそ出来たこと。それが、自軍を圧倒する兵力が一斉に反転して向かってきたのだ。
一気に圧倒され、蹴散らされる帝国近衛。
帝国歩兵に開けられ穴からは、どんどん獣人兵達が帝国歩兵の後方へと抜けて、逆に背後から包囲しようと広がっていた。
しかし、帝国近衛騎兵の外から包囲出来たのはバス司令側のみ。もう一方の傭兵部隊は、反転はしたものの、帝国近衛と乱戦となっていた。
一方の脇だけが反転しても、帝国兵達すべてを逆包囲する事は出来ない。
騎兵同士で乱戦となっている側から、帝国兵達は逃れて、態勢を整え直すであろう。恐らくエリオットは伝令を出して、仕切り直しを画策しているはず。だが、そうなれば兵の補充が効かない連合部隊が不利になる。再戦は避けねばならなかった。
麾下の騎馬を分け、迂回して逆側面を突くかと、バス司令が考え始めた時、草原の向こうにあった森の脇に砂塵がたっていた。
それを見たバス司令は、帝国の増援と思い、顔をしかめたが、帝国兵が浮き足立つ様に、改めて砂塵に視線を向けて、目を細めた。
向かって来た砂塵は草地に入るや、騎馬の部隊が姿を現した。その装備を目にしたバス司令の顔が綻んだ。
「王国の騎馬部隊。先陣はカロニア伯爵、いや元伯爵か」
バス司令の見ている前で、騎馬同士の乱戦を覆うかのように展開していく王国騎馬部隊。
ここに包囲は成った。
帝都から蒼龍の守護地に向かっての方角に、森があった。その一角から顔を出す者達がいた。
アキラ達である。
「ガチンコで合戦してるな」
協同国と傭兵部隊、そして新たに加わった王国騎馬部隊により、帝国兵は完全に包囲されていた。
このままでは、帝国兵達は殲滅されてしまうだろう。恐らく指揮しているエリオットは撤退、ないしは降伏の手立てを考え始めているはずだ。事実、帝都近くに設けられている本陣では、遠くからでも慌ただしい様子が見て取れる。盛んに伝令が走り出しているのだ。
「どうする?魔術で吹き飛ばす?」
アキラの隣で物騒なことを言い出すリーネに、アキラは絶対に止めてあげて、誤射するのが目に見えているからと。
「個別に狙えばいいでしょ?」
範囲攻撃ではなく、一人一人を狙撃していくとリーネが主張する。やはりシルとの戦いで、魔術を使えなかったのがよほど悔しかったのだろうか。
「いや、もう決着はつくから」
答えたアキラは、後方で草を食んで待っていた精霊馬達と、その世話をしていたツキを手招いた。
そこで気配を感じたアキラが視線を向けると、その先にはローダンが立っていた。
「どうしてこのタイミングで?」
そのアキラの疑問に、ローダンはにっこりと笑う。
「そろそろ兵ではなくて、商人の出番でしょう」
もっともだとアキラは同意する。見た限り、連合部隊で帝都は攻めることは出来ても、ただそれだけになってしまう。攻めた後をどうするかが、特に今回は重要であった。
帝都を攻撃する事で、帝国の民に圧力を加えて、なんとしてもシルを盟約から解き放つ力となってもらわねばならない。
武は見せた。
次は経済だ。
社畜男:「人は武力で戦うのではなく、経済で戦うべきなんだ」
わんわん:「血を流す外交が戦争、血が流れない戦争は外交」
幼女もどき:「(びっくり)」
大太刀:「賢そうなことを言っても無駄ですよ。所詮は居候と犬なんですから」
社畜男:「ぬぐぐっ、居候って言うな!」
わんわん:「犬扱いするな!」
大太刀:「ならば、稼いできなさい」
わんわん・社畜男:「…………」
わんわんは大金持ちなんだけどね。
次回、明日中の投稿になります。