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ただ一つだけ  作者: レクフル


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抑制力


 ヴァルカテノ国へはその日のうちに到着した。


 国境にあるすぐの街へたどり着き、そこで今日は泊まる事にする。


 以前のように部屋を二つ取ろうとしたら、ジルが悲しそうな顔をする。



「リーン、別々の部屋?」


「え……っと……前はそうしてた、から……」


「一緒はダメなの?」


「ジル、それは……」


「なんだい、兄さん達。潔癖症とかじゃなければ、一緒で良いんじゃないかい? うちの部屋は広めだから、二人でも問題ない筈さ」


「うん、そうする!」


「はい、じゃあ鍵ね。二階の一番奥の部屋だよ」


「あ、ちょっ……っ!」



 受付の女将にそう言われて、ジルは意気揚々と鍵を受け取るとさっさと二階へと進んでいった。さっき俺に自分の状態をさらけ出したから、ジルはもう問題ないと思っているのだろう。

 勿論、俺はジルの体の事を気にはしない。俺が気にしてしまうのは自分の抑制力だけだ。


 先に部屋へ行ったジルの後を追うようにして、俺も部屋へと入っていく。


 外套を脱いで肩当てや胸当てを外すジルをつい見つめてしまう。

 胸当てを外すと、ジルの胸の膨らみがシャツを通しても分かってしまう。俺はどうしてジルを男だと勘違いしてしまったんだろうか。こんなにも華奢で、だけど女性らしい身体なのに……


 って、何をマジマジ見てしまっているんだ! はしたない!


 

「リーン、どうしたの?」


「あ、いや、な、なんでもないっ! それより腹、減らないか?!」


「うん! お腹すいた!」


「なら食事に行こう。ここの一階にも食堂はあるが、街の様子を見るのも兼ねて、別の場所に行くのもいいかな」


「そうだね、そうしよう!」


「少し休憩してから行こうか? 脚とかは……痛くないか?」


「うん、痛くない! この義手も義足も凄いの! 歩いても痛くならないの! 凄く動かしやすいし! だからすぐに行けるよ!」


「前は痛みがあったんだな?」


「まぁ……少し、だけ?」



 長く歩くとジルは顔には出さなかったが、歩くペースが落ち、辛そうだったのを覚えている。少しくらい愚痴を言っても良いのに、俺や父さんの事を気遣ってくれていたんだろうな。


 

「それにね、新しくなってからね、触れてる感覚が少し分かるの! だから力の調整がしやすくて!」


「そうなのか?」


「本当にお父さんは凄い!」



 嬉しそうに言うジルの手を取ってみた。感触は人の肌に似ているが、温度はやはり感じられない。それでもこれはジルの手だ。作られた物であっても、これはジルの手なんだ。


 ベッドに腰かけているジルの横に座り、触れた手にそっと口付ける。驚いた顔をして、ジルは俺を見る。



「どうだ? 分かったか?」


「うんっ! なんか、柔らかいのが当たったってのは分かった……!」


「そうか」



 俺が微笑むと、ジルが不思議そうな顔をする。どうしたのだろうか……



「リーンはどうして唇で触れてくるの?」


「えっ?!」


「あ、それが嫌とかじゃないよ! でも、そうされたのが初めてで……これはリーンの癖? でも、前はこんなことしなかった……あ、一度だけあった! リーンの故郷の村の近くの川縁で! 目の所にそうしてくれた!」


「ジル、それは……!」


「リーン? どうしたの? 顔が赤いよ?」


「いや……ちょっと……」



 俺は無意識にジルにそうしてしまっている。あの時は、ジルが男だと思っていたのに、そうしてしまったんだった。きっとあの時から性別とか関係なしに、ジルに好意を寄せていたのだろうな。


 しかし、それを指摘されるとなんとも言えないほどに恥ずかしくなる……! ジルは何も分からずに、疑問に思ったから聞いてくるのだろう。どう答えればいいのか……



「唇にもしたよね? あれはなんか……頭がフワフワする感じがして……すごく気持ち良かったの」


「ジルっ!」



 思わず手で顔を覆ってしまう。何も分からないって最強だな。いや、ダメだ。キチンと教えなければ! ジルが誰にそうさせても良いと思ってはいけないからな! 



「ねぇ、リーン? どうしたの?」


「ジル……俺はジルが好きだ」


「うん。私もリーンが好きだよ」


「だから口付けをする。これは好きな人以外にしてはいけないんだ」


「嫌いな人にはしちゃダメって事なんだね?」


「そうだ」


「うん、分かった!」


「……ほ、本当に分かっているのか……?」


「うん! だって陛下とか神官達には、したいとか思わないもん!」


「まぁ、そうだろうけど……」


「うん、好きな人だけにする!」


「あ、けど、好きだからと言っても、誰にでもして良い訳じゃないぞ?」


「え? どうして?」


「本当に心から好きな人じゃないとダメなんだ。……分かる、か?」


「本当に好きな人……?」


「そうだ」



 何やら考えているが、ジルにはまだ分からないだろうか。人とふれ合う事を知らず、虐げられるばかりだったジル。愛すると言う意味が分かっていないのかも知れない。


 俺を好きだと言うのも、異性としてではないのかも知れない……


 気持ちをキチンと確認していないのに、迂闊な事をしてしまった。これからは慎重にならないといけない。


 俺はジルを前にして我慢できるか? いや、自制しなければ。

 ジルは俺の事を、家族を思うような感覚で見ているのかも知れない。言うなれば、兄として慕っているのかも知れないって事だ。


  ジルがちゃんとどういう事か分かってから、こういった事は進めていかなくてはならなかった。感情に任せて行動してしまった自分が情けない……!



「私、リーンの事……本当に好きだよ……?」


「あぁ、俺もジルを本当に好きだよ」


「じゃあ、唇を合わせても良いって事だよね?!」


「……っ!」



 無垢すぎるし、可愛いすぎるし、もうどうして良いか分からなくなってくる……!


 ニコニコして俺を見つめるジルに、俺も何とか笑顔で返す。


 抑制力がどこまで持つか、それがこれからの俺の課題となりそうだ……


 


 

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