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ただ一つだけ  作者: レクフル


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出来ること


 確かにリーンに自分の性別を言った覚えはない。


 いや、そもそも性別は告げるものなんだろうか?


 弟って、自分より下の男の兄弟って事……だよね?


 そうか……私は男に見えるのか……知らなかった……


 今さらそれを訂正するのもって感じだし、戸惑ったけど、リーンは私を慰めるように

「弟の様に感じているんだ」

って言ってくれている。それは家族のように思ってくれてるって事だよね? 勿論凄く有難いし嬉しいんだけど、なんか複雑な感情は拭えない……


 それでもリーンの私を気遣う言葉が暖かくって、リーンと離れる事は未だ受け入れられないんだけど、納得せざるを得ないと思った。


 それからはリーンの生まれ育った村へと向かって北へと進んで行く事になった。リーンと少しでも離れるのが嫌で、歩く時も人目を憚らずにピッタリと寄り添うようにしてしまう。

 リーンの体温を感じたくて、肩に頭を擦り付けたりもしてしまう。少し困った顔をした時もあったけど、リーンは何も言わずに私のしたいようにさせてくれていた。


 北へと向かうと瘴気は段々強くなってきて、植物も育ちにくくなってきている。こんな状態では、人にも悪影響が及んでいると考えられる。あまりに広範囲に及んでいるから、前みたいに王都の腕輪から魔力を飛ばしても、すぐにまた瘴気にまみれてしまいそう。


 瘴気を自分に取り込んでみる。それを体の中で循環させて、魔力を飛ばすようにしてみると、私から勢いよく放たれた魔力は馬車から吹き出すようにして空気に馴染んでいった。

 少しは浄化されたかな。こういうのはやっぱり疲れちゃうな。


 暫くして街に着いて、早速宿屋を決める。この街も瘴気が澱んでいるから、立ち寄る人も少なく宿泊客も少ないんだろう。客引きがあちらこちらであって、生活に困っているんだろうなっていうのが伺える。

 その中でも、小さな女の子が客引きしている宿屋へ宿泊する事にした。


 やっぱり瘴気に侵されているから、この街の人達には元気がない。皆疲れてそうで、目の下にクマがあったりグッタリしてたりする。



「ジル? どうした? 疲れたのか?」


「……ん……」


「そうか。なら今日は早めに休もう」


「ん……」



 ニッコリ笑うリーンは元気そうだ。リーンは気づいていないけど、私は瘴気に侵食される事はなく、その近くにいる人も同様に瘴気に侵食されると言うことはない。私自身が意図しなければ、魔力は微量だけど体から発せられて勝手に瘴気は浄化されていく。

 微量だから近くにいないとダメだし、気づかれる事はない。


 リーンの申し出が有り難くて、すぐに部屋で落ち着く事にする。


 部屋はいつも別にとる。本当はずっと一緒にいたいけれど、一人の時に義手と義足を外して体を解放させいて、そうしないと装着部分の痛みがずっと取れないからそうしてるんだ。


 とは言っても義手を外すのは片腕ずつで、どうしても片腕は取り外す事が出来ないでいるから、一日おきに交代で外していて腕を休ませている。

 リーンにこんな姿は見せられない。だから部屋はいつも別にする。


 夜も更けてきた頃、外した義手と義足を着けて部屋を出た。


 街は真っ暗で、誰一人として出歩いている人はいない。皆疲れているから、すぐに眠っちゃうんだろうな。この街の中央辺りにある広場の脇には大きな木がある。その木ももうかなり弱っていて、そんな季節じゃないのに葉も生えてこれなくなってしまってる。


 食事をした時にナイフをこっそり拝借していて、それを取り出してナイフに風魔法を付与し、切れ味を良くしてから髪を掴んで切っていった。それを木の窪みに入れて結界を張る。 私から離れた髪は途端に魔力を帯びて、街中に蔓延っている瘴気を浄化させていく。

 

 良かった。これでこの街の空気も少しずつ綺麗になっていくはずだし、木も蘇ってくれるはず。


 暫く様子を見て、それから宿屋へと戻った。


 なんだか今日は疲れちゃったな。


 ベッドの上で義手と義足を外してサイドテーブルに置き、ゆっくりと眠りについていく……

 

 ドンドン! って扉を叩く音に驚いて目が覚めた。いつもはもっと早くに目覚めてリーンの部屋の前で待っておくのに、昨日髪を切っちゃったから疲れてたのかも!


 

「ジル? ジル? 大丈夫か? 具合が悪いのか?」



 扉の向こうでリーンが声をかけてくる。心配してくれているんだ。



「ジル? 具合が悪いなら無理はしなくて良いんだ。でも様子を見たい。この扉を開けてくれないか?」


「ん!」



 取り敢えず返事だけはしなくちゃ! すぐに義手と義足を装着しないと! バタバタと急いで腕と脚に取り付けて、でも不具合がないように確認してから身だしなみを整えて扉を開ける。


 リーンは私の顔を見てホッとしたようだった。

 だけど、私の髪を見て少し驚いたようで



「やっと伸びてきたのに……あ、いや、ジルは元が良いからどんな髪型も似合うんだけどな。どうせならもっと綺麗に切れば良かったのに。また不揃いに切ったもんだな」



 って言った。そうか、やっぱり髪型可笑しくなっちゃったんだ。手で見えない髪を掴むのは難しくて、何とか掴めた所を切っていったから、また不揃いになってしまったんだろうな。でも私が今提供できるのは髪だけだから……


 せっかく伸びてきて、少しは女の子らしくなってたかも知れないけど、また更に男の子っぽく見えちゃうのかな。でも今は私の見た目よりこの街の空気を正常にする事が大切だって思ったんだよ……


 朝食を摂ってから、リーンは私の今朝の様子からゆっくりしようって言ってくれたけど、今日はしたいことがある。

 リーンにそれを告げると、快く承諾してくれた。


 今日はリーンに渡す物を買いに行きたかったんだ。

 買い物したいって言うと、リーンはそれを咎める事もせずに、私にお金を渡してくれた。こんなに私は甘やかされて良いのかな。リーンの対応一つ一つが嬉しくて、いつも心が暖かくなる。

 

 だからリーンを守りたかった。


 それが私にできる精一杯の事だったから。





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