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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第6章 JUST BECAUSE
111/219

6-2

引き続き、

第6章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 もらった果実をかじりながらオベロンが向かった先は、一軒の平凡な邸宅であった。毎度の事なのだろう。フレイが邸宅に目をやり、首を左右に振った。

「オベロン様、城の普請を命じてください」

「必要ない。俺には砦があれば良い」

 そう言って、門に手をかけたオベロンの動きが止まった。それを見たフレイが素早く前に出る。

 そのままフレイを先行させて、門を潜って邸宅に付属している庭を横切ったオベロン。

 玄関のノブに手をかけたフレイが、じっとオベロンを見つめており、開けるように頷いたオベロンは、開いた玄関から中へと飛び込み、通路を駆けて食堂のドアを蹴破り入った。

 果実の乗ったかごを脇に抱え、鞘からすらりと大剣を抜き放ち、そのまま振り抜いた。

 ピタリと宙に停止する刃。

 食堂の真ん中に据えられたテーブルの椅子には一人の男が座っていた。片手を掲げ、オベロンの振り抜いた刃を、指先でつまんで止めていた。

「何を自分の家の中で暴れておる」

「このくそ親父が!」

 つままれていた刃を強引に引き戻したオベロンは、鞘に仕舞うことなく、だらりと脇に垂らし、抱えていた果実を側に来たメイドに渡した。

「切ってくれ。つまみにする」

 抜き身の剣もそのままに、オベロンは男の前の椅子に音も高く座り込んだ。その背後につくフレイ。すでに警戒の様子はなく、男に向かって一礼をした。

「良い酒飲んどるの」

「それ、一番良いやつじゃねーか」

 くそ、大事にしてたのによと毒づくと、先の果実を受け取ったメイドとは違ったメイドから、氷の入ったグラスに注がれた酒を受け取った。

 豪快に一息で飲み干したオベロンは、グラスを音高くテーブルに叩き置いた。

 すぐさまメイドが次の酒を作る。

 二杯目を味わうように、舐めたオベロンはじろりと男を睨んだ。その視線を受けた男は、右頬の傷跡を引きつらせて笑う。

「酒は飲んでこそじゃぞ。飾るもんではない」

「タイミングというものがあるだろう」

 そう言って、背後に立つフレイに、お前も座って飲めと命じる。フレイはそれに無言で従い、椅子に座る。素早くグラスを前に置くメイド。更には果実を切り終わったメイドがテーブルの真ん中に据え置き、三人に取り分けた。

 一切れ果実を口に含んだ男は、ほうと感心した声を上げ、上出来じゃなとつぶやいた。

「収穫を褒めてくれるのは良いが、用があるんだろ」

 早く話せと、オベロンは二杯目のグラスを舐める。

 男もオベロンのようにグラスを舐め、軽く振ってグラスの氷を鳴らした。

「覚悟はどうだ?」

 その言葉をきっかけに、男のグラスを隔ててにらみ合う男とオベロン。

 しばしの沈黙。

 その後に笛を吹く音が鳴ったかと思うと、テーブルの上ではオベロンが大剣で日本刀を受け止めていた。水平に薙がれた日本刀、その刃の上には男の持っていたグラス。その中の酒は波打ちすら立てていない。

「とうに出来ている」

「殺すのか?」

「殺す」

 次の瞬間、金打音が鳴ったかと思うと、日本刀は鞘に納められており、グラスは男の手に戻っていた。

「……因果なものじゃ」

 男はグラスの中を飲み干し、メイドに次をとばかりに差し出した。

 オベロンは男のその様子に、背を椅子に預けた。

「すべてはこの星のため。生まれを嘆いても仕方ない」

 オベロンの言葉に、男はガクリと力を抜き、身体を背もたれに預けた。

「せめて飲もうか。ほれ、確かフレイと言ったか、お前さんも飲め」

 男はそう言って、テーブルに身を乗り出し、フレイのグラスに自分のグラスを当てて、鈴の様な音を鳴らした。

「それでな、くそ親父。例の場所塞ぎ、どうにかしろ」

 それを聞いた男は、一瞬何の事かと首を傾げる。

 しばらく考えている様子だったが、思い出したのか、ぽんと両手を打ち合わせ、忘れておったと頭を掻くのであった。


蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 中心地

 シールドが霧散したことに、リーネは驚きの表情を浮かべていた。だが、その間にもアキラはサインに指示を飛ばす。

「サイン、頼む」

 それを聞いたサインは、一つ頷いて姿を消した。

「協同国に行かせたの?」

「姉上、良くお分かりで」

 からかうように、アキラはにやりと笑って応える。それを聞いたシルは嬉しそうだ。

 シールドが霧散したのは、精霊がすべて消え去ったからだと、リーネはサインの島での出来事を思い出していた。あの時も精霊がすべて消え、張っていたシールドも消え失せた。

 ならばとばかりに、雷撃を放とうとするが、やはり精霊は現れない。ノーミーはとリーネが視線を向けると、そちらもとまどった様な表情を浮かべている。ノーミーの周囲に現れていた魔方陣が消えていた。

 つまり、リーネだけの現象ではないのだ。恐らくは魔術の準備をしていたスノウも戸惑っているはずだ。

 少なくとも、この中心地付近には、呼びかけに応える精霊はいない。ノーミーはまだ良い。自らの力で魔術を行使すれば良いのだから。だが、リーネとスノウは精霊がいなければ魔術は行使できない。

「ノーミー、シールドを!」

 自分の代わりをノーミーに頼み、このままでは何も出来ないばかりか、アキラの足手まといになりかねない。

 そう判断したリーネは、ワンピースの裾を翻して、ライラのもとへと駆けだした。工場を守るライラと共にいれば、少なくとも戦いからは離脱出来る。

 背中で舞い踊る砂塵を感じつつ、工場へと向かって駆けるリーネ。精霊との交わりを断たれ、リーネは寂しさを思いつつ、懸命に駆ける。すると、スノウの異変を見て、同様であろうリーネを迎えに来たのか、ライラの姿が目前にあった。

「巫女姫、こちらへ」

 ライラに抱え上げられるようにして、工場へと飛び込んだ。

 それを確認したアキラが、シルに向き直る。その脇には自らが生み出した砂塵のシールドを拡大して、アキラの脇に駆け寄って守るノーミーがいた。

社畜男:「どうだ、今回は出番があったぞ」

わんわん:「……」

幼女もどき:「……可哀想」

社畜男:「えっ!」

……ノーコメント。


次回、明日中に投稿いたします。

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