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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
113/219

6-4

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

「ライラは、湖の上でも駆けれるんじゃーないの」

 アキラにしがみついたままのノーミーが帝国兵の塊の中で暴れるライラを見てつぶやく。

「それより、対策を」

 いかに拳聖であるライラとて、数に勝る帝国兵達の中で、いつまでも戦い続けるのは無理だ。生物である限りは疲れからは逃れる事は出来ない。ただ、その上限はとてつもなく高いのだが。

 すでに方陣のいくつかは、ライラによって壊滅して後方へと下がり始めているが、それでもまだ多くの方陣が健在だ。

 態勢を整い直して、ライラに数で対抗しようとしているが、それを緩んだ大地が邪魔をする。

 促すアキラの言葉に、腰にしがみついたノーミーが目蓋を閉じて集中を始めた。

 シルの魔術の構成を解析し、打ち消す術を探しているのだ。アキラはアキラで、ツキと解決の術を話し合う。

『主様の周辺にある空気の密度が上がっています』

「それじゃ、何故俺は呼吸できているんだ?」

 俺を殺すためなら、手っ取り早く顔周辺の空気を固化して、呼吸を出来なくなる様にすれば良いはずだ。

『魔力の外だけで、空気の密度が上がっています』

 なるほどと、アキラが頷く。つまり現在アキラが呼吸しているのは、魔力と身体に僅かにある空気によってできているに過ぎないのだ。魔力は空気を通す。そもそも魔力は激しい衝撃などに反応するのであって、通常は無きに等しい存在だ。そうでなくては呼吸は愚か、食事も摂れず、風呂にも入ることができない。人と人が触れ合うことすら出来なくなる。

「うまく出来ている」

『星の精霊のおかげです』

 それに頷くアキラだが、助けられているのは事実として、何か釈然しない思いがあるのだが。

「で、対策は思いついたか?」

『空気を破壊してください』

 ノーミーならば、範囲を限れば可能なはずとツキは言い切った。

 確かに周辺の空気を破壊すれば、アキラを束縛するものはなくなる。その代わり、呼吸する空気は、魔力の中にあるだけで、それがなくなればすぐさま呼吸困難となり、活動停止に追い込まれる。

「時間稼ぎか?」

『リーネとスノウも呼び出して、解析してもらいましょう』

 そのツキの提案は、リーネとスノウを前線に招くということ。危険にさらすと同義だ。

「賛成出来んな」

『ライラと主様で前線を構築。あの()達に賭けてみては?』

 前線の崩壊が先か、シルの魔術を解析、打ち消すのが先か。冷酷な賭けだ。人型のツキより、大太刀となったツキは冷酷、あるいは合理的なのかもしれなかった。確かにこのままではじり貧だ。良策がないのなら、何かに賭けるしかなかった。

「ノーミー、下がれ」

 そして、アキラの周囲の空気を壊せと命じた。

「お兄ちゃん、そんなの……」

「いいから。リーネとスノウを呼んで、シルの魔術を解析しろ」

 解析だけなら、自身の魔力だけで出来るはず。精霊がいなくとも可能だろうと。そして、早く指示に従えと。見れば、ライラの限界も近い。

 普段は脳天気なまでの明るいノーミーの顔が、涙で歪む。

「分かった……」

 その言葉と共に、アキラの周囲が真空へと破壊された。全身に纏わり付いていた空気から逃れたアキラが、足底を爆発させて、ライラが暴れる側へと飛び込んだ。

 素早く剣をなぎ払い、周囲に空間を作り上げる。

 戦力が単純に倍になった敵に、容易に踏み込めない帝国兵。

 先の戦いが嘘の様に静寂が訪れる。

 背中を合わせたアキラとライラ。お互いを隔てるはずの魔力が、触れ合い響き合って言葉を伝え合う。

「待たせた」

「ああ、待っている間、退屈はしていなかった」

 まるで、デートの待ち合わせのような、気易い会話。

 緩んだ大地の上を帝国兵達は方陣を動かして、二人の周りを取り囲んでいた。

 周囲を壁のように取り囲む帝国兵を見回すアキラ。

 自分の掛けた呪縛から逃れたアキラを見たシルは、その方法に気づいて兵達に声を上げた。

「ただの時間稼ぎ。押しつぶせ!」

 魔術で攻撃することも考えたシルだが、この場での近接行使には誤射がつきもの。それは避けたい。兵を案じる、そればかりではない。兵は帝国の民。いかに前線に駆り立てようとも、それはシルが大事にしている民だ。誤射などしたくはなかった。前線指揮官としては失格だが、シルは為政者としての立場を取るのだった。

