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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
112/219

6-3

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

「さあ、やるよアキラ、いやお兄ちゃん!」

 そのノーミーの言葉に、シルの手が上げられた。

「守ってみせな!」

 さっと振り下ろされると同時に、帝国兵の方陣が突進を開始した。

 アキラ目がけてて突き進む帝国の方陣だが、それはノーミーのシールドによって止められた。しかし、長槍には、シルが突破の魔術が発動しており、ギリギリと物理的な音をたてて、シールドを突き崩そうとしている。

 アキラの前に、面で展開しているシールドが、ギリギリと音を立てる中、大太刀の柄に手をかける。

「ツキ、頼む」

「分かりました、主様」

 ツキの身体が光り輝くと同時に、その姿を消した。

 消えたツキに、シルが苦い表情を浮かべる。

「そうか、本懐を遂げたか」

『ええ、私の行く道は、主様と共にあります』

 大太刀に宿った、いや、大太刀となったツキが思念波でシルに応える。

 大太刀の柄に手を添えたアキラが、右足を僅かに前に出し、腰を落として重心を下げた。どっしりと地に根を生やしたかのようだ。視線はノーミーのシールドを突き破ろうとしている帝国兵の方陣を越えて、じっとシルに据えられていた。

 左の足底に力を込め、足指で地を掴むかのように踏ん張ると、飛び込むために右足を上げ、それと連動して右手で柄を前に、鞘を後方に引く。引こうとしたアキラだが、それは成されなかった。

 前方へと走るはずの柄頭が、目に見えぬ壁にぶち当たり、それ以上前へと行かないのだ。

 ならばと、アキラは柄頭を目に見えぬ壁に当てたまま、踏み込むための右足の足底を地面に叩きつけて、後方への推進力とした。

 刃を動かして抜くのではなく、刃の位置はそのままに、身体と鞘を後方へと動かして抜こうとする。

 だが、それも遮られる。

 後方へと動き始めたアキラの身体と鞘が、またも見えぬ壁に遮られたのだ。

『!!、前後左右にシールドが張られています』

 ツキの驚いた声が、アキラの頭の中で響く。等身大の鳥かごに閉じ込められたようなものだと、その意を理解したアキラが眉をひそめた。

「どう逃れる」

『柄を逆手に』

 前後左右に壁があるのならば、次は上だと、アキラは逆手に柄を持ち直し、大太刀を上へと抜き、前の壁へと斬りつけるが、どうにも逆手では要領を得ず、ただ単に斬りつけたに過ぎず、ただ刃をシールドの上を滑らせただけに終わった。

「なるほどな、シールドの使い方もいろいろだ」

『感心している場合ですか。ノーミーもそろそろ限界です』

 ツキの指摘に、ノーミーへと視線を送るアキラ。そこには全身を震わせて懸命にシールドを維持している姿があった。

 たとえ大精霊であったとしても、他の精霊の協力があってこそ、魔術の威力は底上げ、上乗せが出来るのであって、ノーミー単体では簡単に限界がやってくる。その限界が人や獣人の魔術師を凌駕していたとしてもだ。

「お兄ちゃん、シールドが割れる!」

 その言葉が合図であったかのように、ガラスが砕けるような音が周囲に響き渡り、シールドを作っていた砂塵が吹き荒れた。

 すぐさま、砕けたシールドの後ろに新たに展開したものの、急いでいたために同じ強度のものが張れているはずもない。シールドが悲鳴を上げ、師団単位での突撃の圧力に、今度はたわむ様が目にする事が出来た。

「ノーミー、俺の後方に回れ。俺を盾にしろ」

「えっ、でも……」

 アキラの指示に戸惑うノーミー。しかし、早くしろと叫ぶアキラの言葉に、意を決してその背に姿を隠した。それを確認したアキラは、目蓋を閉じる。

 抜き身の刃を立て、右足を僅かに前に出す。いわゆる八相の構え。

 アキラは頭の中でイメージを組み立てる。

 シルの張り巡らせたシールドを斬り裂くための剣筋を。そのために使う筋肉、稼働する関節、足の運び。

 すべてが揃うのは、僅かの時間。

 二度目の割れる音と共に、アキラの身体が動いた。

 剣筋は不可視の壁を切った時を同じ。緩やかな、とても何かを斬り裂いている様には見えない。しかし、狭い空間の中を物打ちどころが的確にシールドをなぞる。それは瞬き一つの時間。

