表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
119/219

6-10

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 帝国側では、すでに獣人兵と財団(ファウンデーション)傭兵の連合部隊が帝都近郊に来ており、近衛が集結している前面の丘向こうで陣形を組み始めていたことは掴んでいた。

 その情報を伝令から聞きつつ、エリオットは正面きっての戦いは避けられないと悟っていた。

 すでに、帝王から預けられた近衛と帝国兵には陣形を組むように指示は出していた。図らずも、連合部隊と同様に歩兵の集団を中心に、両脇に騎兵を配置するものであった。

 帝国の歩兵は方陣を組んで、盾でがっちりと固めて突撃するのがやり方で、騎兵は精鋭中の精鋭である近衛が前面に立っている。

 いかに獣人の身体と視力が人を凌駕しているとはいえ、帝国が圧されるとはエリオットは考えていなかった。同数であれば拮抗か帝国による蹂躙だと。

 やがて時がたち、丘の上に連合部隊が姿を見せる。

「ほう、寄せ集めにしては連携が取れている」

 エリオットが、驚いたように声を上げた。すでに、帝国の陣形は組終わっている。連合部隊の進軍に隙あれば、突撃の命を与えようと考えていただけに、驚きは隠せない。

 侮るつもりはない。すでにここまで、帝都近郊まで侵入している部隊の指揮が、人虎族長であるフォイルと、財団(ファウンデーション)傭兵部隊の司令であり、元王国筆頭近衛騎士であり、元王家指南役であるピーター・バスである事は知っていた。

 フォイルは拳聖であり、族長である。人心掌握は完璧であろうし、戦術戦略に長け、戦いの経験が豊富なバスでそれを支える。いや、聞くところによるフォイルの性格では、バスに指揮権を渡しているかもしれなかった。

 同じ陣形であれば、兵の質と指揮官の能力が戦いの趨勢を決める。エリオットの能力が試されるのだ。

 今回の戦いは珍しく、魔術師や弓兵の参加が両軍にはなかった。連合部隊は単に速度を重視したため、部隊として魔術師と弓兵を同行させなかったのが理由だが、帝国側は、今回は初戦ということで、魔術師と弓兵は王宮防衛のために温存したためだ。エリオットは反対したのだ。この初戦にすべての力を使うべきと首脳部を説得したが、恐怖がそれを阻んだ。

 隊列を崩さず、連合部隊は丘を下りると、距離をとって帝国と対峙した。

 どちらが先に動くでもない。

 両軍は示し合わせたかのように、同時に突撃を開始した。

 突進のスピードから、歩兵の両脇に配置されていた騎兵同士が戦いの先陣をきることとなった。

 幸い、草地であるため、砂塵が舞うこともなく、見通しが良く、後方にて指揮を執るエリオットには戦う様子を見回すことができた。騎兵は財団(ファウンデーション)の傭兵部隊で構成されている様子。

 お互いの騎兵は、幾つもの矢尻の陣でもって突撃を行い、矢尻の先同士が激しく剣戟を交え、相手の陣を突破しようとしていた。

 僅かに重装備であったため、速度では負けているものの、その重装備のおかげで、矢尻の先端が接触した時には、帝国がじりじりと傭兵の騎兵部隊を押し始めた。

 騎兵部隊を突破されれば、歩兵部隊の側面に回り込まれるため、お互い譲れぬ戦いであったが、さすがに帝国の精兵、近衛部隊が敵を押しこめていた。

 強力な前進に、じりじりと傭兵部隊が押し下げられていく。

 やがて、騎兵同士の戦線で拮抗が崩れる。

 弾かれたように、財団(ファウンデーション)の傭兵部隊が後退を始めたのだ。

 近衛騎兵の前線指揮官は、素早く兵を分ける。

 追撃に差し向ける部隊と、包囲のために歩兵の脇を突く部隊だ。

 獣人歩兵は前面が帝国歩兵、横からは帝国近衛騎兵によって包囲されつつあった。今や、前面の歩兵が掲げる盾と、騎兵の剣戟によって責め立てられる獣人歩兵達。

 帝国近衛騎兵からの圧迫で、帝国歩兵に向かう面が縮小して、獣人歩兵の陣が細く長く伸び始めていた。

「勝ったな。包囲殲滅だ」

 戦いの帰趨にエリオットは安堵のため息を突く。


 帝都から王国を臨む方角に、僅かな砂塵が舞っていた。

 その砂塵のなかで、馬を操り騎兵を率いる老兵がいた。

「トカゲの親玉を助けよとは。隠居したわしに、皮肉な願いを出すものよな」

 馬上でにやりと笑い、騎兵部隊を急がせるのであった。


魔王支配地域 魔王邸

 魔王の住む場所にしては、小さくて質素であった。常々、副官のフレイが城の建築、あるいはせめて大邸宅に住むように苦情を申し立てているのだが、魔王であるオベロンは聞く耳持たずであった。

