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引き続き、
第5章を投稿いたします。
どうか、よろしくお願いいたします。
蒼龍の守護地 ログハウス転じて中心地
帝国兵が守護地に侵入してしばらく時がたった。あれから、帝国兵は何組も侵入してきているが、以前として放置のままで、アキラやブルーは何の手も打ってはいなかった。
田畑についてはスノウとサインが主だって面倒を見ており、さすがに農耕の大精霊が手塩にかけているだけあって、作物の成長も異常と言えるほどに早く、豊かな実りが期待できそうであった。
一方、ブルーが監督するログハウスの増築は、その域を超えており、大邸宅プラス大規模寮プラス作業所転じて工場プラス事務所の様相を呈していた。これは多目的重機兼精密工作機と化したリーネとノーミーをブルーがフル活用した結果であった。
もともとブルーを手伝っていたリーネは別として、ノーミーが作業に慣れ始め、独自の工夫を始めてからは、一日で一区画の棟を立ち上げる勢いであった。乾燥に時間がかかる土台のコンクリートを先ずは流し込み、乾燥の間に次の棟に取りかかるなど、手待ちを作らない、見事なスケジュール管理にはブルーが舌を巻くほどであった。
レインを元に戻すための設備の増強、新設が進んでいたディアナとペノンズは工場に拡大されたスペースを、喜び勇んで活用していた。
そして、テントはすべて仕舞われ、全員に専用の部屋が与えられ、寝起きするようになっており、野外での食事も止めて、立派な食堂と調理場は女主人よろしくツキが君臨していた。
小さな小屋を与えられそうになったブルーが憤慨していたが。
事務所には大小の会議室が設けられており、主にアキラとブルーが今後の事を話し合う場となっている。今も、協同国から戻ったばかりのサインを小会議室に呼び出して、協同国との連携について話し合っているところだった。
「恐らくは、帝国と財団の国境付近に展開している帝国軍は、財団を牽制するとともに、獣人の侵入を警戒するために増強したと思う。だから、獣人達には今は絶対に暴発しないように伝えてほしい」
その時が来るまでは、アキラ達が合図するまでは耐えて欲しいと。いまここで、獣人達が個別の集団で帝国に仕掛けたとしても、各個撃破されるだけだと。
「分かった。それとサイモンが、食料の援助を増やしてほしいと」
「ローダンに伝えよう」
サインの言葉に、ブルーが頷く。サインが目覚めたからといって、すぐさま作物が取れる訳ではないので、相変わらず食料が逼迫している様子だ。
他にも、ミッチェルが獣人達が戦争準備を始めているのは、アキラやブルーのためである事を、正式に外交ルートを通じて伝えるために、財団に向かったことや、帝国への侵入ルートの検討状況がサインからは伝えられた。
その言葉からは、真に獣人達が一致団結して共に戦う気概が感じられて、アキラはどのような顔をすれば良いのか迷うほどであった。
「いつもと一緒で、犠牲は出すなと、くどいようだが伝えてくれ」
アキラは協同国への伝言の際には、最後に必ず同じ言葉を加えていた。今回も同じだが、嫌がる様子もなく、サインはこくりと頷いた。
何か言い残した事、取りこぼした件がないかと、皆が考えていたとき、皆が同じくして感じ取ったのか、一斉に視線を集めると、そこにディーネが姿を現した。
「あら、そんなに見つめられては恥ずかしいですわ」
そう言って、ころころと笑うディーネを見て、アキラは座るように椅子をすすめ、自らも腰掛けるのだった。
皆と同じように感じとったのか、入り口からひょいとばかりにツキが顔を覗かせ、ディーネの姿を確認すると、何か用意しますと言い残して首を引っ込めた。
「何事もなくて良かったわね」
ディーネがそう語りかけたサインは、少し恥ずかしげにこくこくと顔を縦に振る。あまり表情を露わにしないサインにしては珍しいことだが、やはり姉のようなディーネに気遣われて嬉しかったのだろう。
