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ただ一つだけ  作者: レクフル


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記憶を読む


 王城の一室で、私は出されたお茶を両手で包み込むように持って、少しずつ飲み込んでいった。


 温かいお茶は喉を通りすぎていき、ゆっくりと体を温かくしていってくれる。


 目の前には色とりどりの果物が乗った食べ物が置かれてあって、それが綺麗でなんだか美味しそうで、思わずジーって見つめてしまう。



「ジュディス、その……少しは落ち着いた、かな?」


「…………」


「ジュディス?」


「え? あ、私の事ですか?」


「ハハハ、そうだ」


「はい。その……さっきはすみませんでした」


「いや、ジュディスは悪くはない。何も悪くはないのだ」


「じゃあ、どうしてさっき、怒ったのですか?」


「……そなたの記憶を見たのだ。余はそうできる力を持っていてな。そなたがどうやって生きてきたのかを垣間見れば、我が娘と分かるだろうと、そう思ってな」


「記憶を……」


「勝手な事をして申し訳なかった。少しでも確証が欲しかったのだ。いや、疑っている訳ではない。そなたは間違いなく我が娘だ。それは自信を持って言える」


「でも……」


「幼い頃の僅かな記憶に、メイヴィスの姿が見えた。やはり間違いはなかった」


「お母さん……?」


「そうだ。だがそれは一瞬で、殆どの記憶が見るに耐えぬほど酷いものだった……っ!」


「あ……」


「すまぬ……余は何も知らなかった……何もしてやれなかった……怖かっただろう。辛かっただろう。寂しくて痛くて悲しかっただろう……」


「陛下……また涙……」


「大丈夫だ。辛い思いをしたのはジュディスだったのに、余が泣く等……しかし、許せぬ……あの国を余は絶対に許せぬっ!」


「……っ!」


「陛下! その顔はいけませんよ!」


「え? あ、ジュディス! 違う、違うのだ! 余は怒って等いない! いや、あの国には怒っている! だがそれはジュディスを思っての事で、ジュディスに対して怒っているのではなくてだな……! だ、だから怖がらないで欲しいのだ!」


「……ふふ……」


「ジュディス……」


「もう大丈夫です、陛下。アデラに聞いたから、あまり怖くなくなりました」


「まぁ……なんて素敵な笑顔……」


「ジュディス……あぁ……余の娘よ……」



 そう言って、陛下は両手を大きく広げて私に近づこうとしたので、それをまた両手を前にして阻むようにする。

 悪い人じゃないだろうけど、まだこれはダメだって思うから。



「あ、ちょっ、ちょっと待ってください! 抱きつくのはまだダメです!」


「そ、そうか……」


「陛下、少しずつですよ」


「アデラ……そうだな」


「聖女様、うちのパティシエ自慢のスイーツでございます。何か召し上がられませんか?」


「スイーツ……凄く綺麗で美味しそう……」


「えぇ。美味しいですよ。どちらを召し上がられます?」


「えっと……今は、いい……」


「あら、そうでございますか?」


「あとでリーンと食べたいの」


「リーン……その男が……ジュディスは……その……」


「リーンは何処ですか? 会いたいです。陛下、リーンは何処にいますか?」


「……呼び寄せよう」


「ありがとうございますっ!」



 私が嬉しそうにお礼を言うと、陛下も嬉しそうに笑ってくれた。


 陛下は私の記憶を見たと言った。多分、私が神官やヒルデブラント陛下から受けた、実験と称した拷問のような日々を見たんじゃないかな。

 だから怒ったのかな。私の為に怒ってくれたのかな。


 私の記憶だけ知られて、それはなんだかズルいって言うと、アデラは陛下の幼い頃の話をしてくれた。


 赤ちゃんの頃はよく泣いて、夜通しあやしたとか、ヤンチャで庭園にある花を片っ端から剣を振り回して斬ってボロボロにして王妃様に怒られたとか、冒険者の真似事をして従兄弟と森に入って迷って泣いてたとか、そんな話を楽しそうにアデラは教えてくれた。


 その度に陛下は、

「それは言うな!」

とか

「違う、泣いて等いない!」

とか言って、焦りながらアデラの話を妨害しようとしていた。

 だけど私が楽しそうに聞いてるのを見て、陛下は結局アデラに話を止めさせる事はしなかった。


 陛下は優しい人なのかな……


 私が知っている高貴な人達は、みんなみんな怖かった。 


 だからまだ慣れなくて、私は少し距離を置いて陛下を見てしまうけど、陛下は私が離れようとする度に距離をつめるように近寄ってきて、ソファーの端に追い詰められたところでアデラに怒られて、仕方なく元の位置に戻るという事が何度か続いた。


 そうしている時、扉がノックされてリーンが姿を現した。


 良かった! リーンは何もされてなかった!


 そう思ったら嬉しくて、すぐに駆け寄って抱きつきにいく。

 リーンも私を抱きしめてくれて、それが凄く嬉しくて頭をグリグリってリーンの胸に擦り付けてしまう。


 リーンは微笑んで私の顔を見て髪を見て、それから私の手を見た。優しく手を取って、指で私の指を撫でるようにしてから、そっと口付けた。


 リーンの唇が指に触れた感触に、やっぱり義手よりも感じるんだなって思ったら嬉しくて、もっとして欲しいって思って目を閉じようとしたら、大きな咳払いが聞こえてきた。


 振り返るように見ると、陛下はリーンを睨んでいるようだった。なんでかな。リーンは良い人なのに。


 リーンは陛下に向かって、キチンと頭を下げていた。リーンがするのを見て、私も同じように頭を下げてみる。リーンの真似していたら、きっと間違いはないよね。


 それを見た陛下は、何故か少し悲しそうな感じになった。表情がよく変わる人だなと思った。


 陛下に座るように促されたリーンは、陛下の前に座った。私はリーンの横に当たり前のように座ると、また陛下は悲しそうな顔をする。なんでそんな顔をするのかな?

 そんな顔をしないで欲しいと思っちゃう。


 自己紹介が終わり、リーンの前にもお茶が置かれた。



「ねぇねぇ、リーン。このスイーツ、美味しそうだよ。一緒に食べよう?」


「え? あぁ、そうだな。でもその前に話をした方が……」


「そうなの? ……分かった」


「よい。先に食すがよい。ジュディスはお前が来るのを待って食べずにおったのだ。ジュディスの好意を無駄にするでない」


「あ、そう、ですか……」


「あの、陛下……リーンに怒ってますか……?」


「いや、そんな事はない! 怒ってなどいないぞ!」


「良かった!」



 陛下は少しリーンにキツい言い方をしているように感じたけど、気のせいだよね?


 だって、リーンは凄く優しくていい人だもの。きっと陛下もリーンを好きになってくれるはず!


 私はリーンの腕をギュッて抱きしめたまま、リーンに

「ねぇ、どれを食べる?」

とか聞いて、アデラに取り分けてもらう。


 何故かリーンの顔は引きつっているように見えたけど、陛下も悪い人じゃなさそうだし、大丈夫だよね?


 

 

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