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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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1-12

誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 翌日、まずは一軒の商店で商談を済ませた後、一行はローダン商会を再び訪れていた。

 昨日に果たされなかった、ローダンが薦める商品の説明を聞くためだ。いろいろと便宜を図ってもらっている以上、お薦めからも、何点か購入するのが礼儀であろう。

 いくつか、良さげなものを、ツキが選んで購入していく。アキラとリーネ、ブルーは蚊帳の外だ。ブルーに至っては、やはりエールを飲んでいたが。ローダンは昨日同様、アキラの腕を抱きしめて密着したままで、リーネは頬を膨らませている。

「さて、商談も終わったことだし、時も良し。お昼にしましょう」

 ローダンの言葉を合図に、全員が立ち上がった。

 束縛から解放されたアキラが、ほっとしたため息をつくとき、ローダンがリーネに耳打ちしていた。

「ありがとう、リーネちゃん」

「……いいよ、気にしないで」

 さらに言葉を二三交わすが、それは二人だけにしか届かないものだった。

 明るくなった表情のリーネがアキラの腕に抱きつく。

 その様子に満足げな様子で、ローダンが先に立って店の奥へと全員を案内した。 

 途中でアキラは手洗いへと寄り、皆からは遅れて部屋へと入る。

 通された部屋は、会議室の体裁を取っていたが、内装や調度品は豪華なものだった。恐らくは、店先で出来ない商談、しかも上流階級が客の時に使っているのだろう。

 テーブルには、すでに食器類が並べられており、後は料理を待つばかりとなっていた。

 特に指定される事はなかったが、短辺にローダン一人が座り、彼女の左手にはブルー、ツキの、右手の方にはアキラ、リーネの順に席を取る。


 何かの合図があったのか、すぐに食事は運ばれてきた。昨晩の宿での夕食とは違って、一品ずつ運ばれて来るコース形式となっていた。慣れない様子のアキラが、ナイフやフォークの配置をじっと眺めている。やはり、使う順番などがあるのだろうか。

 アキラの様子に、ローダンがわざとテーブルに肘をつき、両手を組んで笑いかけた。

「マナーなんて気にする必要ないのよ。おいしく、好きに食べてくれたら」

「不快にならない程度には」

「ええ、それでいいの、それが嬉しいわ」

 温かいまなざしと言葉。アキラの緊張もほぐれていく。

 一品目の配膳が終わった。

 アキラやツキは、給仕をする者からワインを勧められたが、断って水だけを頼んだ。ブルーは相変わらずエールで、これは頼みもしないのに、似つかわしくもないジョッキになみなみと注がれてすでにある。

 ローダンの前には、ワインが用意される。

 特に乾杯もなく、「さぁ、食べて」とのローダンの言葉に、昼食が開始された。

 当初は近況の報告などがされていた。主にブルーが行った改装の説明だったが、ローダンはログハウスへ訪問したことがあるのか、的確な相づちと質問を行う。

「そういえば、うちと契約している星見の者が、守護地(フィールド)に星が落ちたと報告してきたけど」

 何が落ちてきたのと、ローダンがたずねるが、一瞬自分の転移の件かと思い、アキラが首をすくめた。とくに、転移したことを説明はしていないが、精霊であるローダンが知っていてもおかしくはない。

「……忘れてた。精霊が何か落ちてきたって言ってたな」

 呆れたことに、ブルーは忘れていたようで、逆にアキラは自分のことではないと知り、安心していた。

 守護地(フィールド)は南北に延びる、いびつな楕円に近い形であり、北には帝国、東に財団(ファウンデーション)、西には王国と境界を接している。その西の境界、王国から守護地(フィールド)に入った近辺で、何かが宙から落下してきたのを、星見の者が観察していたのだ。

 星見の者とは、宙を観察して、世界で起こる事を予測するといった作業をしている。いわゆる占星術師に近いが占いではなく、多分に非科学的な想像が混じってはいても、天文学者に近い。

 落下したのが、王国から守護地(フィールド)に入った近辺とあっては、調査にも行けず、何の予兆かと星見の者達が騒いでいるのだと。

「帰りにでも寄るか」

 同意を求めて、ブルーが視線をツキに送る。

 一瞬考え込んだ様子だが、ツキは頷き返した。

「境界と言えば、帝国と財団(ファウンデーション)が揉めているようね」

 ローダンが思い出したように口にした。

 帝国はその領土の南方にて、守護地(フィールド)ばかりでなく、財団(ファウンデーション)と王国とも国境があった。財団(ファウンデーション)と王国は、守護地(フィールド)を挟んでいるため、国境は接していない。

 基本的に、国境を接する国家は、外交上あまり仲良くはない事が多い。逆に緩衝地帯があれば、冷静な外交が行われる場合が多いため、財団(ファウンデーション)と王国は比較的、友好な外交関係にあった。軍事についても協力態勢にある。

 しかし、守護地(フィールド)を中心とした三カ国では、帝国が突出した国力を有しており、守護地(フィールド)、いや個体一つで国家を上回る力を持つブルーという、対応の読めない存在がなければ、財団(ファウンデーション)と王国は制覇あるいは属国化されていても、おかしくはないほどの開きがあった。

