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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第5章 St. George And The Dragon
108/219

5-18

引き続き、

第5章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

蒼龍の守護地スカイドラゴンフィールド 帝国軍前線司令部

 開けた高台に設けられた司令部の一角、隣に魔術師の身なりをした男を従え、仮の司令官が守護地(フィールド)の中心に向かって視線を向けていた。

「やはり、あまり遠くまで見ることは出来ません」

 それは魔術的な妨害に加えて、他とは違って大量の精霊がいるのに、魔術師に従う精霊の数が少ないためでもあった。

 ドラゴンには巫女姫という存在が仕えており、たいそう優秀な魔術師であると仮の司令官は聞かされていたので、遠見が妨害されるのは理解出来るのだが、魔術の効果が弱いという現象は理解出来ずにいた。通常、魔術師に集まる精霊が多いほど、魔術の効果は高まるのが常識であったからだ。

「さすがにドラゴンの守る土地ということか、他での常識は通じぬか」

 進軍は人の手が入っていない森の連続で難渋を極め、兵站のために、後方に道を作れば、伐採した空間が翌日には元に戻っているなどいう現象が起こっていた。

 前進を木々が阻み、補給の遅れによって足を止めることになっていた。

 更には、獣の間引きも行われていないので、頻繁に獣の襲撃が行われており、魔力が剥がれて、後送される兵が後を絶たなかった。侵入当初は、獣を狩って食料に宛てており、もしかすると補給は必要ないかと考えいたほどであったが、あまりに頻繁に行われるため、兵達は音を上げ始めていた。

 実は、獣襲撃については、ノーミーが裏でけしかけているのだが、そんな事は帝国兵が知るよしもなかった。

「とにかく、先行している部隊には無理をするなと伝令を走らせておけ。それと、敵戦力と接触した場合は、すぐさま後退するよう、改めて念を入れて伝えよ」

 仮の司令官は後方にて待機していた伝令兵が復唱し、駆けていくのを見たが、自分の側で身震いしている魔術師に目をとめた。

「先の境界での戦いに従軍したのだったな?」

「はい、王子の側で戦いを見ておりました」

「ドラゴンとはそれほどのものか」

 首を左右に激しく振って否定する魔術師。今回はこの魔術師と同じく、前回のエリオットの守護地(フィールド)侵入に同行した兵が多かった。それはドラゴンを目の当たりにして、悪意など持ちようがなかったためと考えられていた。

「ドラゴンは恐ろしかったですが、それより、兵達を実際に打ち倒した剣士の方が恐ろしかったです」

「巫女姫とやらか?」

「いいえ、剣士は男です」

 その魔術師の言葉に、事前に説明があったアキラとかいう剣士のことかと思い至る。エリオットからは、その男一人で師団一つに該当すると考えよと命じられていた。

 仮の司令官は、その男は剣聖であろうかと思い、魔術師に尋ねるが、分からない、正体不明だと返事をしてきた。その返事の後に、魔術師が言葉を続けた。

「先行させた部隊が、襲撃されました。後退の指示を出しているようです」

 その魔術師は、震えながらも職務に忠実で、しっかりと遠見の魔術を行使していたのだ。

「敵は誰だ」

「背に羽が見えます。白いシャツの上に、紺色のベストを来ておられます。伝え聞くところによりますと、大精霊ノーミド様のようです。自身の魔力ではなく、魔方陣が見えますので、精霊を使用しているようです」

