5-14
引き続き、
第5章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
話しの流れで短いですが、
ご容赦願います。
夕食の席では、まずはとばかりに、キムボールが皆に世話になると挨拶を行った。そして、夕食を共にする面々を見て、人としては武力の頂点に立っても可笑しくないキムボールだったが、大精霊やドラゴン、竜の巫女姫に混ざってしまうと、自分は非力なのだと実感してしまった。
アキラを除いて勝てそうにはない。
「やっぱり総大将はブルーなのか?」
「いや、アキラにしてもらう」
椅子に登って、今日の夕食である青椒肉絲に鼻先を突っ込んでいたブルーが答えを返す。
「えっ、俺なの?」
「お前、ずっと指示を出していたじゃないか」
自分を指差すアキラを見て、ブルーが口の周りを汚したまま、呆れたようにため息をついた。
「俺はずっとブルーを手伝っていたつもりなんだが」
「心配するな、俺が参謀してやるから、どんと構えて大将しろって」
どうやら、その一言で守護地内での戦いのための組織図が決定したようだ。
キムボールを除いた全員がアキラに頷いていた。異論はないようだ。
それを見て、アキラは心を決める。
「判った、やれるだけやらしてもらう。ただし、俺に問題があるようだったら、いつでも言ってくれ。風通しは良くしておきたい」
心を決めたアキラは、頭の片隅で思い出していた。あの時は最後までは導けなかった。ホテルのホールの片隅で、物陰に隠れて人々を逃がすために殿を務めていたことを。
反撃が弱まってきたのを感じて、翻って逃がした人々を追いかける。しかしその先には、逃がしたはずの人々の一部が床に倒れ、無事な者達は物陰で震えている風景があった。
反撃が弱まっていたのではなかったのだ。
迂回されていた。
視野狭窄で、目の前が真っ暗になる。まだ、弾倉に弾丸が残っている工作機械めいたM11を放り投げて、手近にあったパイプを握り、斬り込みを敢行したのだった。
気づいた時には、血まみれのパイプを握っていた。そして、怯えた視線が、今度はアキラに向けられている。
人々は、わっと悲鳴を上げて逃げ始めた。そんな中、アキラはソファの後ろに隠れていた少女を見つけていた。親は先に逃げて取り残されたのだろう。
アキラはパイプを投げ捨てると、震えて怯え、逃げ出すことも出来ない少女を抱き上げたのだった。
そして震える声。
「……Bloodthirsty killer?」
「YES……I'm sorry, by soiled hand」
そうだ、『真っ赤に汚れた手は、洗い流せないのだ』
腕を引かれて、我に返るアキラ。
リーネが心配そうに見上げていた。
「どうしたの?とっても悲しそうだよ?」
「何でもないよ。大丈夫」
アキラが笑みを向けると、ぎこちなく笑みを返してくるリーネ。安心させてやろうと、その頭に手を伸ばそうとするアキラだが、気づいてその手を引っ込めた。
ぎこちなく、寂しげに微笑むリーネを見るのが辛くて、アキラは視線を背け、逆の隣に座るツキを見た。
じっとアキラを見つめる目蓋から、ぽつりと一滴の涙がこぼれた。
「やはり、そうだったんだ……」
そのつぶやきに、ツキがこくりと頷いた。
「総大将がアキラというのは判った。それでだ、俺はアキラの実力を知らないのだが?」
「俺の指揮能力なんて、どう証明すればいいんだ」
キムボールの問いかけに、アキラが首を傾げると、両手を広げてそんな事は聞いていないと返してきた。
「俺はアキラの腕前を知りたい。大体、俺がこの中で一番弱いと思われているのも、けっこう辛い」
だから、キムボールは自分と模擬戦でもしないかと誘ってきた。
アキラを除いた全員が、こいつ何言ってんだとキムボールを見ていた。
その視線を一身に集めて、キムボールはにこにこと笑っていた。どうやら、アキラの指揮下に入るのは納得しているようだが、個人技では勝てると考えているようだ。
「そうだな、一つ合わせてみて、加減してやるからさ」
どうだいとキムボールは誘いをかける。
それを見たライラとスノウが顔を見合わせる。教えてやった方が良いかと。そして、サインとノーミーは我関せずとばかりに、食事を進めており、興味がないようだった。
そして、アキラを挟んで、リーネとツキは、視線を交わした後、ブルーに視線を向けた。
「それで王子が納得するなら、いいんじゃねえか?」
「さすがはドラゴン。話せるね」
ブルーの答えを聞いて、嬉しそうなキムボールだが、アキラは戸惑いしかなかった。ツキに目をやると、全力でと視線を返してくる。リーネに視線を向けると、やっちゃえと視線を返してくる。
とりあえずは、大太刀にツキは宿らせることなく相手すれば良いかと、自分の実力を測るつもりのアキラは了解するのだった。
「わかった、明日の朝食前に。ブルーは立ち会いを頼む」
本来であれば、リセット中のブルーではなく、ツキに頼みたいアキラだったが、それは憚れる想いがあった。贔屓などはけっしてしないだろうが、いざという時に割ってはいるとなると、ツキは容赦なく自分の実力を発揮するだろう。それはそれで不味いとアキラは考えたのだ。
ツキの正体は出来るだけ伏せておきたかった。
「日の出前に起きるのか?」
「たまには早起きしろよ」
ブルーの不満に答えるアキラだが、それは言葉の上での事。ブルーが普段から早起きなのは知っている。ただの言葉遊びに過ぎなかった。
「そうか、そうか。明日が楽しみだ」
そう言って立ち上がったキムボールは、大浴場を使って良いかと尋ねてきたので、アキラは案内がてら、一緒に入る事にした。
風呂では何もありません。
ありませんったら。
想像するのは勝手ですが。
次回、明日中の投稿になります。




