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【帰還篇完結】黒い月と銀の月  作者: 河井晋助
第1章 天使(エンジェル)
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1-10

誤字脱字、直しつつ始めて行きます。

どうか、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

 リストに従い、見本を持ってきた店員が内容を説明し、ローダンが補足する。見本を手にとって確認するのはツキの役割だった。

 アキラはひたすらローダンの抱き枕となっており、ブルーはひたすらエールを呷り、リーネはひたすら茶と菓子のおかわりを求め続けた。

 最初は皆に意見を求めていたツキだが、「ああ」とか、「うん」とか、「そう」としか返ってこないため、諦めてすべて自分の判断で捌いていく。

 合間に挟まれる、金額に関してのやりとりは、さすがにローダンも真剣に受け答えはしていたものの、腕はアキラを抱きしめたままだ。

 リストに書かれた内容の確認も終わり、今度はローダンが商品を勧める番となったとき、店の入り口で騒ぎが起こった。

 発端は、鞘に納められた細身の剣を杖代わりにして立つ初老の男。

 身なりも立派で、この世界に詳しくないアキラにも、貴族であろう思わせる。

 音も高く、鞘の先が床に打ち付けられた。

「どういうことだ。やってきてみれば、本日は貸し切りとは!」

 ローダンが手近にいた店員に耳打ちする。

「今日の約束は、すべてキャンセルしたはずよ」

「いえ、それが飛び入りで来られたようで」

 どうやら騒いでいる男の正体を知っているようだが、困るような様子もなく、ローダンは「帰ってもらって」とそっけなく告げた。

 一礼した店員が、男へと向かい、主の言葉を丁寧に翻訳して告げる。

 それを聞いた男は激怒する。

「馬鹿を申すな!お忍びがために、名を明かすことは出来ぬが、高貴なる方の、我こそ伯爵たるヘルマス・カロニアが先触れぞ!至急、大至急に席を用意せよ!」

 様子をうかがっていたローダン。

 ため息をつく。

「そうよね、カロニア伯爵本人がいきなり来るのも、おかしな話よね」

 貴族の来訪ともなれば、下人を走らせて先触れするのが当然。それが伯爵本人が先触れと名乗っている。

 自分が出るしかないかと、ローダンは立ち上がり、カロニア伯爵の許へと歩み寄る。

「会頭!先客とやら、追い出せ!」

「伯爵、貴なる方の先触れ、感謝申し上げます。ただ、ただいまのお客様も、当方に取りましては大事な方。後日にお埋め合わせいたしますので、お許し願えませんか」

 丁寧ではあっても、拒絶の言葉に、カロニア伯爵はじろりとアキラ達をにらむ。

 ふんっと、軽蔑した鼻息一つ。

「あのような身なりの者どもが大事とな。安くなったものよなローダン商会も」

「いえいえ、私どもは身なりでは判断いたしません」

 ローダンの言葉に、最初に出迎えた若い店員が、床に倒れ伏さんばかりに悶絶していた。

 もちろん、大精霊であるローダンはブルー達の正体を知っている。口は閉ざしているものの、店員達も薄々では、やんごとない一行だと考えている様子。

 ブルーなどは、一国の国主ですら、比べられないほど恐ろしい存在。

 ドラゴン一行であることを明かすことも出来ないローダン。笑顔であっても、どうしてくれようかと苦慮している様子。カロニア伯爵だけならば、店から叩き出しているのだが。

 助け船を出したのツキだった。

「会頭、明日の午前に改めてお伺いします」

「あら、夕食の予約してあるのに」

「それは申し訳ありません、また後日に」

 ツキの言葉を合図に、アキラ達は立ち上がり、全員で入り口へと向かう。

 途中、カロニア伯爵が剣でその道を遮った。

 憎々しげな表情を浮かべ、