「ちっ、初めての接敵が大精霊か。やっかいな」

「後方に、水色のワンピースの女が……」

 そう言ったきり、魔術師の言葉が途切れた。

 状況を伝えよと、口にしかけた仮の司令官だが、言葉を発する事が出来なかった。

 それは、この高台から見下ろしているために、見ることが出来たからだ。

 巨大な魔方陣が、森の上に描かれた。


 それは不幸な出会いであった。

 とは言っても、お互いが最短距離を取ろうとしているのであれば、出会うのは必然ではあったのだが。

 放置していた帝国兵ではあったが、道中に難儀しているのか、なかなかアキラ達がいる守護地(フィールド)の中心まで辿り着くことがなかった。

 そこでと、どういった状況かと、アキラはリーネとノーミーを連れて偵察にでたつもりであった。ちなみにツキは残してきた。同行しているリーネとノーミーには教えていないが、遠隔通信が可能か、可能ならばどの程度までの距離を開けられるかの実験をしておこうと考えたからだ。

 結論から言えば、かなり境界に近づいているのだが、それでもツキとの会話は可能であった。これは便利なことになったとアキラは内心喜んだが、あまりツキとは離れることはないし、恐らくは呼べばすぐに大太刀に宿るであろうから、使う機会は少ないかと、少々残念に思い直していた。

 そして、ノーミーが見つけたのが、進軍してくる帝国兵であった。

 現在、アキラの前では蹂躙という言葉がぴったりな光景が繰り広げられていた。

 ノーミーは自分の周囲に五つほど魔方陣を浮かべて、石の弾丸を乱射していた。そして、その後方にいるリーネは、頭上に魔方陣を描いて、雷撃を落としまくっていた。

 帝国兵の中には、魔術で応戦しようとする者もいたし、シールドを張ろうとする者もいた。だが、それも意に介さず、帝国兵の魔術はノーミーとリーネがタイミングを合わせて張るシールドが弾き、帝国兵にシールドが張られると、軌道を変化した石弾や雷撃が背後などの隙間から襲いかかっていた。

 木にもたれ掛かって、その蹂躙劇を見ていたアキラだが、やがて帝国兵全員が魔力を剥がされ、気を失うのを確認したリーネとノーミーが駆け寄ってくるのを出迎えるのだった。

 リーネとノーミーは、ほめてほめてとばかりに、アキラの腕にすがりついてくる。

「ご苦労さん。まだ、ぜんぜん進んでないんだな」

 この程度の侵入速度であれば、まだのんびり出来るかと、アキラは一人と一体を連れて中心へと戻り始めるのだった。


 再び、司令部として陣を張った高台に戻る。

 仮の司令官の隣では、魔術師が顔を青ざめさせていた。

「全滅いたしました。ただ、死んではおらず、気絶だけさせられた様です」

「馬鹿な。先行部隊といえど、結構な数がいたはずだぞ」

「私も、初めて見ました。あれほど連続して発動する魔術を」

 腰が抜けたのか、魔術師が地面に崩れ落ちた。

 大精霊が本気を出した魔術行使ならば、まあ理解できるものだが、あの巫女姫とやらはなんだと魔術師は考える。普段、複数の魔方陣を描いて満足していた自分は何だろうと。そして、規格外の話しは法螺話の類いであろうと考えていた。

 魔術師の見立てでは、巫女姫は一つしか魔方陣を描いていないように見えていたが、あれは、複数の魔方陣を重ねていたからそう見えただけだ。そうでなければ、あれほどの間隔で魔術の行使が出来るはずがないのだ。

 魔方陣が大きいのは、それだけ精霊との親和性が高いからだ。精霊がよく言うこととを聞いてくれるのだろうと。

 そこまで考えて、これを報告して、帝都で信じてもらえるのだろうかと、不安になる魔術師であった。

 だが、そんな前線の魔術師の想像に反して、魔術師が書き、前線の仮であっても司令官の署名が添えられた報告書は重大なものとして扱われた。

 すぐさま帝都では情報統制が実施されたが、意地の悪い笑顔を浮かべたブルーの指示により、帝国在住の一部の獣人達から内容は帝国内部に広められていった。

 特に、前線に近い、エリオットとシルが滞在する境界間近の陣では大騒ぎとなっていた。

 曰く、大精霊が前線に立った。

 ノーミーとリーネが行った蹂躙劇は、特にノーミーが積極的に帝国兵を攻撃したことが帝国内部に大きな衝撃として駆け巡っていた。

 シルが精霊受王権とでも言うべきパフォーマンスを行った帝国である。それが、前線部隊といえども、れっきとした帝国の正規部隊が、シルとは同格の大精霊に蹂躙されたのだ。

 表だって口にする者は、シルに憚って多くはないものの、この蹂躙劇を大精霊による罰と捉える者、大精霊間の抗争に帝国が道具として扱われていると言う者、先のパフォーマンス以降、極めて高かったシルへの好感度が、だだ下がりであった。

