媚薬の効果
突然ヴィヴィに手首を捕まれて、俺は寝室に引き込まれた。
なんでこんな事をするのかと戸惑っているうちに、ドンッと胸を押され、俺はそばにあったベッドに倒れるかたちになってしまった。
言うなれば、俺はヴィヴィに押し倒されたのだ……!
「な、何をする……っ!?」
「ふふふ……だからお礼をするのよ」
俺の上に覆い被さるように乗ってきたヴィヴィは、そう言いながら何かを口に含み、口付けてきた。そして、口移しに何かを飲ませてきた。
「ん……っ! な、んだ、これ……!」
「これね、媚薬なの。やっと私の持ち物を返して貰えてね? 持ってたのをさっき思い出したのよ。これを飲むとね、目の前の人に夢中になっちゃうの。まぁそんな事はしなくても、私の魅力で皆が夢中になっちゃうんだけどね。貴方は良い年して純情そうだったから、これで手助けしてあげるのよ」
「や、やめろ、ヴィヴィ……!」
「あら、意外と強い意思を持ってるのね。でも大丈夫。私がリードしてあげるから。ここに来てからこういう事出来なかったから丁度良かったわ。貴方はタイプだし」
そう言いながらヴィヴィはまた俺に口付けてくる。俺は止めて欲しいと思っているのに、それに抗う事が出来なくなってきている。頭がボンヤリしてきて、何がなんだか分からなくなってきた……
ヴィヴィは俺の服を脱がしにかかっているようだ。何とか抵抗しようとするが、力が入らない。
なんだこれ……なんでこんな事になってるんだ……
執拗に舌を絡ませてくるヴィヴィを押し退けようと、肩を掴もうとするけれど、力が入らずにされるがままな状態になっていく。そんな俺の抵抗虚しく、ヴィヴィは俺の手を取って自分の胸に持っていく。
そうしながらも俺の首に、胸元に、唇を這わせてくる……
頼むからマジで止めてくれ……
その時、扉の向こうで何やら話し声が聞こえたかと思ったら、突然ノックもなく扉が開いた。
「リーン……ヴィヴィ……何してるの……?」
そこには茫然と立ち尽くすジルの姿があった。
「あら、失礼ね。勝手に寝室に入ってくるなんて。今良いところなんだから邪魔しないで貰えるかしら」
「ジ、ル……っ!」
「リーン……」
ジルになんてところを見られてしまったんだ! 早くヴィヴィから離れないと!
しかしヴィヴィは、そんな事は何でもないとばかりに、また俺に口付けてくる。ジルが見てるのに、何をしてくれるんだ!
ジルがこの状況に耐えられなかったのか、眉間にシワを寄せて、それからすぐにこの場から走り去って行った。
ヴィヴィは邪魔者がいなくなったとばかりに、今度は俺のベルトに手を掛けてきた。いい加減我慢の限界だった。
何とか力を振り絞って、ヴィヴィを勢いよくドンッと押し退けた。そうして漸くヴィヴィは俺の上から離れたのだ。
「ちょっと、何すんのよ?! 私の事が好きなんでしょ?! ご褒美をあげてるのよ! 有り難く思いなさいよ!」
「俺は……! お前の事なんか……好きじゃ、ないっ! 寧ろ、嫌いだ……っ!」
「え……」
俺の言葉が意外だったのか、ヴィヴィは何やらショックを受けたような顔をしていたが、俺はそんな事よりジルが気になって仕方がなかった。
上手く動かない体を起こし、ヨロヨロと立ち上がって寝室を出る。外に待機していた侍女が俺を見て、ビックリしたように小さな悲鳴を上げた。
侍女の目線を辿ると、俺の胸元辺りだったから確認すると、結構な感じで俺の服ははだけている状態だった。すぐに服装を正して、俺はジルを追いかける為に部屋を出る。
しかし、今見た侍女でさえも、可愛くて見えて心が揺らぎそうになった。なんだ、この媚薬は……!
その媚薬のせいで足取りは重く、思うように進めない。フラフラとしながらも、俺はジルの部屋へと急いだ。
目に見える人が男であろうと、気が持っていかれそうになる。俺はそれを、何度も頭を振って頭の中から払いのけるように、自分に抗うようにして進んでいった。
ジル、違うからな! 俺はヴィヴィとそうなりたいとか、そんな事を思っていた訳じゃないんだ! あんなところを見てしまったら、きっとジルは誤解しただろう。けど、俺が好きなのはジルなんだ。ジルだけなんだ!
一刻も早くジルに会ってそう言いたい。
不安がっているのなら、安心させるように抱きしめて、媚薬を飲まされたからと言っても、あんな事になってしまったことを謝りたい。
何とかジルの部屋へとたどり着いた。
扉の前に立っている護衛の騎士が凄く魅力的に見えて、頭がクラクラする……
それを何とか我慢して、ジルに会いたいことを伝えるが、ジルは部屋に戻ってきていないと言った。
何処だ……
何処に行った……ジル……
俺は次に、自分にあてがわれた部屋へと赴いた。部屋に入って辺りを確認しても、ジルの姿は見当たらなかった。
それから庭園へも行き、会う人にはジルを見ていないか聞き、俺はジルを探し求めてフラフラとさ迷い続けた。
昨日ここに来てから、城内で行った場所は少ない。だからすぐに見つかると思ったのに……!
そうだ、シルヴェストル陛下……
自分の父親に会いに行ったのかも知れない。
その考えに至って、俺はシルヴェストル陛下に会いに行くことにした。
シルヴェストル陛下は執務室にいたようで、俺が面会を申し出ると快く通してくれた。
「どうした、リーンハルト殿。ん? ……ジュディスが見当たらぬが……ジュディスはどうしたのだ?」
「陛下……ジルが……何処かに……」
「なに? どうしたと言うのだ?」
「何処に行ったのか……分からなくなり、ました……」
「ジュディスの行方が分からないと申すのか?!」
「はい、そう、です」
「なぜそんな……リーンハルト殿? どうした?」
「ジルを……探して……くださ……」
会う人会う人全てが魅力的に見えて、俺は抱きつきたい衝動を何とか我慢して走り回った。
その反動かなんなのか、薬に抗った事が我慢の限界とばかりに、常に頭はクラクラしていた。
そしてシルヴェストル陛下を見た途端に、抑制する力を最大限に使ったからか、俺の目の前は真っ暗になり、その場に倒れてしまったのだ。
あぁ……シルヴェストル陛下……
貴方はとても美しく凛々しく素敵で……
凄く魅力的な人でした……