 財団(ファウンデーション)と王国は巧みな外交政策で、時には守護地(フィールド)という空間を利用して、時には手を携えて対抗してきたのだ。

 その対策の中には、帝国の要求に従い、人質を送るという手段も含まれている。

 人質というとあからさまであるため、要求する帝国は、自国を知ってもらうために、そして、将来にわたって近隣諸国と友好を結ぶために、王族、特に国主の直系の留学を求めていた。

 国力の差からも、屈辱を感じながらも他国は受け入れるしかなく、途切れる事なく留学という名目の許で、人質の差し出しは行われていた。

 ただし、これは帝国ばかりに利があるのではなく、最高学府への留学であるため、進んだ帝国の文化や技術を、将来の指導者達が学べることは差し出す側の利でもあった。

 さらには、帝国の最高学府で、最高権力者の子弟が、一緒に机を並べて学んでいるのだ。もちろん留学であるため、学業ばかりでなく、スポーツや遊びでの交流も行われる。

 最終的に、外交とは国家間の交渉であっても、人とのつながりが武器となる場合が多いのだ。

 そして現在、未だ表立ってはいないものの、水面下で帝国と財団(ファウンデーション)が揉めているというのだ。

「領土的なものではなくて、食料の価格や輸出に関する事よ」

 実は、帝国は領土的な野心はないといった態度を示し続けているが、政治や経済に深く関わるものは、国力の伸張と防衛的な見方から、いつかは近隣を支配しなければ停滞に陥る事を知っていた。

 過去、帝国は財団(ファウンデーション)や王国と国境を接していたわけではない。間にあった諸国を帝国が武力や外交で合併した結果だ。

 その合併した領土も落ち着き、帝国本土と同等の統治を受け入れるほどには同化し、時代を経ている。

 帝国は、その領地中核の安全を守るために、自国領土で戦う事を嫌う。外部への侵略行動が基本にならざるを得ない体制なのだ。帝国が帝国たる所以だ。決して、国境線が防衛線ではないのだ。常に国境線の外での戦いを望む。

「経済で揉めているのなら、静観でよろしいでしょう」

「そういうことだな。財団(ファウンデーション)と仲良しの王国がどう出るかだが、俺には関係ない」

 ツキの指摘にブルーが応える。武力が絡むのではなければ、当面は守護地(フィールド)には影響がないと判断していた。逆を言えば、武力行使で守護地(フィールド)に影響あれば、対応すると言うことだ。

「気まぐれ起こしては駄目よ」

 クギを刺すローダン。ブルーの気まぐれ一つで、国家に滅亡も含めた影響があるようだ。

 食事も終わり、給仕がデザートと食後の飲み物の注文を取って回っていた。

「えっ、アイスクリームあるの!私それにする!種類?全部に決まってるよね!」

 リーネのはしゃいだ声が大きく響く。

 あるのか、アイスクリーム。

 減温と保冷に科学反応とか機械は使ってないんだろうな。魔術の力業で解決しているのだろうと、アキラは魔術師と手伝う精霊を気の毒に思う。しかし、思うだけで、しっかりと頼みはしたのだが。

 さすがにリーネのように、全種類制覇は無理だ。アキラは腹の具合を考え、プレーンなものを一種類に止めておいた。

 アキラの皿に一つしか盛られていないアイスクリームを見たリーネ。山盛りのアイスクリームにスプーンを差しながら、こてんと頭を傾げる。

「アイスクリームだよ、アイスクリーム!一種類で大丈夫?」

「いや、リーネこそ、後で腹を壊すぞ」

「大丈夫!」

 何が根拠か、えらく確信している様子。

「別腹だものね!」

 それが根拠か。いや、リーネには別腹が存在するのか。なんと言っても異世界の住人だ。

 とりあえず、めったに食べられるものではないようで、アキラはそれ以上突っ込まなかったが。

「あら坊や、一つでいいの?」

 見れば、ローダンの皿もアイスクリームがてんこ盛りになっていた。

 まぁ、精霊だから大丈夫なんだろうと、まさしく異世界の住人だし。


 騒がしくも昼食を終え、ローダンは商会の出口まで見送りについて来た。

「何人かしら?」

「十六程度か」

 ブルーが応えると、ツキもそれに頷く。

「この国の暗部だと、二班ね。様子からして、保護ではなく、監視。何かしでかす訳でもないのに」

 それとも、何かしでかすのかと、からかうようにローダンは続けるが、ふんっと鼻息一つで返事するブルー。

 どこまでも丁寧なツキが頭を下げる。

「お世話になりました」

「いえいえ、良いお客様への対応として、当然よ」

「また、参ります。そのときは……」

 首を左右に振るローダン。

「私も、大丈夫よ」

 無言で改めて頭を下げるツキ。

 それを最後にして、一行は商会を離れていく。その背後を見送るローダンが、こぼれるようにつぶやく。

「大丈夫よ」


次回、本日の夕方くらいに投稿いたします。

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