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ただ一つだけ  作者: レクフル


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自分の力


 エルマがリーンと話したと言って、ここから逃げ出す事を承諾してくれたと言った。


 その言葉が本当に嬉しくて、信じられない気持ちになった。


 だけどまたリーンに迷惑をかけてしまうと思ったら素直に喜べない。そうエルマに言うと、

「人の事ばかりではなく、もっとご自分の事をお考えください!」

って、なんだが怒られてしまった。


 エルマが買ってきた首飾りを身に付け、ロケット部分に私の髪を入れる。髪はエルマが

「綺麗に整えましょうね」

と言って切ってくれた。


 勿論、首飾りは魔法で様々な能力アップを付与しておいた。これをつけていたら、多少の物理攻撃や魔法攻撃を防いでくれる。もちろん瘴気も祓ってくれる。だからここにいる人達が咎められる事はない。はず!


 未だ自分の力がどれ程のものか、なんて分かっていない。けれど、自身が付けている首飾りにこれだけ魔力を奪われているのに、それでも普通の人よりは多い魔力がある。だからきっと皆を守る事が出来ると思う。いや、そう思わないと私はここから脱出するなんて事は出来ない。


 ここで揺れ動いちゃいけない。リーンが私を助け出す手助けをしてくれるってエルマは言っていた。私はそれを信じたい。ううん、信じる!


 明日、リーンが来てくれる。何時頃に来るのかな。本当に来てくれるのかな。

 

 夜、そんな事を考えているとなかなか眠れなくて、私は布団の中で明日の事ばかりを思っていた。無事に抜け出せるかな。


 エルマが言ってた。この搭には地下通路があって、そこから王城まで行けたり、王都まで行けたりするらしい。

 木々が生い茂る場所に出られるし、迷路のようになっていて、色んな場所に出られるようになっている。これは城が攻められた時に抜け出せるように作られていて、詳しい地図は王族でないと分からないそうだ。


 エルマは伯爵家の三女で、王族に仕える侍女だったから地下通路の存在を知っていたらしいし、搭から王都へ行く抜け道は知っていたそうだ。

 身代わり聖女と時々王都へ行くこともあったそうで、陛下は身代わり聖女には結構自由にさせていたと、この時初めて知った。

 だからあんなにドレスや鞄に靴、装飾品が多かったんだと納得できた。


 陛下は身代わり聖女には甘かったんだ。私はこの部屋から出る事も出来なかったのに。

 けどいい。明日でここを離れる事になるから。


 次の日、まだ外は薄暗く陽もやっと顔を覗かせる位の位置にある頃から起き出して、私はエルマが来る前に身支度を整える。

 服はお母さんが作った服を着た。やっぱりこの服を来ていると安心する。


 持ち出せる物は持って行こう。陛下から時々ドレスやアクセサリー等の装飾品が贈られてきて、私はそれを身に付ける事は陛下が来るとき以外無かったけれど、これを街で売ればお金になるかと思い、異空間に収納しておくことにした。

 お金は大事だから。それもリーンに教えて貰ったことだ。リーンに会ったら、もっと色々教えて貰おう。きっとまだまだ分かっていない事がいっぱいあると思うんだ。


 あぁ、考えるだけでワクワクする……!


 だけど不安もある。本当にここからちゃんと逃げ出せるのか。エルマが用意した首飾りはちゃんと魔法を付与して、ロケット部分に私の髪を入れたけれど、本当にそれで問題ないのか。

 

 様々な感情が入れ替わり立ち替わり胸に渦巻くけれど、その度に深呼吸をして心を落ち着かせる。大丈夫。きっと大丈夫。


 いつもより早い時間にエルマが来た。エルマも少し緊張してるみたい。私は身に付けていた首飾りを外し、それをエルマに渡す。その一つをエルマは自分の首に装着した。するとエルマは目を見開いて、顔は高揚したように頬を赤らめうっとりした感じだった。

 普段あまり表情を変えない彼女からは見たこともない顔をしていた。



「ジル様、こんな素晴らしい物をありがとうございます。貴女様は本当に素晴らしい方です」


「首飾りを買ってきたのはエルマでしょ? 私は付与しただけだよ?」


「その付与が出来る者が殆どいないのでございます! しかも体に溜まっている悪いものや瘴気等が体から全て無くなったようにも感じます!」


「そう? ふふ……良かった」


「やっと笑ってくださいましたね」


「あれ……本当だ」


「その調子でございます! 今日は地下通路を使って、王都へ行きましょう。待ち合わせ場所を用意しております。そこにリーンハルト様と落ち合うように、私がリーンハルト様に伝えます。その手筈でよろしいでしょうか?」


「えっと……うん、それで問題ないなら良いんだけど……本当に大丈夫かな……」


「地下通路は私も何度も使っておりますので問題ありませんよ。大丈夫です。気をしっかりお持ちになってくださいませ!」


「うん……うん、ありがとう、エルマ……!」


「そうです。その調子ですよ、ジル様! では私は他の使用人達にこの首飾りを渡して参りますので、少しだけお待ちくださいね」


「うん、分かった」



 いよいよだと思うとドキドキする。

 大丈夫かな?大丈夫だよね?


 窓から外を眺める。少しずつ陽が昇ってきていて、太陽が辺りを明るく照らしていく。あの陽のあたる場所に、私ももうすぐ行けるんだね。

 そんな風に思って見ていると、遠目にリーンの姿が見えた。


 あぁ、リーン……まだ朝なのに、もう来てくれたの? 少し待っててね? エルマが帰って来たらここからひっそりと抜け出すからね。


 駆けて来るリーンの姿を見ていると、扉の外から足音が近づいてきた。

 バタバタと何人もの足音が部屋にまで響いて、それから扉が大きな音を立てて

『バァァァンッ!』

って勢いよく開けられた。


 そこにいたのは陛下と神官達だった。



「陛、下……っ!」


「お前……ここから逃げ出そうとしているのだな……?」


「なぜ……どうして……?」


「三日の猶予を与えれば、お前は逃げ出す算段をすると思っておったのだ。侍女がなにやら怪しい動きをしておったのでな。こうして朝早くにきてやったわ」


「そんな……」


「ハハハハ! それだ! 余はお前のその怯えた顔が見たいのだ! 逃げ出せると思っていたのにそれが叶わぬとなったお前の絶望の顔がな!」


「……っ!」


「で、大神官よ。これからどうするのだ?」


「はい。魔法で眠らせてから眼を抜き出します」


「そうか。なら早速そのように」


「御意に!」



 まただ……! またそうやって私を眠らせてから奪っていく……! そして次は激痛で目覚める。その時にはもう私の眼は無くなっている……


 嫌だ! 嫌だ! 絶対に嫌だ! 


 リーンがすぐ近くにいるのに! 私を迎えに来てくれてるのに!


 目をギュッって瞑って、ここにいる人全てを拒否するように身体中に力を込める。


 すると私から光が溢れだした。


 それを見た陛下や神官達は驚いた顔をした。


 でも私も自分の力に驚いた。


 



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