早くもツキがプレートにティーセットとプリン、今朝早くにリーネとツキに強請られて大量に作り、ディアナ特製の冷蔵庫に入れていたもの、を乗せて各々に配り歩いていく。
目の前に配膳された、小皿に乗せられ、黒いカルメラソースをかけられてぷるぷる震える薄い黄色の物体を興味深くディーネは見つめる。
「これが、ローダンが言っていたぷりんというものですか?」
「美味しいわよ。今朝、アキラさんが作ったの」
「是非、是非いただきます」
小さなスプーンですくい取り、口へと運ぶディーネ。恐らくは咀嚼するまでもなく、舌の上で崩れ去ったのだろう。目を見開き、頬に手を当てている。
ほう、とためいき突いたディーネが口を開く。
「素晴らしい」
あとは無言でスプーンを動かしている、その姿を見ていたツキは部屋から出ようとするが、それをスプーンを一時止めたディーネが呼び止めた。
ツキに座るように言った後、すべて食べ終えるまで、というか、分捕ったアキラのものまで食べ終わってから、口元をハンカチで拭うディーネだ。
綺麗に口元を拭い終わって、ハンカチを仕舞ったディーネが、重々しく口を開いた。
「レシピはローダン商会から購入すればよろしいですね?」
「そうだけど、いや、そうじゃないだろう。何か他に言うことがあったんだろう」
そのアキラの指摘に、ぽんと手を叩いた。
「そうでした、そうでした。ぷりんがあまりに素晴らしくて、忘れておりました」
何ら悪びれた様子もないディーネに、ブルーが促した。
「ツキをここに残したということは、ばか王子絡みか?」
「よくお分かりで。キムボールがここに来ると言っておりますので、ご連絡にまいりました。」
「来る?来たい、来させて欲しい、じゃなくてか?なかなか良い根性してるじゃないか、あのばか王子」
鼻息荒くも告げるブルーを宥めるアキラ。言葉尻を捉えてもと言い聞かせる。それを聞いて、さすがに大人げないと感じたのか、ブルーが静かになった。
「で、どうするんだ?許可するのか?」
「駄目だ」
間髪入れずに回答するブルーに、どうしようかとアキラはツキを見るが、こちらも何を言っても面倒しか思いつかないのか、静観の構えだ。
「来るのはキムボール一人だろう。許可してやれよ」
取りなすアキラの言葉に、苦々しい表情を浮かべるブルー。しばらく無言で悩んでいたが。
「よし、許可はやろう。ただし、ここまで一人で来るんだ。道中は助けてやれない。それから、ツキ達に変な事をするとぶっ殺す」
守護地内部は人の手が入っていないだけに、非常に危険で獣に襲われる可能性が高い。そんな中を一人でログハウス、中心地まで来いと言うのは結構な難題だ。しかし、キムボールほどの剣士であれば大丈夫であろうが。
ほとんど嫌がらせのような回答に、苦笑いを浮かべるアキラ。
「他人の恋路に口を挟むつもりもないが、ブルーがこう言ってるんだ、自重するように伝えてくれ」
その言葉を聞いたツキの頬が、ほんの僅かに膨れていた。どうやら、アキラの言い様に不満があるようだが、当のアキラに気づいた様子はない。
「分かりました、キムボールにはそう伝えます。まったく、成就しない恋を追いかけるなど、愚かな事です」
ため息をついてディーネは立ち上がり、視線をツキに向けて同意を求めたが、今度はツキは顔を赤らめるばかりで応えようとはしない。
それを不思議そうに見つめるアキラ。
「こちらも、どうしようもないですね。では何かあったら連絡くださいな。先ずは静観しておきますので」
「どっちを?」
「両方です」
ディーネはブルーの問いかけに応えると、姿を消すのだった。
幼女もどき:「わんわんの部屋を作ったよ、見て見て」
わんわん:「おお、それはうれしい……」
社畜男:「立派なもんだ」
わんわん:「うがー!」
それ、人は犬小屋と呼ぶ。
次回、明日中の投稿になります。