「……何者だ、貴様ら」

「只のお上りさんだよ」

 ひょいと、ブルーが剣を手で払う。

 伯爵か、国を会社に例えるなら、最低でも取締役、常務か専務かなと考えるアキラは、身に染みついた癖で、ぺこぺこと頭を下げつつブルーの後を追った。

 カロニア伯爵を置き去りにして、見送るためについて来たローダン。

「ごめんね、気を悪くしないで」

 そんな言葉を口にするローダンだが、背を向けているため、カロニア伯爵から見えないことを良いことに、戯けて舌を出していた。

「いいの、いいの。明日また来るね」

 どこまでも気易いリーネに、「それじゃ、明日のお昼を一緒にしましょ」と返すローダン。笑い返すリーネはバイバイと大きく手を振った。

 最後になったツキが、一礼の後に外へと出た。

 外へ出たツキが見たのは、店先でブルーが一人の男と対峙している現場。アキラは戸惑ったように、ブルーの背後でおどおどしていた。

 男は洗いざらしのシャツに、ヨレヨレのズボン。ただし、手には大きな剣、いわゆる両手持ち剣(ツヴァイヘンダー)を鞘の半ばで持ってぶら下げていた。

 男は若く、顔には開けっぴろげな笑みを浮かべており、剣呑な様子ではない。ただ、道を阻むように立っているだけだ。

「どうやら、カロニア伯爵(おっさん)が迷惑かけたようだな」

 その言葉に、カロニア伯爵が言っていた高貴な者が、この若者であると知れた。

「良いさ。俺たちも別の店に行くつもりだったしな。でっかい剣だが、精霊への奉納か?」

「いいや、俺の普段差しさ」

 そのデカさで、振れるのかと、少し馬鹿にしたようなブルーの言葉にも、若者は怒る様子もなかった。

 ふむとばかりに頷いたブルーは、若者の横を通り過ぎていく。アキラは会釈を一つ残し、リーネはまじまじと若者を見て続く。

 長さが、若者の身長と同じ程度の剣に視線を送るツキ。

「俺の剣が気になるかい、お姉さん」

「そうですね。抜刀時に注意してください」

 何か心当たりがあるのか、若者の表情が変わった。

「ご忠告ありがとう、素敵なお姉さん」

 その若者の言葉に会釈を返して、ツキは皆の後を追った。それを見送る若者が、軽く手を上げる。

 どこに居たのか、目立たぬ姿の男が一人現れ、若者のそばに立った。

「二班で見張れ。ばらけるようなら、一人あたりに班単位で増やしていけ」

「あの背の高い女性と先頭の男ですか?」

「いや、全員だ」

 若者の言葉に首を傾げる男。確かにブルーとツキは目立つ存在だが、若い女性のなりをしているリーネと、へこへことしていたアキラは、どう見ても注意する存在ではなかった。

 しかし、反論する事も、たずね返すこともなかった。

「……分かりました。すぐに」

 言葉を残し、その立ち去る男を見送った若者がつぶやく。

「怖い奴らがいたもんだ」

 その手と背中には、じっとり汗がにじんでいた。

 一方、ローダン商会の店先から立ち去ったブルーに、アキラがたずねる。

「なんだったんでしょう」

 にやりと笑い返すブルー。

 そして、意外な者から答えが返ってきた。

「あの人は、この国の王子、キムボール・ブセファランドラだよ。次の王様、第一王子だね」

「えっ、知ってるの」

 思わぬリーネの言葉に、アキラが驚く。

「知らない。だけど、見て分かったのよね」

 振り返ったリーネがツキに同意を求める。

「伯爵ほどの人物が、先触れを務める、高貴な人物。見た目の年齢からも、すぐに分かりました」

 ツキの返答に、リーネは「そうじゃないけど、そうだね」と何やら意味不明の言葉をつぶやく。

「まぁ、気を取り直して次だ」

 先ほどの出来事はここまでとばかりに話題を打ち切ったブルー。次の目的地へと向かって歩みを進めていた。


次回、今日は夕方には投稿予定です。

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