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ただ一つだけ  作者: レクフル


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望むのは


 恐らく使われたのは魔道具で、それは一瞬にして別の場所に転移できる物だったんだろう。


 北にあったあの村で目を閉じてから、次に目を開けた時には景色は全く変わっていて、そこは王城にある部屋だと思われた。


 高級な家具に調度品、天井の高い部屋には、大きな窓から優しい陽射しが入り込んでいる。それだけが私の救いのように思えてならなかった。


 そこにやって来たのは男の人で、その人は初めてここに連れて来られた時に、私に対して色々と指示を出していた人だと覚えている。


 その人が部屋に入ると、皆が一斉に頭を下げる。この人がいちばん偉い人なんだろうなって、それだけで分かってしまう。その人は奥にある重厚なソファーにドカッと座ると、私を見てニヤリと笑った。その眼光の鋭さに背筋がゾクリとし、冷や汗が流れる。



「ようやく見つかったか」


「遅くなり、申し訳ございません!」


「これがあの時の子供か……美しく成長しておったのだな」


「は……しかしこれは罪人の子で……」


「分かっておる。卑しい身分の者であろう? だがそれは聖女の身代りである者とそう変わらぬ」


「しかし彼女は罪人ではございません!」


「平民であれば何ら変わらぬ。どれ、余が本物の聖女の味見をしてやろうか」


「陛下、それは……!」


「分かっておる。冗談だ。誰が手足もない下衆な女等に手を付けるか。この身が穢れてしまうわ」


「そ、そうでございます、ね……」


「それに、曲がりなりにも聖女なのだ。純潔を奪えばその効果は無くなるやも知れぬ」


「その可能性もございますね……」


「まだ役立って貰わねばな。これでやっと交渉を再開できようぞ」


「えぇ。あの左腕を使えば、かなり優位に立てるかと」


「向こうはなかなか交渉に応じぬ我が国が焦らしておったと思ったであろうな。今回はそれが功を奏した」


「左様でございますね。しかし、聖女の腕や脚を狙っている国があると小耳に挟みました。それは真なのでしょうか?」


「うむ。ヴァルカテノ国という、遠国になる。どの様な国か、交流が一切ないので分からぬが。大方そこも瘴気に侵されて国が立ち行かんのだろう。まだこちらまでそれ以外の情報はないのだがな」


「成る程。そんな遠国まで聖女の事は知られておるのですな。益々この者は手離せませんな!」


「当然だ。我が国の礎となって貰わねばならぬ。それが聖女の在り方よ」


「その通りでございます!」


「あ、の……」


「貴様っ! 王の御前で許可なく発言するとは何事か?!」


「よい。その者の発言を認めよう」


「なんと慈悲深い……」


「娘よ。何か申すことでもあるのか?」


「私の、変わり、の……聖女、を、解放して、くだ、さい……」


「ほう……」


「いきなり何を言い出すか! 無礼にも程があるぞ!!」


「よい、大司教。余が発言を許したのだ。出るでない」


「は……申し訳ございません……」


「塔に、閉じ込め、られてるっ、て、聞き、ました」


「そうだ。余が可愛がっておる。まぁ、最近は少々飽いてはきたが」


「では……」


「ならぬ。聖女を皆に披露する場は必要ぞ。お前がそれに立つと言うのか?」


「私の、手足、は……他国に、ありま、す」


「……他国の者が身代りの聖女の事をどう思うか、と申しておるのか?」


「は、い……」


「成る程な……で、お前がそれを望むのは何故だ?」


「それ、は……」



 それはリーンが身代りの聖女が好きだから……


 とは言えない。リーンの旅の目的は聖女を想っての旅だった。それは私ではなく身代りの聖女の……


 だからそれが私がリーンにできる最後の事だと思った。もう囚われなくて良いんだって。自分のせいだなんて思わなくって良いんだって、そう言ってあげたかった。


 彼女が自由になったら、リーンは想いを遂げる事ができる。共にいられるのが私じゃないのが悲しいけれど……


 それでも、リーンから奪ってばかりいた私から出来るのは、唯一それだけなんだ。それしか出来ないんだ……



「私、だけが、聖女、です」


「ハ、ハハハハ! そうか! お前は自分が聖女であると! その役目は他の誰にも渡せぬと、そう言いたいのだな!」


「そう、です」


「そんな姿になっても、聖女としてのプライドは離せぬか! 憐れよのう!」


「…………」


「面白い女だ。気に入ったぞ。お前の望むようにしてやろう!」


「陛下! こんな者の言うこと等……!」


「黙れ。余が決めた事に口を挟むな」


「……は……!」


「して、大司教。この者の喉に呪いをかけたか?」


「あ、は、はい……煩くされては敵いませんので……」


「ではその呪いを解くのだ。この娘の真の声を聞きたくなった」


「御意に……」



 それからバタバタと人が出入りし、やって来た術師に私の喉にかかった呪いは祓われた。これでやっと私は自分の声で話すことができる。


 だけど、それが怖かった。やっと取り戻せた声を、また奪われるのが怖いと思ってしまう。


 私の様子を、陛下と呼ばれた人は目を離さずに見つめ続けていて、それが不快に思えてならない。視線を感じても、私はそれに気づかないようにして遣り過ごすしかなかった。



「その手足は仮初めの物か?」


「これは……私に作ってくれた物なのです」


「ほう……美しく澄んだ声をしておるのだな。教会に預けずに余のそばに置けば良かったと悔いが残るぞ」


「陛下、何を仰いますか!」


「大司教、そう憤るな。罪人の子とは言え、これ程の美貌なのだ。そう思うのは仕方ない事であろう?」


「私は罪人の村の者ではありません」


「なに?」


「あの村に捕らわれていただけです」


「そうであったのか? ならなぜそう言わぬ」


「あの時は幼かったので、よく分かっていませんでした」


「ではお前の出自は何処なのか」


「それは……」


「陛下。この者は謀ろうとしております。聞く耳を持ってはいけませぬ!」


「黙れ大司教。余はこの娘と話しておる」


「……っ!」


「私が何処の者かは……自分でも分かっておりません。家にいたところを連れ出され拐われましたので……」


「そうか……まぁよい。では身代りの聖女を解放し、この者をあの塔へ」


「陛下! それでは我々の研究が……!」


「お前はただ、この者をいたぶりたいだけであろう? 壊れないと知って遣り過ぎたのではないか?」


「そんな事は……っ!」


「余も聖女の力がどれ程のものか、この目で確認したくなったのだ」



 新しい玩具を見つけたように、鋭い瞳で私を見た陛下と呼ばれた男は、ニヤリと口角を上げた。


 これからどうなるのかは分からないけれど、あの地下の牢獄にいかなくて済んだ事だけでも良かったと思わずにはいられなかった。





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