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ただ一つだけ  作者: レクフル


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少女との出会い


 ジルがここまで来た経緯を話すと、シルヴェストル陛下は怒りを露にしたり、悲しみで目を潤わせたり、愛おしそうにジルを見たりと、一国の国王とは思えない程に表情豊かに話に没頭し、聞き入っていた。


 話し終わると、シルヴェストル陛下は大きく息を吐いて、ソファーの背もたれにドカッともたれ掛かり、上を向いた。


 ジルの壮絶な生い立ちに、心がついていってないのかも知れない。

 自分のただ一人の娘が殺されるような目に何度も合い、虐げられ、腕と脚は切断され多国の交渉材料とされていた事実に耐えられないのだろう。


 暫く上を向いていたかと思うと、次は下を向いて顔を手で覆った。どうしようもない怒りを堪えているようだ。

 無理もない。俺だって同じ思いだ。シルヴェストル陛下の気持ちはよく分かる。


 ジルはシルヴェストル陛下の様子を心配そうに見て、アデラという侍女へ目配せをする。アデラは困ったような顔をして、顔を横に振った。今は何も言わずにそっとしておいた方が良いのだろうな。


 何も言えないまま、ジルと俺は気まずそうにお茶を啜りながら、シルヴェストル陛下が落ち着くのを待った。


 暫くしてやっと落ち着いたのか、シルヴェストル陛下は大きく深呼吸してからジルを見て、無理矢理に微笑んでみせた。


 

「すまぬな。もう大丈夫だ」


「いえ……お気持ちは痛い程に分かりますので」


「うむ……」


「あの、陛下、大丈夫ですか?」


「ジュディス……余の事は気にしなくてもよい。大変だったのは……ジュディスだったではないか……」


「私はリーンが助けてくれたから、もう平気になりました。それに、腕も脚も戻ってきたし。あ、でも、お父さんに作って貰った義手と義足があったから、私はリーンに再会できたし、その……私はリーンとお父さんとお母さんに支えて貰えたから、今元気だし、幸せです」


「そうか……そうか……」


「あの……陛下、ジルはなぜこの国から連れ出されたんでしょうか?」


「そうだな……そなた達は知る権利があろうな」



 そう言いながら、シルヴェストル陛下は話してくれた。


 それはジルが生まれるよりももっと前の話に遡った……





 シルヴェストル陛下がまだ魔法学園の生徒だった頃。




 夏期休暇に、避暑地である別荘に滞在していて、その日は従者と共に狐狩りに森へ行った。

 狐を追っていった犬を追い、気付けば従者と離れ、つい森深くまで来てしまった。


 犬がいる方向へと馬を走らせると、やっと犬の姿が見えてきた。こんな所まで来てしまった、と思ってふと見ると、そこには狐を庇うように犬の前に立ち塞がっていた人物がいた。


 それは自分よりも幼い少女だった。


 こんな所に何故と思ったが、それよりもその少女を一目見た途端、まるで心臓を抉られるのかと思う程の衝撃が走った。


 木漏れ日に当たる白銀の髪は美しく様々な色を放ち、瞳も同じように潤んで色を変えていく。その顔立ちは幼いながらも美しく整っており、質素な服を着ているのだが、容姿はなんとも神秘的であり、天使か神の子かと思った程だった。


 その幼い少女に一瞬にして心を奪われてしまった。


 狐や犬の事など、もうどうでも良くなり、目の前の少女にしか関心を示せなくなって、馬から降りてゆっくりと少女に近づいていく。少女は警戒していたが、怖いのかブルブルと震えていた。


 少女に話し掛けるも、首を横に振って何も答えようとしない。何故ここにいるのか、親は近くにいるのか、家は何処なのか、そんな事を聞いたけれど、それには答える事はせずに、ただ下を向いて頭を横に振るばかり。


 少女の事が気になって、そのまま一人でその場所に置いていくわけにはいかなくて、戸惑う少女を説得するように言って、何とか警戒心を取り除いていく。


 少しずつ距離を縮めていき少女に近づいていくと、少女のお腹が鳴った。

 こんなに可愛くて可憐で、天使のようで神の子と見紛う程の少女が人間らしくお腹を鳴らした事が可笑しくて可愛らしくて、思わず笑ってしまった。

 少女は恥ずかしそうに下を向いたが、食事を一緒にしようと声を描けると、オズオズとしながらもゆっくり頷いてくれた。


 優しく頭を撫で、小さな手を取り、乗ってきた馬に乗せてあげると、驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。


 その微笑みは辺りをすべて浄化していくかの如く、自分の中にある汚い感情でさえも消し去ってくれているようにも感じられた。


 一緒に馬に乗り、森を抜けて従者と会い、それから森を出たところ食事をする。

 少女は余程お腹が空いていたのか、嬉しそうにサンドイッチやスープ、フルーツを食す。


 その様子は見ていて飽きることもなく、ずっと目を離す事が出来なかった。


 少女はなにも話さなかった。だからいくら質問をしても、何も分からないままだった。文字が書けるのなら、と思ったが、見たこともない文字か絵か分からないモノを書くだけで、やはり何も分からなかった。


 近くに村や街があるような場所ではないこの森になぜ一人でいたのか、その疑問は残ったままだが、そのまま捨て置けずに連れて行く事にする。


 少女は不安そうな顔をするが、一緒に食事をしたことで少しは警戒心を解いてくれたらしく、また馬に乗ろうと言うと、喜んで馬の元へと駆けて行った。


 一つ一つの行動が可愛くて、何気ない表情全てを見逃したくなくて、常に目で追う状態でいる自分に驚く。

 こんな事は初めてで、すっかり少女の虜になってしまったと早々に気づいてしまった。

 だがそれはどうすることも出来ず、それからの日々はその少女をどうにかして自分のモノにしたいという欲望のまま行動するに至っていく。


 それは現在もなおも続いている。


 そう話したシルヴェストル陛下は、昔を思い出しながら、懐かしむような表情をした。


 それは幸せそうで、しかし、やはりどこか悲しそうな感じがした。





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