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ただ一つだけ  作者: レクフル


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無くしたモノ


 自分の身体中から出現した光は辺りを眩しく包み込み、それに驚いた神官達は突然苦しみだし、その場で苦しむようにしてバタバタと倒れていった。


 外に張られてあった結界も崩れたようで、大きな音が鳴り響いていた。

 

 私は何もしていない。何かしようとした訳でもない。強く拒絶するように身体中に力を込めた。ただそれだけだった。


 その様子を驚いて見ていたのは陛下一人だった。そこに立っていたのは陛下だけだったのだ。



「貴様……何をしたのだ……?」


「私はなにも……っ!」


「その溢れる光はなんだ? 国宝である防具を身に付けていなければ、余も神官共と同じようにされていた、という訳か?」


「わ、私は! ただ見えなくなる事が嫌だっただけなのです!」


「余にも攻撃の意思を見せたという事ぞ……ただで済むと思うでないわ!」



 言うなり陛下は炎をいくつも出現させ、私にもあちこちにもぶつけ始めた。自分に向かって攻撃された事に憤ったのだろう。攻撃した訳じゃないけれど、そう受け取られてしまった。


 陛下の放つ火魔法を、結界を張り防ぐ。傷つけたい訳じゃない。ただここからひっそりと抜け出したかっただけ。だから防御に徹したけれど、私に防がれて更に怒った陛下は、魔力を手に込め始めた。



「止めてください! 部屋が無茶苦茶です! 陛下!」


「余の攻撃がこうも防がれるとはな! 流石は聖女と言ったところか!」



 躍起になった陛下は手から大きな炎が出現させ、それを勢いよく私に飛ばせてきた。強力な炎を防ごうと思った瞬間、また私自身が光だした。途端に陛下は弾かれるように壁にドンッと体を打ち付けていた。


 光った事に自分が驚いてしまって、放たれた炎を防ぐのが遅くなって、何とか瞬時に自分自身に結界を張ったけれど、勢い余って私は弾き飛ばされてしまった。


 私の体は窓を突き破り、外に投げ出されてしまったのだ。


 急いで風魔法を放ち、落下速度を落とそうとすると、体はフワリとしてゆっくりとした速度となった。良かった。

 向きを変えて着地場所を確認しようとしたら、そこにはリーンがいた。



「ジルっ!」


「リーンっ!」



 あぁ、リーンだ! リーンが私を受け止めようと両手を広げてくれている。 

 やっぱりリーンは鮮やかな陽の中にいて、いつも私を助けてくれる。


 嬉しくなって私も両手を広げて、リーンに受け止めて貰おうとした。


 その腕に、その胸に届こうとしたその時、私の左手首に黒いヒモのような物が巻き付いた。

 ガクンと落下は遅くなり、腕は上に引っ張られるようになっている。

 

 手首に巻き付いた黒いヒモのような物の先を見ると、その黒い物は陛下から放たれた闇の魔法だった。陛下が窓から身を乗り出し、私を捕らえ逃がさないようにしていたのだ。


 流石と言うべきか、陛下の魔法の能力は凄かった。闇魔法が私の手首から離れない。もがけばもがく程に、この闇魔法は手に、腕に絡み付いて離れない……!


 ……嫌だ! 


 嫌だ! リーンが目の前にいるのに! ここで離されるのは耐えられないっ!



「嫌だ! 嫌だよ! リーンっ!」


「ジルっ! 手をっ!」



 伸ばした手をリーンが掴んだ。その手をグイッと引き寄せ、私の体はリーンの腕の中に抱き寄せられた。

 だけど絡み付いた闇の魔法は私を離さなくて、もがくようにして肩を強引にリーンに寄せた時……


 ビキビキ……バチンッ!


 って音が鳴って腕から義手が外れ、私の体は一気に解き放たれ、リーンの腕の中にスッポリと落ちるようにしておさまった。


 何が起きたのかリーンははじめ、よく分からなかったみたいだったけど、私が解放されたのが分かって、すぐに転移石を取り出した。


 私の腕にあった義手は陛下の闇魔法に絡め取られてしまった。



「あぁ! 私の……腕……っ! お父さんがくれた……っ!」


「ジル、すぐにここを離れるぞ!」


「お父さんっ!」



 目の前が光り、景色が見えなくなっていく。眩しさに目を閉じて、その光が無くなってからゆっくり目を開けると、私はリーンに抱き寄せられたまま森の中にいた。


 リーンは私を抱きしめて、暫くそのまま離そうとしなかった。それは嬉しかった。けれど、私は無くなってしまったお父さんが作ってくれた義手の事が気になってしまって、素直にこの状況を喜べなかった。



「リーン……リーンっ!」


「ジル? どうした? もう大丈夫だぞ?」


「腕が……! 私の腕……っ!」


「え……」



 訴えるように言った私を漸く離したリーンは、その時初めて私の様子に気づいたようだった。

 私の左の袖部分がダランとしているのを見て凄く驚いたリーンは慌てだした。



「ジル! 腕が! どうした?! どうなった?! 大丈夫か?!」


「リーンっ! お父さんがくれた腕がっ! リーン、どうしよう?!」


「ジル……痛みはないのか……しかし……」


「ごめんなさいっ! お父さんっ!」


「ジル……?」



 私が無くなってしまった腕を気にして戸惑っているのを見て、リーンは私を落ち着かせようとしてくれた。

 きっとリーンも驚いているんだろうけど、なによりも私を落ち着かせる事が先決だと思ったんだろう。


 木を背にして二人座り込んで、リーンはそこで私の体の様子を確認しようとしてくれたけど、それには私が戸惑ってしまう。

 狼狽えている私をリーンは抱きしめて、背中を何度も何度も優しく撫でて、

「大丈夫だから」

って言ってくれる。


 少しずつ落ち着いてきた私は、この状況を隠す事はできないと思った。心配するように私を見るリーンに、意を決してこれまでの事をポツリポツリと一つずつ話していった。


 

「それじゃあジルの腕や脚は……!」


「何処か……他の国に……」


「なんで……そこまで……っ!」


「この腕と脚は……リーンのお父さんが作ってくれたの……私を娘だって言ってくれて……リーン……ごめんなさい……私がいたからお父さんとお母さんは……」



 リーンのお父さんとお母さんが殺されたのは私を匿ったからで、私さえいなければお父さんとお母さんは今も王都で幸せに暮らしていた筈で……


 リーンに申し訳なくて、私を助けると言ってあの搭まで迎えに来てくれたのに、こんな事実を告げられてリーンは怒ったのかも知れないと思ったら顔を見れなくて、ずっと下を向いたままになってしまって……


 するとリーンは私の頬を両手で包み込むようにして顔を上に向かせ、しっかりと目を合わせてきた。その顔は怒ってなんかなくて、心配そうな面持ちだった。

 


「あぁ……またそんなに泣いて……ジルは笑顔が似合うのに……」


「でも……私のせいでお父さんとお母さんは……!」


「ジル、それは違う。ジルのせいじゃない。ジルは何も悪くない」


「でも……でも……っ!」


「もう充分だ」



 そう言ってリーンは私を抱きしめた。


 リーンの腕の中は暖かくて、また私は泣いてしまった。


 笑顔が似合うって言ってくれたリーンに笑顔を見せたいのに、リーンの言葉が嬉しいのに、今は笑うことが出来なかった……

 

 


  

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