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ただ一つだけ  作者: レクフル


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シルヴェストルの過去・3


 メイヴィスの懐妊は、次期王位継承者となる存在を宿したとなる為、それを願っていた者達からは大いに喜ばれた。


 しかしメイヴィスが身籠った事で、ユスティーナは子を産めない王妃としてのレッテルを貼られてしまったのだ。


 それは私の耳に届くことはなく。だがユスティーナを貶める囁きは密かに広がっていく。そして皆がそんな目で見る。

 ユスティーナは王妃としての役割を果たせない者として見られる羽目になってしまったのだ。


 私はその事に気づかず、ユスティーナの気持ちにも気づいてやれず、ただ生まれてくる子供の存在と、愛するメイヴィスの事だけで頭がいっぱいで、心は満たされた状態だった。


 少しずつ大きくなっていくメイヴィスの腹部に言い様のない愛情が湧いてくる。そして、その存在を産み出そうとしてくれるメイヴィスには更なる愛情を。

 それで良いと思っていた。愛する者を慈しみ、与えられた仕事をしっかりこなしていけば、それで何も問題はないと思っていた。


 しかし私の知らないところで、ユスティーナは手を回していた。

 直接手を出す事は無かったようだが、手の内の者に指示を出し、食事に堕胎薬を盛ったり、階段から突き落とそうとしたり、地下室に閉じ込めようとしたり、下男達に襲わせようとしたりと、様々な手でメイヴィスを陥れようとしていたのだ。


 しかし私がそれを知らなかったのは、メイヴィスが何も言わなかったからだ。


 危険な目に合っているのにそれを言わなかったのは、全てを回避できたから、と言うのが前提にあったが、何よりメイヴィスが私への報告を止めたからだった。

 メイヴィスは女性として、ユスティーナの気持ちが分かったのかも知れない。だからどんな目に合っても耐えたのだろうと、後日従者は憶測だが信憑性が高いと話してくれた。


 食事に堕胎薬を盛られた時は、メイヴィスはそれに気づいたのか、その食事は一口もしなかった。

 階段から落とされた時、メイヴィスの体は淡く光り、フワリと浮いて階段下まで難なく着地した。

 地下室に閉じ込めたられた時は、厳重に鍵が何重にも掛けられていたにも関わらず、そこから難なく脱出してのけた。

 下男達に襲われそうになった時は、気付けば男達は弾かれるようにして飛ばされ、呆気なく気絶させた。


 それは何かに守られているようでもあって、誰であろうとも、メイヴィスや、メイヴィスの中に存在する者に危害を加える事は出来ないだろうと思われたらしいのだ。


 そんな状況であったにも関わらず、メイヴィスは悲観する事なく、私と共にいる時はいつも笑顔を見せてくれていた。だから気づかなかった。メイヴィスもまた私と同じように幸せなのだと思っていたからだ。


 そうして産まれたのが、ジュディスだ。


 初めて見た我が子に、私はただただ感動した。メイヴィスに似て白銀の髪と瞳は幾重にも色を変え、まさに天使かと見紛う程に神々しく思えたものだ。


 初めてこの手に抱いた時は、ジュディスの軽さに驚き、その存在の重さに喜び、この世にこれ程の幸せがあるのだろうかと思えた程に、私はメイヴィスとジュディスを私の元に授けてくれたこの世界と神に感謝し、一人幸福感に打ちひしがれていたのだ。


 しかし、私の知らないところでユスティーナの悪しき心は増長していった。

 

 それはメイヴィスに向けられるばかりでなく、生まれたばかりのジュディスへも向けられていった。


 王族・貴族の場合、子育ては主に乳母がおこなうが、メイヴィスはジュディスの世話を誰にも任そうとしなかった。それは元平民だからだと誰しもが思っていたし、私もそう思っていたのだが、今思えばメイヴィスはジュディスを守っていたのではないかと考えられる。


 常に寄り添い、慈しみ愛し、幸せそうに微笑むメイヴィスの姿しか知らなかった私は、メイヴィスに振り掛かっている火の粉に気づかずに、それゆえに振り払う事も出来ずにいた。


 ある日事件が起こり、突然メイヴィスとジュディスは姿を消した。


 何故いなくなったのか。何があったのか。こうなって初めて、私はメイヴィスとジュディスに起こっていた事を知ったのだ。


 その事件とは、少しの間メイヴィスがジュディスから目を離した隙に、ユスティーナがジュディスを短剣で刺した事だった。


 激しく泣き叫んだジュディスの元へ、メイヴィスだけでなく執事や侍女と騎士も慌てて駆けつけた。

 ベビーベッドに寝かされていたジュディスに、ユスティーナは笑いながら短剣で腹を何度も何度も突き刺していたそうなのだ。


 すぐに騎士はユスティーナを取り押さえようとした。しかし暴れるユスティーナを、王妃であるが故に強く拘束する事は出来ず、執事や侍女も正常な状態でないユスティーナを傷付けないように取り押さえるのに力を貸した。

 

 ジュディスを抱き上げたメイヴィスは、泣きながら血塗れになったジュディスを離さなかった。

 医師に見せると言っても首を横に振り、騒ぎを聞き付けてバタバタと騎士がやって来て暴れるユスティーナを取り押さえている隙に、メイヴィスとジュディスの姿はその場からなくなってしまったいた。


 そうなってやっと私の元まで、これまでの事が報告されたのだ。


 ジュディスはもう助からないだろうと思われた。誰が見ても、生まれたばかりの赤子のあまりの出血量に、その生を望める事はないと思われたからだ。


 それに、メイヴィスは医師にも見せずに王城を飛び出した。恐らくメイヴィスは、ジュディスが殺された事を受け入れられず、亡骸を抱いたまま脅威となる王城から飛び出したのだろうと、誰もがそう思ったからだ。


 しかし、私は信じられなかった。信じたくなかった。この目で見た訳じゃない。人伝に聞いただけだ。


 この事を聞いてすぐに駆け付けた私を見て、ユスティーナは気が触れたように、声を出してケタケタ笑い続けていた。

 

 最高潮の幸福から、私は一気に地獄へと突き落とされてしまったのだ。

 

 何が起こったのか、理解するのに時間を要した。だが落ち込んでいる暇は無かった。

 すぐに、メイヴィスとジュディスを探しだすべく騎士を動かし、自身も捜索に走った。


 しかし何処を探しても、メイヴィスとジュディスは見つからなかった。


 それは今も尚続いている。


 メイヴィスを、ジュディスを、愛した人を守れなかった自分が許せず、そしてメイヴィスを諦められる事等一時もできる事もなく、私は今もメイヴィスとジュディスを探し続けていた。


 そうしてやっとジュディスを見つける事ができたのだ。


 


 

  

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