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ただ一つだけ  作者: レクフル


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知っていかなければ


 食事を終え、街の様子を見ながら歩く。


 ジルは辺りを見渡しながら、何かを考えているような感じで歩いている。


 さっきの食事に思うことがあったのか、昔を思い出しているのか……


 敢えて無理に話をする必要もないと思い、俺達は何も言わずに街を歩いた。だが、しっかり手だけは繋いでいる。


 店を出たときは既に陽が落ちていて、空には月と星があった。横にジルがいると、二人で夜空を見上げていた時を思い出して心が暖かくなる。

 店の軒先には魔道具の灯りがともり、仕事が終わった人達が続々と夜の街を行き交っていて、街は昼とは違う賑やかさを醸し出していた。


 

「ここは瘴気が少ないね」


「そうだな。ジルがいるしな」


「そうなんだけど……この国は守られてるから……」


「守られてる? 何にだ?」


「えっと……なんだろう……?」


「分からないけど、そう思うのか?」


「うん……なんか不思議な感じ」


「不思議な感じ?」


「ずっとね、この国に来てからね、なんだろう……懐かしいって感じてしまって……見たこともない景色ばかりなのに、知らない人ばかりなのに……」


「そうか。もしかしたら、ジルはこの国で生まれたのかも知れないな」


「え? そうなの? なんで?」


「前に聞いた事があってな。ここは聖女が生まれる、神聖なる村って言うのがあるらしいんだ。だからジルの故郷かも知れないと思ってな」


「私の故郷……」


「あぁ。だからそこに行ってみようか。ジルの事が分かるかも知れないからな」


「私の事……」


「知りたくないか?」


「分からない……」


「ジル?」


「リーンと一緒にいられるなら、もうそれで良い。自分が誰かなんて、どうでも良い。私は私だもの」



 そう言いながら、ジルは俺にピッタリと寄り添ってきた。なんだか不安がっているような感じだ。


 それはそうか……


 物心ついた頃には、ジルは薄暗い部屋に一人でいたと言っていた。俺と旅をするようになってそれが普通じゃなかった事を知ったジルは、なぜ自分がそうされていたのかを知るのが怖いのかも知れない。

 自分を愛するであろう両親の記憶は殆ど無く、常に一人でいたジル……

 

 愛された記憶があるのだとすれば、それは俺の両親だけだったんだろう。


 いや、俺もジルに愛情を持っている。両親がいなくなった今、俺が両親の分までジルを愛していこうと思う。それは同情だとか義務だとかではなく、俺がそうしたいのだ。ジルを愛したいのだ。


 

「ジルが知りたくないのなら、無理に知ろうとしなくて良い。二人で旅をして、良い場所があればそこで暮らそう。冒険者をするのも良いな。父さんみたく、鍛治職人も悪くないしな」


「リーン……」


「どうだ?」


「うん……! うん! そうする! そうしたい! リーンと一緒に暮らして、一緒にお仕事する! ずっとリーンと一緒にいる!」


「あぁ。ずっと一緒にいよう」


「うん……!」



 嬉しそうに頷いて、ジルはより俺にくっついてきた。肩に頭を擦り付けるようにグリグリしてくる。そう言えば前もそうだったな。と思い出して、納得した。

 ジルが前までつけていた義手や義足は触れた感覚が無かったようだから、あの時のジルが触れたと感じられるのは、頭や顔を俺に擦り付けるくらいだったのだろう。

 

 ジルの一つ一つの行動を思い出す度に、そうする事しか出来なかったのだと分かり、胸が締め付けられる。


 そんなジルの頭を優しく撫でて、俺もジルの頭に自分の頭をくっ付けてグリグリした。

 そうされてジルは俺の方を見て、ニッコリ笑う。

 そうしている俺達の様子を見た街の人達は、珍しいモノでも見るような目を向ける。きっと男同士だと思われているのだろう。


 それでも構わないし、国が違えばそんなカップルも認められている。ここがどうかは分からないが、そんな二人だと思われても何も問題はない。

 何故なら俺はジルが男だと思っていた時、すでにジルをそんな対象としていたからだ。まぁ無意識だったが。


 本当に好きになったら、性別等関係ないのだな。こんな感情は初めてだ。それだけでもジルに会えた事に感謝したいくらいだ。


 しかし、ジルは自分の事を知りたくなさそうだったが、俺はやはり気になっている。ヴァルカテノ国は聖女の持ち物を奪おうとしているのだ。それは聖女を求めていると言う事なのだろう。


 と言う事は、ジルを探していて、我が物にしようとしているのではないか。


 ジルは聖女だ。それは知られてはいないが、知られればジルは何処にいても求められる。流石に元いた国、フェルテナヴァル国のような扱いはしないだろうが、囚われの身となるのは容易に想像できる。


 だからジルを聖女だとは知られてはいけない。


 こんな格好をしていたお陰で、ジルは殆どの人から男と間違われている。それで良かった。男を聖女と思うことはないからな。


 どこの国へ行ってもジルは求められる存在になってしまう。それでもヴァルカテノ国にはいない方が良いのではないか? ここから離れた方が良いのではないか……?



「なぁジル、この国をどう思う?」


「え? この国?」


「あぁ。その……人々の様子とか、街の様子とか……まだ来たばっかりで分からないと思うが……」


「んー……えっとね、なんか過ごしやすそうな感じがする」


「過ごしやすそう?」


「うん。懐かしい感じがするし、空気が肌に馴染むって言うのかな。戻って来れた……みたい、な……」


「戻って来れた……」


「なんかよく分からないけど、不思議な感じ」


「そうか……」



 やはり、ジルはこの国と深い関わりがあるのか……


 ジルは知りたくないと言っていたが、調べた方が良さそうだな。それはジルを守る為に必要な事だと思うから。


 顔を見合わせて笑いあう。


 この笑顔を守る為に、真実を知っていく必要がある。


 いや、知っていかなければならないのだ。

 



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