 逆に、協同国内部では、サインに比べて低かったノーミーの人気が急上昇しているのだが。ブルードラゴンを守る大精霊ノーミドを構図とした絵画の発注が大量にされるほどであった。戦いの後にしばらくしてやって来たローダンが、ほくほく顔でノーミーを可愛がっていた。

 たった一つの前線での戦いによって、帝国が静かにざわめきを始める中、意外にも境界近くで滞在するシルに動揺はなかった。

 そんな様子を見ているエリオットは苛立ちを含んで、シルに語りかけた。

「協同国の煽動は見事だ」

 帝国にも多くの獣人は居住しており、ほとんどは帝国を故郷としているため忠誠は疑いようもないのだが、それらの獣人と協同国から送り込まれた獣人とでは見分けがつかないため、煽る者の跋扈を抑える事ができないのだ。

「このままではドラゴン討伐など、している状況ではなくなるぞ。実際、皇太子の周りが騒がしい。今、クーデターなど起こされたらたまったもんではない」

「だから、私もノーミーに習って、前線に立つさ」

 シルとしては想定済みで、ブルー達が大精霊を線条に立たせた時は、シル自身も前線に赴くつもりだったのだ。

「結界はどうする。ドラゴンを殺すと明言しているシル様は、悪意によって越えられんだろう」

 その言葉に、シルはきょとんとした表情を向ける。

「ブルーに悪意なんてないけど?」

 その言葉に、何だとばかり驚きの表情を浮かべるエリオット。

 精霊は嘘を吐かない。吐く必要がないからだが。だからといって、精霊の言葉をすべて信じる事はできない。なぜなら、精霊は言わないことも多いからだ。

「どういうことだ。きちんと話してくれ」

「私はアキラを殺すのが目的で、そのアキラを保護している者も殺すと言ったのよ」

 だから、ドラゴンに悪意があって殺そうとしているのではないのだと。あくまでも、シルの目的はアキラたった一人。ドラゴンを守ろうとしている獣人は殺そうともしないと。

「人一人を殺すのに、なぜそこまでのことをする。大精霊が殺さねばならぬ存在なのか、あのアキラとは」

 そのエリオットの問いかけに、珍しく迷ったそぶりをみせるシル。だから、エリオットはこの戦いを収めるためにも、言葉をたたみかける。

「たかが、人一人、剣の扱いが上手い、たかだか人という存在ではないか、精霊がそこまでするほどか」

「そこまでにしてもらおう。アキラを侮辱するな」

 怒りの炎を灯した眼でエリオットを覗き込むシル。片腕がエリオットの首を掴んでおり、その華奢な手にもう少し力を加えれば、エリオットの首など砕け散るであろう。

 ゆっくりと、エリオットは首を縦に振った。無言でいたのは、どんな言葉がシルを刺激するか、その想像が出来なかったためだ。

 エリオットの仕草に、シルの手は離れていったが、目には怒りが留まったままだ。

 その威圧に耐えきれず、エリオットは椅子に座り込むが、それを見もせずにシルは姿を消すのだった。


幼女もどき:「ほめて、ほめて!」

J○?:「あーしも!」

社畜男:「ホント、お前ら情け容赦ないね」

弾丸の形は……。

分かりますよね。

ライフリングはありませんが、

器用に旋回させています。


次回、明日中の投稿になります。

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