 その、良く言えば質実剛健を好む、悪く言えば貧乏性な魔王は、厨房の内部でその大きな身体でうろうろとしていた。

 何かを探すかのように、精霊の力で稼働している冷蔵庫を開け、幾つもの戸棚を開け閉めしていた。

「あらあらどうしたのですか、忙しないですね」

 振り返った魔王オベロンは、いつの間にか現れたエンを見つけていた。胸を持ち上げるように腕を組み、背中には羽がゆるゆると羽ばたいていた。

「いやそれがな、朝飯が食べたいのだが」

「ディーチウは?」

 メイドの名前を告げて、尋ねるエンだ。周囲を見回してみるが、普段は離れることなく世話をしているメイドの姿がない。気配を探っても近くにはいない様子。

 後頭部を手で掻いて、魔王が気まずげに答えた。

「他のメイドと一緒に、今日は休みをやった」

 その言葉にエンは驚きの表情を浮かべた。あの魔王大好きで、絶対に離れようとしないディーチウが休みをとっているというのだ。

「あらあら、槍でも降るのかしら?」

「そんなことは無いだろう。ディーチウだって休む権利がある」

 それを聞いたエンが、口元に手の平をあてて、くすくすと笑った。

「あの()に権利なんてあったのかしら?あなたが好きで好きで側でお世話をしているのに」

「言ってやるな」

 くすくす笑いを続けながら、冷蔵庫を開けて中を覗き込んだエンは内部にあった食材を確認する。

「それでは、私が作ってあげましょうか?」

 後頭部を掻き続けていたオベロンが、二人分を頼むと答えた。

 人数を聞いて、頭を傾げるエンだが、ふと思いついた。

「フレイの分もですか?」

「そうだ、いつも朝は一緒する事にしている」

 ならば、オベロンは副官であるフレイの朝食を自ら用意しようとしていたのか。

「あらあら、仲の良いことで」

「うるさい」

 そう言い捨てて、逃げるようにしてオベロンは厨房を出て行くのだった。


 食堂のテーブルには、二人分の朝食が並べられていた。席に着いているのは、魔王のオベロンと、その副官であるフレイだ。

 いつものように姿を現したフレイは、エンの姿を見つけて硬直、すぐさま床に膝をつけた。ご多分に漏れず、エルフであるフレイはリシア共和国の出身であり、エンへ多大なる敬意を抱いており、信奉していた。

 テーブルに配膳をしていた様子に、慌ててフレイは自分がと申し出たのだが、やんわりと拒絶され、席へと座れと命じられて従わざるを得なかった。

 エンの作った朝食は、ダブルの目玉焼き(サニーサイドアップ)とかりかりのベーコン。オリーブオイルとビネガーを混ぜて味を調えたドレッシングのかけられたサラダに、ストックされていたコンソメに、適当な肉と、サラダを作った際に余った野菜の切れ端を放り込んだスープ。それと毎朝届けられているのであろうパンが添えられていた。

 まっとうな朝食であったが、大食漢であるオベロンの前には数人分に相当する量が置かれていた。

 オベロンとフレイに絞った果実のジュースを入れてやり、自ら飲むのであろう茶を入れてエンもテーブルについた。

 もりもりと口いっぱいに放り込んで食べるオベロンに、硬くなってギクシャクと食べているフレイをにこにこ微笑みながら眺めていたエンは、カップに一口つけてから声をかけた。

「伝えておいたわよ」

「そうか」

 エンの言葉に、誰へとは尋ねないオベロン。分かっているからであろう。フレイは、一瞬操るカトラリーを止めたが、すぐさま食事を再開した。

 それからは、誰も話さず、食器の音だけが食堂を支配した。

 やがて食器は空となり、エンが茶を配膳してから片付けていく。そこでもフレイが自分がと申し出たが、やんわりと断られてしまい、席で身を縮めて茶をすすっていた。

 茶のおかわりを注いだエンがテーブルへと戻った。

「見るに堪えないわ」

 それはとても静かな声。エンの言葉が食堂に静かに響く。それを聞いたフレイの眉が寄せられてしわが寄る。オベロンは茶の注がれたカップを弄びつつ応えた。

「必要なことだ」

「殺すの?」

「殺す」

 エンに答えたオベロンが立ち上がった。それに続いてフレイも立ち上がる。

(ふね)を用意。全艦隊出撃準備せよ」

「全力でしょうか?」

「もちろんだ」

 フレイはオベロンの答えに、素早く頭の中で計算を行う。

「準備にかなり時間がかかりますが?」

「許す。戦いそのものは長くなるか、短くすむかはあいつ次第だ」

 用意する兵糧等だと分かり、それに頷いたフレイが、足早に食堂を後にした。

「甘く見ない方がいいわよ。私も手伝いますから」

 その言葉に、オベロンは顔をしかめたが、ほんの一瞬の事であり、エンが気づくことはなかった。

「もちろんだ、くそ親父とドラゴン、大精霊まで出張って鍛えたんだろ」

 オベロンは鮫を思わせる、獰猛な笑みをエンへと向けるのだった。


社畜男:「鮫が笑うって、どんなだ?」

わんわん:「昔、ウ○フ○イというシリーズ作品があってな」

社畜男:「鮫が笑うんだ」

わんわん:「いや、笑うのは人なんだが」

社畜男:「……」

わんわん:「……話題になったんだよ。どんなだって」

社畜男:「犬が笑うよかマシか」

わんわん:「犬扱いはやめろ!」

トリビュートということで。


次回、明日中の投稿になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