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引き続き、
第5章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
ディーネが王国へと帰ってから、三日ほどが過ぎた夕方。守護地の中心地でアキラ達は作業を終え、夕食までの時間を利用して、自分の部屋を片付けたりなど個人の用事を行っていた。
食堂に付属した厨房では、サインから入手した醤油などの調味料を使って料理をしつつ、アキラは使用方法をツキに教えていた。
「味噌というのは、スープに使うだけではなく、具材に塗るという方法もあるのですね」
「それは醤油も一緒だよ。酢だって、スープに入れるばかりじゃなくて、ドレッシングにして料理に直接かける場合もあるだろう」
「なるほど、そのあたりは臨機応変ということですね」
そうそうとアキラは頷き、味噌などは、直接焼いて副惣菜にも使えると説明をする。
そんな二人が肩を並べ、仲良く料理をする様子を、リーネが入り口の影から覗き込んでいた。
「一緒にしたかったら、中に入れば良いだろう」
突然ブルーに声を背後からかけられて、驚き飛び上がるリーネ。
わたわたと慌てた様子で、リーネが答えを返す。
「……ツキが楽しそうだし。私は邪魔かなって」
「そんな気にする奴じゃないさ」
リーネに頭をつけて、ぐいぐいと押すブルーは、厨房へと入っていった。
それに気づいたアキラとツキが振り返り、ブルーに押されて入るリーネの様子に笑いかけた。
「ちょうど良いところに。明日使う予定のボアを味噌漬けにしようと思ったんだ。リーネも手伝ってくれ」
ウッドボアの肉塊と、味噌を持ったアキラが両手を挙げて食材を示す。それを見たリーネが僅かにためらいを示すが、ツキが笑って手を差し出す。
「手伝ってくださいな」
行けよとばかりに、後ろから押すブルー。
そしておずおずと、はにかむリーネがツキの手を取るのだった。
そんな時、外から呼びかける声が厨房まで届いた。
「今の声は?」
「王子が到着したようですね」
ツキの応えに、アキラがやれやれとばかりに、リーネが出した水で手に付いた味噌を洗い流して、外へと向かう。続くブルーが不機嫌そうだ。
外へと出たアキラとブルーは、ちょうどホーンホースから降り立ったキムボールの姿を見ることになった。
「早かったな。もう二・三日掛かると思っていたが」
「実は境界で待機していてな、ディーの伝言を聞いて、すぐに出たんだ。こいつには無理をさせちまったが」
そう言いながら、キムボールは愛馬の首筋を軽く叩いてねぎらい、放して大丈夫かとキムボールが確認してきたので、アキラは精霊馬が駆け回っている場所を指し示してやる。
「ここが守護地の中心か。自然が豊かだ」
「人手が一切入っていないそうだからな」
もちろん、そのアキラの言葉がすべて正しい訳ではない。ブルーは自分達が住む周辺は間伐を行ったり、獣を狩って間引いたりしていたから。だが、守護地の大部分は、精霊達が管理する道を除いて、何の管理もされてはいない。いわば原生の自然というわけだ。
物珍しげに、周囲を見回すキムボールだが、ある一点で視線が止まる。手持ち無沙汰にしていたアキラの腕をキムボールが掴んだ。
「どうした?」
「あれは……?」
言われて、アキラはキムボールの視線を辿ると、その先には大浴場の入り口付近に置かれたベンチに寝転ぶノーミーの姿があった。ただし、身体に一枚のタオルを巻いているだけの姿であった。
ノーミーは、どうやら入浴後に、ベンチで涼むのを気に入った様子で、よく見かける光景だった。
その背の羽をゆるゆると動かして、気持ち良さげなノーミーを見て、キムボールは気づいたのだろう。
「大精霊が、あんなあられもない姿で……」
「ああ、いくら言っても言うことを聞かないんだ」
後頭部を掻きつつ、アキラがぼやくが、その説明でキムボールが納得する様子はなかった。ブルーが鼻息一つ吐き出した。
「まぁ、好きにさせてやれ。ああいう奴だが、人や獣人の前では気も抜けぬからな」
「……さすがは蒼龍の守護地。常識は通じないか」
「とはいっても、半裸の女の子をじっと見つめるのは良くないぞ」
そうアキラに指摘され、慌てて視線を逸らすキムボールだが、逸らした先には、かご一杯の野菜を持って、とことこと歩くサインの姿があった。もちろんその背には羽が揺らめいていた。
「大精霊が、雑事をしていると?」
「サインは農業の大精霊だからな。ああやって野菜なんかの管理をするのが好きなんだと」
アキラの説明を聞いて、キムボールが首を左右に振り、常識を忘れろと自分に言い聞かせているようだった。
「とにかく、ここでは大精霊であろうと、ドラゴンであろうと気遣う必要はないからな」
「いや、俺には気遣えよ?」
否定するブルーに、アキラは苦笑いを向ける。
「何か、いつもと違う反応だな?」
ふんと再び鼻息を吐いたブルーは、アキラ達に背を向けて食堂へと歩み去って行く。やれやれとばかりに首を傾げたアキラは、キムボールを促してブルーを追いかける。
「そろそろ夕食だ。ツキが作った」
「それは楽しみだ」
嬉しそうに答えるキムボールに、アキラはほとんどは自分が作ったとは言えないのだった。
J○?:「聞いてよ、あーしも気を遣うわけよ」
わんわん:「…………」
幼女もどき:「…………」
社畜男:「……お前、ホントに大精霊?」
J○?:「殴るよ」
いや、タオル一枚はないだろ。
次回、明日中の投稿になります。




