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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第5章 St. George And The Dragon
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5-10

引き続き、

第5章を投稿いたします。

どうか、よろしくお願いいたします。

 その日、ログハウスが内装も含めてすべてが完成した。それに合わせるかのように、作業場からリーネが出てきた。ディアナとペノンズを引き連れ、ふらふらとして野外に設置したテーブルの椅子に座り込んだ。

 暇を見ては、アキラやツキ、そしてブルーが様子を見ていたため、危ないことはなかったのだが、どうやら出てくる直前に、よほど集中して作業を行ったようだ。

 駆け寄ったブルーとアキラ。ツキは濡れタオルと冷たいハーブティーを注いだグラスをリーネ達に渡していた。

「やった、やっと精霊達が言うことを聞いてくれた」

 テーブルに突っ伏したリーネが呟く。それに耳をそばだたせるアキラとブルー。リーネほどの精霊との親和性であっても、これほど心身を疲れさせるほどなのだ。よほどの事があったのだろうと、アキラとブルーはとりあえず、そのままにしておくことにした。

 ログハウスが完成し、開墾も終わって種を蒔き、苗木を植え終わった今、全員の手が空いた状態で、テーブルの周りに集まってきた。

 真っ先に気づいたのはブルー、そして大精霊であるサイン、続いてノーミーだった。揃って空を見上げたため、残りのものも習って空を見上げることになった。

「めっずらしー!」

 ノーミーが素っ頓狂な声を上げる。

 サインは無表情だ。

 そして、ブルーは犬の顔で分かりにくいのだが、苦々しげな表情を浮かべていた。

 それは陽の光を遮り、二つの影を地面に落としていた。

 大きく羽ばたいて、二体のドラゴンが地面に降り立った。幸い、着地の際に風を巻き起こすことはないものの、広いはずのログハウス周辺が一気に狭くなってしまった。

 一体は全身を白い羽毛で覆い、もう一体は皮膚が赤く染められている。

「お前ら、邪魔なんだよ!」

 そのブルーの言葉に、それもそうだというような表情を浮かべたドラゴン二体が、人の姿に変わった。

 白い羽毛のドラゴンは、やはり白いローブを纏い魔術師か賢者の様相で、赤い皮膚のドラゴンもやはり、赤い革ジャケットに革のズボンという出で立ちであった。

 赤いドラゴンが、腹を抱えて大笑いをしており、白いドラゴンは呆れたような表情を浮かべている。

「見ろよ、犬だぜ、犬。馬鹿みてー」

「嘆かわしい」

 赤いドラゴンは、ついには地面に膝をついて、拳で地面を叩いて笑っている。白いドラゴンは両手を広げて、やれやれとばかりに顔を左右に振り始めていた。

「あれが残りのドラゴンか?」

「そうだ、白いのがハク、シードラゴンだ。赤いのはロッサ、ラヴァドラゴンだ」

 アキラが尋ねるのに応えたブルーは、その後、ロッサに歩み寄ると、地面を叩き続けていた腕に噛みついた。しかもただ噛みついたのではなく、しっかりと顔を左右に振って、牙を食い込ませていく。

「痛って~。何すんだよ!」

 ロッサは腕を振って、ブルーを振り払おうとするが、がっちりとくわえ込んでいたため、ブルーの身体が宙をぶんぶんと振り回される事になるだけだった。

 どうやら、残ったハクの方が与しやすそうだと、アキラは側に寄って自己紹介をする。

「初めまして、アキラです。ブルーには色々と世話になっています」

「よろしく」

 そう言ったきり、ハクは口を開こうとしない。アキラは気まずい思いに捕らわれる。

 どうしたものかと悩んでいると、そのアキラの肘が後ろから引っ張られる。見れば、リーネがくいくいっとアキラの肘を引っ張っていた。何か?というように、アキラが視線を向ける。

「そいつ、喋らないから、あんまり反応を期待しない方がいいよ」

「……そうか」

 こめかみを人差し指で掻いたアキラは、それではと、軽く手を挙げて、皆の待つテーブルへと戻るのだった。


 ようやくブルーの牙を外したロッサが、ハクを連れて椅子に座った。穴が開いたぜとか、何やらぶつぶつと文句を言っているが、ブルーがもっと開けてやろうか言うと、ようやく口を閉じた。

 ライラとスノウは、同じテーブルについてよいのかどうか、椅子の後ろでおろおろと左右に動き回り、ディアナとペノンズはテーブルに突っ伏して、これは夢だとつぶやき続けていた。ちなみに大精霊達とツキは平常通りである。アキラは状況がよく分かっていない。ブルーとリーネは不機嫌だ。

 落ち着かないライラとスノウをツキが引っ張っていった。茶の準備でもするのだろう。

「やっぱりドラゴンに結界は無意味だったね」

 仕方ないと、不機嫌な表情を緩めたリーネ。

「あんなの意味ねーさ。なっ、ハク」

 ロッサの言葉に頷くハク。

「何しに来た」

 ブルーは本来なら、すべてのドラゴンが一カ所に集まるのは駄目だろう、何しに来たとロッサとハクに告げる。

「ホントはもっと早く見たかったんだけどよ、ブルーの犬」

 しかし、ブルーが言ったように、ドラゴン同士が集まるのは良くないからと、我慢をしていたと説明するロッサ。だが、シルがブルーに宣戦布告をしたため、一度ハクと一緒に状況の確認だけでもしておこうとなったと。

