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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
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6-8

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

モス帝国 領土内部

 街道を砂塵を巻き上げて駆ける。

 ただひたすらに騎馬は駆ける。

 目指すは帝都。その一点のみ。

「駆けろ、駆けろ、駆けろ!」

 馬が潰れれば下りて、自らの足で駆けよ。そう叫びながらフォイルは先頭で馬を駆けさせる。引き連れるは獣人の種を超えて集められた精兵、馬はすべてが上位種であるホーンホース。

 フォイルが率いる部隊は、通常あり得ぬほどの速度で帝都を目指していた。

 目前に帝国兵の部隊が立ちはだかれば迂回をし、それが出来なければ突破を試みる。後続が追いつけば、戦いを任せて再び帝都目がけて駆け始める。

 やがて、街道が交わる場所にたどり着く。

 二つの砂塵が混じり合った。

「人虎の族長、フォイル殿とお見受けする」

 フォイルの横に一対の騎馬が並んで駆けていた。

「おおっ、お前が財団(ファウンデーション)傭兵のバスか!」

「いかにも、司令を務めておる」

 両者は馬上で視線を交わし合い、にやりと笑い合う。

「拳聖との共闘、楽しみにしておるよ」

「何の、元王国筆頭近衛騎士にして王室指南役、頼りにしているぞ」

 そのフォイルの言葉に、バス司令は苦笑を浮かべる。懐かしい思い出だと。

 剣と兵法の高みを目指し、王国を出奔してみたものの、その道は苦難の連続であった。いかに王国での地位に甘えていたかを思い知らされた。

 このままではと、挫けそうになっていたバスを救ったのは、他でもない、うち捨ててきた王国の王子であり、その天稟の才に嫉妬したのがバスの出奔のきっかけであった。恐らくは、若くして剣聖まで駆け上がる事は間違いは無い、その王子がバスに救いの手を差し伸べた。

 たった一言、師父よ、ご教授をと。

 天才が凡人から何を習うのかと、一度はその手をはね除けたバスだが、王子は言ったのだ。失礼だが、俺は偽の剣聖にはなりたくないと。

 それを聞いたバスは、過去に起きた事件を思い出していた。剣を取る者にとっては忌まわしき事件であった。そして、王子は真なる剣聖を目指すと。

 聞けば傲慢この上ない言葉であったが、しかし、バスはその王子の性質を知る故に、礼を受けいれる事にしたのだった。

 それは、ある国で起こった内乱、敵と味方が合い乱れる、醜い戦場での出来事であった。

「獣人兵に遅れをとるな、財団(ファウンデーション)傭兵の力を見せつけよ!」

 バス司令が叫ぶと、続く騎兵達が応と答える。

 それを聞いたフォイル。

「聞いたか、獣人兵の武を見せつけろ!」

 言葉は返らず、獣人達は胸を強く叩き、その音が答えとする。

「目指すは帝都!」

 フォイルとバス司令の雄叫びが重なる。

 重なった砂塵が街道を駆けていく。


モス帝国 帝都ロンデニオン 王宮

 帝王がくつろぐためのプライベートなエリアに設けられた居間にシルは姿を現した。執務室ではなく、この時間であれば、そこに帝王がいると考えてのことだ。

「おお、シルフィード様。いかがなされた」

 そののんびりとした言葉に、シルは舌打ちをしたくなるが、まだ情報が来ていないのだろうかと考えて我慢をした。

「協同国の動きは?」

「侵入は許しました」

 それは既定のことであり、それへの手当は軍部が行っていると返す帝王。

 協同国の獣人兵と財団(ファウンデーション)の騎兵部隊が帝都目がけていることは伝わっていない様子だ。

「この帝都に、騎兵が来る」

「いや、それは警備の兵が……」

「それは国境近辺だけの話しだ。抜かれれば、帝都まで兵はいない」

 それは効率の問題であった。帝国各地に兵を分散して配置するなど、ただ遊兵を作るばかりだ。兵とは集めて運用せねば、各個撃破されて終わりである。故に帝国では、蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド境界と協同国国境を警戒して兵を配置していた。財団(ファウンデーション)国境に配置していた兵も、獣人兵の侵入を受けて移動させていた。

 獣人兵と財団(ファウンデーション)の傭兵達は遮二無二の突撃で、帝都に向かっているであろう事は見ずとも分かる。恐らく薄く広げていた警備など、すでに突破しているはず。

「ならば、帝都守備の近衛を動かすまで」

「獣人兵だけではないぞ。財団(ファウンデーション)の騎兵部隊もだ」

 それを聞いた帝王の顔が歪む。獣人兵だけであれば寡兵と予測でき、近衛で対処は容易であるが、それに財団(ファウンデーション)の騎兵部隊が加わるとなると、恐らくは最低でも倍の兵力への対処となる。

 抜かったと、境界で再編成中の部隊を帝都に戻すなり配置を終えてから行動すべきだったと、シルはほぞをかむ。焦ったとは思いたくはないが、シルとエリオットの完全な判断ミスだ。リータを甘く見ていた。

「エリオットに兵を戻すように命じる」

 伝令を使っては時がかかるため、シルは自ら出向くと言い、何としても兵が来るまでは近衛で持たせよと命じた。

「しかし、シルフィード様が帝都防衛を……」

「皆まで言うな。もし私がそれをすれば、サインとノーミーはもちろん、リータまでもが帝都にやってくるかもしれん」

 いかにシルとて、大精霊三体が相手では分が悪い。

 そして、ノーミーが守護地(フィールド)にて帝国兵と戦うのとは意味が違ってくるのだ。あくまでもシルの目的はアキラとドラゴンの殺害であり、帝国の防備ではないのだ。

 シルの言葉に、恨みがましい表情を浮かべる帝王。なぜ帝国を守らぬのかと。だが、それを言うわけにはいかない。いかに大精霊が統治を宣言したとはいえ、帝国は帝国の民が自ら守るべきなのだ。ディーネに頼る王国とは違うのだと。

「分かりました。帝国は帝国の民が守りましょうぞ」

「すまんな。私のために……」

 そう言ったシルは、帝王の頬を優しく撫でた。いかに年老いた帝王とはいえ、長き時に渡って帝国を見守り続けたシルにとっては、帝王であっても幼子のようなものだ。そのシルの手に自らの手を添えた帝王には決意が浮かんでいた。

「さっ、エリオットのもとへと」

 帝王の言葉に頷くシルの姿が消える。

 手のぬくもりが、幼き日の記憶を蘇らせた。愛おしむように、立派な王となれと頬を撫でてくれたあの日の事を。

 シルを見送った帝王が、背筋を伸ばし、手にした王杓を振り声を上げた。

「近衛を!」


脳筋虎:「族長、拳聖、にやり」

司令:「国境警備隊司令、元筆頭近衛騎兵、元王室指南役、にやり」

わんわん:「ドラゴン、国王待遇、にやり」

幼女もどき:「王女待遇、にやり」

大太刀:「同じく、にやり」

社畜男:「……一般人、居候、ローダン商会見習い」

まあ、世の中そんなものだ。


次回、明日中の投稿になります。

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