表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ一つだけ  作者: レクフル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/141

ジルへの想い


 あの搭から落ちてきたジルを受け止めて、俺は転移石を使って即座に朝いた街の近くの森にやって来た。


 狼狽えているジルを見ると、ジルには左腕が無いように見えた。


 それには流石に驚いてジルの無事を確認したが、その時にとんでもない事をジルから聞いた。


 ジルの腕や脚は切断されて、交渉材料として使われ、今は他国にあるのだと言う事を……!


 信じられなかった。この世界に蔓延った瘴気を祓う事ができる唯一の存在である聖女に……ジルに、それはあまりにも酷い仕打ちだった。


 ジルは王城地下から助け出された後、俺の両親の住む家で共に生活をしていた。

 俺の両親はジルを本当の娘のように扱ってくれていたらしく、二人の事を話すジルは幸せそうだった。


 そして奪われた手足の代わりに、父さんがジルに義手と義足を渡した事を知った。

 

 義手や義足を動かすのには魔力が必要となる。膨大な魔力を持っているジルであれば動かす事は可能だろうが、膝部分、足首、足裏と、立ち上がるだけであったとしても、その魔力コントロールはかなり難しいと思われる。

 

 それは腕であってもそうだ。


 物を持ち上げる、物を掴む、という単純作業でさえ、どこに魔力をどれくらい這わせるのかはかなり困難だと容易に想像出来る。


 だからジルは不器用だったのだ。


 スプーン一つ持ち上げるのでさえ難しいのに、ナイフやフォークを使いこなすのはかなり苦労しただろう。それでも俺と旅をしていくうちに、段々慣れて上手に出来るようになっていた。


 すごい……本当にジルはすごい……


 それは魔力が高いからだとか、コントロールが巧みだとか、そんな次元の話ではない。いや、勿論それもすごい事に変わりはないのだが、そんな状況下であったとしても、立ち向かってゆける精神力がすごいと言わざるを得ないのだ。


 ジルの今まで受けた仕打ちを知って、もしそれが自分に課せられた事だとしたら、俺は正気でいられる自信がない。とっくに精神は崩壊していたのではと考えてしまう。


 俺がジルの事で知っているのは、きっとほんの一部なのだろう。何年も長い間、ジルは理不尽な暴力に耐えてきていたのだ。それは俺が知るよりももっと残酷で酷い状況だっただろう……


 それでもジルは俺に微笑んでいた。嬉しそうに幸せそうに、俺を見て笑っていたんだ。


 事実を知れば知るほど、胸が苦しくなってジルへの想いが溢れてくる……


 そう思うとジルを抱きしめたくて仕方がなくなってくる。頑張ったなって、よく耐えたなって言ってやりたくて、でもそんな簡単な言葉では労れないような気がして、ジルを強く抱きしめるしか出来なくなる。


 健気で強くて……だけどジルは女の子だ。ずっと虐げられてきて、誰にも助けを求められなかったけれど、ジルは女の子なんだ。

 こんなか弱い子に、どうしてアイツ等はこんな酷い事が出来たんだ……!


 涙に濡れるジルは儚げに見えて美しい。けれど、笑った顔はもっと美しいのを俺は知っている。

 

 もう泣かせちゃいけない。これからは俺が守ってやらないと……!


 そんな想いが胸を占領して、俺はジルに許可も得ずに口付けてしまった。それにはジルが驚いていた。

 どうやらジルはそうされるのが初めてだったようで、なぜそうされるのかも知らなかったようなのだ。


 無垢すぎる……


 そんなジルの反応がまた俺の気持ちを鷲掴みにする。


 俺以外が地下から出てきたジルと知り合ってたら、ジルはどうされていたんだ? 

 いや、地下にいた時が最悪の状況だったから、余程じゃない限りそれ以上酷い事になるとは考えられなかったが、それでもこんな何も分からないジルを良いようしようとする輩はあちこちにいた筈だ。


 あぁ、良かった。あの時ジルに出会えて……


 きっとあの時も……森で倒れて起き上がれなかった時、義手や義足に上手く魔力を這わせられなかったんだろう。

 だけどそんなジルに出会えたのが俺で良かった。本当に良かった。


 お互いが謝り合って、俺達の間の(わだかま)りみたいなのを無くしていく。俺は今、ジルが傍にいてくれたらそれで良い。これからは俺がジルの傍にいて、ジルを守っていきたい。


 そんな想いがあってジルを抱きしめていると、ジルがもう一度口付けて欲しいと言ってくる。

 好きな子にこんな可愛らしい事を言われて、拒絶する男など俺は知らない。


 ジルが可愛い……愛おしい……


 そんな想いから、つい本能に任せて口付けてしまった。


 これ以上続けると歯止めがきかない! と思った俺は、ジルから少し体を離した。

 ジルは頬を高揚させて、目がトロンとしていた。それがものすごく艶っぽくて、心臓が煩い位にバクバクした。


 俺は目を逸らして、意識を別の方向へと向ける。じゃないと、自分が暴走しそうだったからだ。

 ったく、だからいくつのガキだよ! 俺は!


 ジルにヴァルカテノ国に行くことを提案してみると、俺と一緒なら何処だっていいと言ってくれる。マジで可愛い。可愛すぎる。


 その時にハッとした。


 ジルは今片腕しか義手がない。初めて両親の家に入った時、父さんの仕事場に置いてあった義手と義足を、そう言えば俺は持っていたんだった。

 そうか、あれはジルに渡す物だったのか。父さんなりに考えて作った物なのだろうな。


 

「ジル、俺は前に実家に行った事があってな。父さんの仕事場に義手と義足があって、俺はそれを持って来たんだ。その時は誰に作った物か分からなかったが、それはジルに作った物だったんだな」


「お父さんが……?」


「渡す前にジルと離れ離れになってしまったんだろうな」



 そう言って俺はアイテムバッグから義手と義足を取り出し、それをジルに手渡す。


 ジルはそれを見てまた目を潤ませてしまった。



「お父さん……私の事、考えてくれてたんだね……」


「つけてみるか?」


「うん」



 ジルは土魔法で家を作り出した。野宿の時にいつも出す、簡易的な家だ。

 その構築の速さはやはり流石だ思う。久々に見れて、なんだか懐かしい気持ちになった。



「ジル、その……一人で大丈夫か?」


「あ……うん……多分」

 

「俺は外で待っているから、何かあれば呼んで欲しい」


「分かった。ありがとう」



 義手と義足を抱えるようにして、ジルは家の中へと入って行った。


 暫く外で待っていると、か細くジルが俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 何か不具合でもあったのかと、入る事を告げて承諾を得てから家へと足を踏み入れた。


 家の中は外から見るよりも広く大きく、テーブルに椅子、ベッドもあった。きっと、もっとちゃんと時間をかけたら、この中は生活しやすい空間にする事が出来るんだろうなと思えた。


 ベッドにいるジルに目を向けて、俺は思わずピタリと足を止めてしまう。


 服を脱ぎ、インナーのみとなった姿だったが、両足と片腕がなく、右腕しかない状態で、ジルは困った表情で俺を見上げていた。

 

 その姿に、何も言えなくなったのだ。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