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ただ一つだけ  作者: レクフル


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映し出されたのは


 夜が明ける前に、俺は自室へと戻った。


 ジルの部屋には侍女がずっと、ジルの様子を見守るように部屋の片隅にいた。俺はベッドの傍に置いてあった椅子に座り、ジルの手を握って眠っていたのだが、ジルの様子と言うより、俺がジルに何か不届きな事をしないように見張っていたようにも思える。


 それでも、気付けば俺の肩には布団が掛けられてあって、あぁ、ちゃんと気遣われてるんだな、と思えた。


 自室に戻り、少し眠ったところで扉がノックされた。


 まだ頭がハッキリせず微睡んでいると、いきなり何かが俺の体に突撃したように重くのし掛かった。



「リーン! おはよう! 起きて起きて!」


「う、ぐ……ジル……これはやめてくれと……何度も……言った、だろ……」


「会いたかったの! リーン、ギュッてして!」


「あぁ……もぅ、本当に…ジルは……」



 ベッドで寝ている俺の上に、ジルはよくダイブしてくる。それはまるで幼子のようで、そうされる度に俺はジルにやめるように言うのだが、ジルは嬉しそうに聞いてるだけなので強く言えないでいる。


 俺の上にのっかかってニコニコしながら俺を見てくるジルは本当に可愛くて、結局は許してしまうのだ。それに、こんな事をするのは俺だけだと思うと嬉しくて、許す以外の選択肢はなくなるからだ。


 ジルがねだったとおりに、俺はジルをギュッてする。ジルも俺に抱きついてくる。


 すると不意にジルが俺に口付けてきた……!


 

「ん……! ジ、ル、ダメだ……!」


「どうして?」


「ここでは、ちょっと……」


「どうしてここじゃダメなの?」


「それは……ここにはジルの父親がいるからだ……」


「父親……シルヴェストル陛下の事?」


「そうだ。父親というものは、自分の娘が他の男とこう言う事をするのが許せないんだ。だから……」


「なんで怒るの? よく分からない」


「父親とはそう言うものなんだ」


「父親……」


「まだしっくりこないか?」


「だって……私のお父さんはリーンと同じお父さんだもん……」


「ジル……ありがとな。父さんをそう思ってくれて。けどな、父さんの事は一旦忘れて欲しいんだ」


「そんなのっ! お父さんを忘れるなんて、そんな事出来ないよ!」


「あ、いや、本当に忘れるとか、そんなんじゃない。もちろん、俺だって忘れて欲しい訳じゃない。ただ、一旦別に考えて欲しいんだ」


「別に考える?」


「そうだ。父親は一人じゃなくて良い。今はまだよく分からないかも知れないけど、父親のような存在って思うだけでも良いんじゃないかな」


「父親のような存在……」


「あぁ。これから少しずつ歩み寄って、少しずつシルヴェストル陛下を知っていって、ジルの事も知って貰って、お互いに分かり合っていけたら良いと、俺は思うよ」


「うん……そうだね……」


「まぁでも、無理をする必要はないさ」


「うん」



 頷くついでに、ジルは頭を擦り付けてくる。あぁ、もう、本当に可愛いなぁ。


 優しく髪を撫でてから、指に髪を絡ませる。長くなったジルの髪は、窓から注がれた太陽光で美しく様々な色を発していた。それはとても神秘的で、無意識に髪に口付けていた。

 

 すると、ジルが俺の頬に口付けてきた。



「リーン、なんか、口付けしたくなる気持ち、分かってきたよ。好きがいっぱいになると、なんだかそうしたくなっちゃうよね。唇じゃなくても、どこにでもそうしたくなっちゃう。ふふ……なんか、不思議だね」


「そうだな……不思議だな……」



 二人で「ふふふ」って笑い合って、額をくっ付ける。あぁ、凄く幸せだな……


 ドンドンドンッ!!


 大きく扉を叩きつけるようにノックされて、それに二人でビクッとなって扉の方に目をやると、そこにはシルヴェストル陛下が立っていた。


 慌てて起き上がって礼をする。心臓が止まりそうな程、ビックリした……!



「……ジュディス……男の部屋に気安く入るものではないのだぞ……?」


「あ、陛下、おはようございます」


「あ、あぁ、おはよう、ジュディス」



 険しい顔をしていたシルヴェストル陛下は、笑顔でジルに挨拶された途端に破顔した。

 本当にジルが可愛くて仕方がないって感じだ。


 しかし昨夜の事があったからか、俺へ向ける視線は和らいだように感じる。良かった。


 その後三人で朝食を摂った。笑顔で話すジルとシルヴェストル陛下は、やはり雰囲気が似ていて、端から見たらもう完全に親子だ。

 それを俺を含めてここにいる侍女や執事達も、微笑ましく見守っている状態だった。


 朝食が終わってから昨日ジルが頼んでいた、ユスティーナ元王太子妃殿下と会う事になった。

 昨日ジルの部屋の前に立っていた騎士二人と高位の魔術師だろう人が一人、それからシルヴェストル陛下にいつもついている侍従が同行する事になった。


 向かった先は、王城から少し離れた場所に建てられている、古ぼけた小さな建物だった。

 ここは昔、当時の国王が後宮にも入れない愛妾の為に建てたそうで、長年使われていなかった場所だったそうだ。 


 厳重に結界が張られてあり、簡単には逃げ出せないようになっているのが俺にも分かる程だった。その結界をシルヴェストル陛下はいとも簡単に解除し、進んでいく。

 昨日も思ったが、シルヴェストル陛下はかなりの魔力を持ち、そして高位の魔術が使える希少な存在だ。記憶を読む事ができる等、フェルテナヴァル国にいた頃は聞いたこともない術だ。その術を操る事が出来るとは、流石はジルの父親と言ったところか。

 

 警備の兵士はシルヴェストル陛下に恭しく礼をし、扉を開ける。


 案内されて進んでいくが、ここは陽が当たりにくく、暗い感じがした。照明も必要最低限にしか点けておらず、ジルは俺の腕をギュッて抱きしめてきた。この雰囲気は昔を思い出すのかも知らないな……


 案内された先は、何の変哲もない部屋の一室。ここは窓から光が射し込んでいたから明るかった。それにはジルが安心したようで、強張っていた表情が和らいだ。


 部屋の中央にあるテーブルには大きな水晶玉が置かれてあり、シルヴェストル陛下はそこまで行ってからジルを見た。



「ここでいつもユスティーナの様子を見ている。まずはジュディスもそうしてくれぬか?」


「はい……分かりました」


「少し部屋を暗くする必要がある。すまぬな」


「いえ……」



 シルヴェストル陛下はそう言うと、即座に侍従はカーテンを閉めた。厚手のカーテンが閉められると、一気に部屋は暗くなる。

 ジルの体がまた強張って、俺はそっと肩に手を置いて宥める。


 シルヴェストル陛下が水晶玉に手を置くと、真っ白な壁一面に映像が映し出された。

 こんな事が出来るのか……と、この国とシルヴェストル陛下の魔術の高度さに再び驚いてしまう。


 ジルはそんな事より、映し出された人物に目がいったようだった。

 

 そこにはユスティーナと思われる一人の女性が映し出されていた。



 



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