 不可視のシールドが破片となって、地面へと舞い落ちていく。

 後方へと飛ぼうと、アキラが足底に力を込めた瞬間、驚愕の表情が浮かんだ。

「さすが、ということか」

「私のシールドが無駄だって、そんなのは予測しているよ」

 にこりと、いやらしいばかりに優しく微笑むシル。

 アキラは自分では素早く動いているつもりであるが、端からみれば、それはゆっくりとした、まるで粘着物に絡め取られた者の如く、緩やかな動きであった。自分の意志と実際の差違がアキラをさいなむ。

 背後のノーミーが、何らかの魔術をシルがアキラにかけていることに気づき、背に手の平を当てて解除しようとするが、それも適わない。

「チョーやばい、シルの魔術の構成が読み取れない、って言うか魔術がない?」

「無理をするな。まだ魔力が剥がれたわけじゃない」

 一撃だけは受けきれるとアキラは、焦ることはないとノーミーに言い聞かせる。

 張り直したシールドに僅かでも負荷を増やさぬように、じりじりと下がっていくアキラとノーミー。

 一気に後方へと下がってしまうと、開いた距離を利用して帝国兵達は方陣に勢いを付けられるため、出来るだけ密接するように調整しつつ下がっていた。

 だが、そんな物がいつまでも続けられるはずもなく、時機をみて、一気に後方に飛びすさるなどして距離を置き、態勢を整えたいが、アキラの身体を絡め取っている魔術がそれを邪魔していた。

 額から流れ落ちる汗が目に入る。しかし、瞬きすらアキラには許されない。

「ノーミー、俺を抱いて、後ろに飛べ」

 それは賭けだ。シールドの強度が下がって、帝国兵が殺到する恐れがあったし、何よりも、後方へと飛べばリーネ達が避難している工場に近づく事になる。

 それを理解しているノーミーがためらう。

「やってくれ」

「……分かった。行くよお兄ちゃん」

 アキラの腰に抱きついたノーミーの背にある羽が一際大きくなり、一つ羽ばたく。それは物理に従ったものではなく、魔術の行使が形に表れたもの。

 大きく後方へと飛んだアキラとノーミーだが、飛翔の魔術の行使により、シールドの強度が弱まり、ガラスの破壊音と共に、帝国兵がシールドを突破した。

「地面を緩めろ」

 宙を舞ったアキラが、着地をする直前に、ノーミーに指示を送る。すかさず、着地と同時に、ノーミーは帝国兵達が殺到する前の地盤を緩めた。

 堅さを失った地面が、帝国兵達の足を捉える。

 前につんのめる、更には勢いを殺せず前のめりに倒れる、そして後方から続く兵達はそれに足を取られて更に転倒する者達が続出した。

 積み上がっていく兵達。恐らくは下敷きになっている兵は魔力が剥がれ、圧死の危険が生じているはず。

 前進を止めた方陣が、下敷きの兵達を助け、後方へと送る、その間に乗じて、アキラとノーミーは態勢を整え直す。この段にいたって、ライラを工場の警備に回しておく意味はない。

「ライラ、しばらく頼む」

 その言葉とともに、工場の前に立っていたライラが、地面を蹴って疾走する。

 緩んだ大地の上で固まりになっていた帝国兵に、打ち込まれた弾丸の如く、ライラが飛び込んでいた。

それは現実感を失うかのような光景。

飛び込んだライラの後には、四肢を泳がせて宙を舞う帝国兵達がいた。

緩んだ地面の上を、何事もないかのように駆けるライラ。

J○?:「……ぽっ」

幼女もどき:「はっ?」

大太刀:「えっ?」

人狼姉妹:「なっ?」

大精霊一同:「姉より強い、妹などいるものか!!」

無口娘:「私弱い?」

……おい、大精霊達……。


次回、明日中の投稿になります。

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