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誤字脱字、直しつつ始めて行きます。
どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
無事に?用件を済ませて宿に戻ったアキラ達。市場の菓子店で動かなくなったリーネや、槌音響く工房の前で立ち止まって、付属していた武器屋の様子をしきりにうかがうツキといったトラブルはあったが。
一旦男と女で別れて部屋に入り、荷物を片付け、改めて合流して併設された食堂で夕食を取った後、風呂はなかったが、シャワーのような施設で汗を落としてくつろいでいた。
男同士、ブルーはベッドに寝転び、時折、取り寄せたエールを器用に寝転んだままジョッキで飲んでおり、アキラは窓から外を眺めていた。
しばらく、言葉を交わすこともない。
「外が明るい」
紛争開始間際の地区へ赴く事が多かったアキラ。普通の人間に比べて、夜は暗いものだと思っていた。今、目にしているのは、日本の地方都市に戻って、ビジネスホテルの窓から眺める程度には明るかった。大都市の夜の明るさからは、比べることは出来ないほどのものではあったが。
「精霊が明かりを灯してくれてるからな」
アキラのつぶやきに応えるブルー。魔術師と名乗れる者は少ないが、ごくごく簡単な魔術であれば、使える者も多いと。
魔術がそこまで暮らしに浸透しているのかと、感心するアキラ。外を見て、少々まぶしく思い、「明るいのは良いことだ」とつぶやく。
少なくとも闇を塗りつぶし、見えなくしてくれる。
それが欺瞞であっても。
たとえ、国家間の戦争や、貧困、疫病の蔓延があったとしても、この窓からの風景は、世界が平和を謳歌しているように見えた。
「精霊が機嫌を損ねたら、どうなることやら」
俺には関係ないがとブルー。
再び沈黙が部屋を覆った。
一方、女同士。二人は寝間着に着替えてくつろいでいた。
暖かいシャワーを浴び、白いからこそ、肌が薄紅に染まっているのが良く分かった。
ベッドにぺたりと座ったリーネ。ツキは同じベッドの端に座り、リーネの髪を背後からブラシで梳いていた。
少し湿り気の残った前髪をいじりつつ、リーネは気持ちよさげだ。
「アキラは驚いたでしょうね」
ツキが髪を梳きつつ、商会での出来事についてたずねた。
先の表情から一転して、リーネの眉が寄せられる。
「だいたい、ローダンはくっつきすぎよね」
少しだけ不機嫌な声色だ。それに、ツキがクスリと微笑む。
ブラシで髪を梳きつつ、ツキは応える。
「彼女の場合、仕方ないでしょう」
「……だから、我慢してあげた」
「ええ、頑張ったわね」
褒められたのに、リーネの頬が膨らんだ。
しばらくは沈黙が続く。
破ったのはツキだ。
「会ってから数日。アキラさんのこと、気に入ったみたいね」
それにすぐには応えず、リーネからは不機嫌だった表情が消え、沈んだものになった。
「崖で初めて会ったとき、『ああ、この人なんだ』って思った……」
リーネのその言葉に、穏やかだったツキの表情が変わる。
ぎりりと歯がなり、唇がゆがむ。
敢えてたずねた。その自分を責め立てるがごとく。
できれば、耳を塞いでリーネの言葉は聞きたくはなかった。
だが、リーネは続ける。
「この気持ちはなぜ?」
ツキはかすかに首を振る。
リーネは私を責めるべきだ。そんな心の中、思いにツキは唇を噛む。
リーネはかまうことなく、さらに続ける。
「私には資格がない。私は私を知らない。ただ知っているのは人でもなく、精霊でもない存在……」
「もう良いの、それ以上は……」
「この気持ちは私のもの?それとも……」
聞かねばならなかった。声にして聞く必要があった。
しかし、聞かねば良かった。
「だけど、私はアキラを抱きしめたい。言えない言葉、私は言ってはならない。だから、せめて、アキラを抱きしめる」
リーネは今は微笑んでいるだろうと、ツキは見なくとも分かっていた。
手は止まり、ツキノナミダの目から涙がこぼれる。
リーネの気持ち、それを守りたい。
だが、それが許されるのだろうか。ツキはハタハタと涙の雫をシーツへと落とす。
その力はあるのだろうか。
せめて願おう。
その時が来ることを。来てくれる事を。
『御身の眼へ見せてみようぞ』
それはツキノナミダの覚悟。
次回の更新は、明日午前中に行う予定です。