「まっ、俺たちには意味なくても、大精霊相手だと、リーネの張った結界なら大丈夫だろうよ」

 上出来だと、ロッサはリーネを褒め、えへへと笑い返すリーネ。それを見た、グラスを乗せたプレートを持って戻ってきたスノウが、これが強大な魔術師である事が信じられなかった。いっそ研鑽を積んでいる魔術師が可哀想だった。

「まぁ、来たものはしょうがない。でだ、シルの盟約については何か分かったのか?」

 どうやら、ブルーはロッサとハクにすでに盟約について聞いていたようだ。二体のドラゴンが首を左右に振る。新たな情報は得られないようだ。

 初対面であったアキラも含めて、挨拶や紹介をしていると、ツキがテーブルにやってきて、ロッサとハクを夕食に誘った。ツキの手料理も久しぶりだと、ロッサが大げさに喜び、ハクも変わらぬ表情ながら、こくりと頷いた。


 賑やかな夕食も終わり、テーブルに残っているのはドラゴン三体だけであった。ロッサとハクの手元にはグラスがあり、ブルーは飲み物用の深皿が前に置いてあった。

 普段、ツキが料理に使用している鍋には、ロッサが作った氷が入れられ、その横にはロッサが持参した蒸留酒のボトルがあった。もちろん、ツキは渋い顔をしていたが、ロッサがたまにはいいだろうと説得をしたのだ。

 ロッサが豪快にグラスの半分ほどを一気に飲み干し、ハクはグラスを舐めるようにしており、ブルーは文字通り皿を舐めていた。

 三体の視線の先には、仲睦まじく夕食の後片付けと皿洗いをしているリーネとツキに向けられていた。

「長かったな……」

「ああ」

 微笑むロッサのつぶやきに、ハクが短く答える。ブルーは黙って椅子に上がって、顎をテーブルに乗せていた。

「リーネは眠り姫が長かったけど、ツキはさまよっていた時間が長かったからな」

 そう言ったきり、ロッサは黙りこむ。

 溶けた氷がグラスの中で崩れる音が、時折響く。

 からりと氷がぶつかる音とともに、ロッサがグラスを持ち上げ、一口含む。ふくよかな香味とともに喉を焼く。そうそうとばかりに、ロッサがブルーに視線を向けた。

「リーネが目が覚めた時さ、きょとんとして、キョロキョロとあちこちを見ていたよな」

「そうだな」

 思い出したかのようなロッサの言葉に、ハクは合いの手を打つが、ブルーの顔は渋い表情を浮かべていた。

「そんでもって、こてんと首を傾げたんだ」

「可愛かった」

 ハクがロッサの言葉に大きく頷いた。

「ああ、可愛いなんてもんじゃねーよ。それを見たブルーがさ、この()は俺が守る。って宣言しやがんの」

 そう言って、ロッサがテーブルで叩いて笑い転げた。

「ドラゴン三体に囲まれて、こてんだぜ。でもって、ブルーが羽広げてさー、ばっさばっさしたよな」

「お前、俺と会うと絶対その話するよな」

「いやー、何年生きてるか忘れたけどよー、あん時が最高に笑ったぜ」

 何を言っても無駄だと悟ったブルーが、黙って皿を舐めた。

「もしもの時は俺か、ハク、どちらかが引き取るから安心して死ね」

「死ねるのかね」

「死ねない」

 ハクの言葉に、ブルーとロッサが薄く笑った。

「万が一にも、もしもはないか。それまでに、俺たちが割って入る」

 それまでは、手出しはしないつもりだとロッサが宣言し、ハクもそれに頷く。

「あんまり騒ぐのは駄目ですよ」

 テーブルに皿を乗せたツキが、大笑いするロッサをたしなめた。皿の上にはチーズに蜂蜜をかけたもの、つまみのつもりなのだろう。

 さっそくとばかりに、ロッサが一片を手に取って、口の中に放り込む。それに習ってハクも手を伸ばした。

 自分で取れないブルーに代わって、ツキが一片を取り、酒の入った皿の隅に置いてやる。

「晩飯も美味かったが、これもいい」

 褒めるロッサに、ツキが肩をすくめる。

「チーズに蜂蜜をかけただけじゃないですか」

「いいんだよ、ツキが作ってくれただけで、それでいいんだよ」

 ロッサがグラスを空にする。テーブルに戻ったグラスをツキがとり、氷を入れてボトルを傾けて酒を注いで、ロッサの前に戻してやる。嬉しそうに更に一口含むロッサ。

「アキラはどうだい?」

 そのロッサの言葉に、ブルーは顔を上げ、ハクは目蓋を閉じた。

「大丈夫です。想像していた以上です」

「そりゃ良かった。駄目だったら、俺が叩きのめしてやろうと思ってたけどな」

「やるなら今ですよ。今だと大丈夫ですから」

 そのツキの言葉を聞いて、表情を真面目にしたロッサがグラスを置いた。

「……それほどか?」

「はい、私の主と認めましたから。すべてを主様に託します」

 ハクの目が開き、ツキを見る。

「幸せそうだな」

 こくりとツキが頷いた。

「驚く『御身の顔』が楽しみです」


赤:「ばっさ、ばっさ」

白:「ばっさ」

わんわん:「こいつら殴りてー」

J○?:「あーしの気持ちが分かったか!」

無理だって。

だって犬だもの。


次回、明日中の投稿になります。


ラヴァドラゴンの名前を豪快に間違えておりましたので修正しました。

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