 シルの命に、勢いづいた兵達が、方陣を組んだまま突撃を開始する。

 常であれば、速度を生かして蹂躙するアキラだが、今は限られた空気しかない。激しく動けばそれだけ酸素の消費は増大する。今は、リーネ達が解析を終えるまでの時間を稼ぐだけだ。

 背中で向き合うアキラとライラ。

 いかに兵が多くとも、殺到できる空間は限られている。しかも敵は二人。突き出す槍の数も限られ、剣と拳でそれを捌いていく。

 槍を折られ、盾を割られ、魔力を剥がされて方陣ごと下がる帝国兵。入れ替わるように後方で控えていた方陣が前に出るのだが、そのために生じる空白。それを利用して一息つくアキラとライラ。お互いの背に、激しい息づかいの様子が伝わってきた。

「拳聖だろう?もうちょっと頑張ってくれよ」

「ただの人がよく言う」

 呆れたようにため息つくライラ。

『主様こそ、もうちょっと頑張れるはずです』

「人使いの荒い剣だよな」

 アキラの言葉に、首を傾げるライラだが、それは改めて突き出されてくる槍に中断された。


 幸い、帝国兵達はアキラとライラに集中しているおかげで、リーネ達が固まるところにまで兵を差し向けてはいない。いや、シルの目にはアキラしか見えていないのかも知れなかった。現に、のんびりとした様子でブルーがリーネの方に向かって歩いてくると、その足下で寝転ぶのだった。

「わんわんも手伝ってよ」

 ぷーと、頬を膨らませてブルーに抗議をするリーネだが、どこ吹く風とばかりに、ブルーは自分の両足に顎乗せてのんびりとしていた。

「わんわん~。助けてよ~」

 だんだんと、いわゆる地団駄を踏んで、リーネの抗議に加勢するノーミー。スノウはスノウで、真摯な目でブルーを見つめていた。

 どうやら、そのスノウの純真な助けて視線に負けたらしい。やれやれとばかりにブルーが目を開いて頭を上げる。

「何か混ぜてんじゃねーの。ほら、アキラが物は状態を変えるって言ってただろ」

 その言葉に先ず反応したのはリーネだった。

「うん!水は氷や蒸気になるって。でも空気は?」

「だから、空気に何か魔術掛けて、抵抗を増やしてるんだろ?」

 そのブルーの言葉に考え込むリーネ達だが、ぽんと両手をスノウが打った。

「アキラに魔術を掛けているのではなくて、空気に魔術を掛けて、状態を変えているのですね」

「正解かもな」

 スノウとブルーの会話を聞いていたリーネとノーミーは、首を傾げて疑問符を浮かべていたが、今度はノーミーがぽんと手を打った。

「それでー、お兄ちゃんを解析しても分かんなかったのか」

 リーネとスノウが、その「お兄ちゃん」ってなんだと眉をひそめるが、今はそれを言っている場合ではない。

「それじゃ、アキラの周りに魔術的な空間が発生しているはず」

 いくらアキラを調べても、解析出来ないはずだと。リーネはじっと帝国兵の間で見え隠れするアキラの姿に目を凝らす。

「何も見えない」

 リーネががっくりと肩を落とす。どうやら、魔術に隠蔽を上掛けして隠しているようだ。だが、さすがに大精霊は違った。

「あーし、見えた!シルはわざわざ陣を作って、それ隠してるし!」

 魔術を何もせずに行使した場合には、その発動元と発動場所は魔力の流れを探る事で探知が可能だが、魔方陣を作り、それを発動元にして、更には陣を隠蔽することで、どこで魔術が行使しているかを隠すことが出来ると、ノーミーが説明を皆にしてやる。

「それじゃ、陣を崩して、早く!」

 リーネが言うよりも早く、すでにノーミーは陣に魔術を仕掛けていた。陣に干渉し、その書式を崩して霧散させる。

 ノーミーは、天に片手を突き上げる。

「やっちゃえ!お兄ちゃん!」

 その言葉で、アキラの周囲にいた方陣から、帝国兵が宙を舞うのだった。


J○?:「やっちゃえ!お兄ちゃん!」

幼女もどき:「(がっくし)……盗られた」

大太刀:「これが、横からかっさらわれた、と言うのですね」

と言うか、バー○ーカーじゃないんだから。


次回、明日中の投稿になります。

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