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ただ一つだけ  作者: レクフル


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求めてはいけない


 旅は楽しくて、私はいつも自然と笑顔でいれた。それはリーンと一緒にいられたからだ。


 森の中には瘴気が溢れている所もあって、濃度が濃い所はやっぱり高位の魔物が出現する。多分弱い魔物は私に近寄れないんだと思う。だから私達が相手にするのはかなり強い魔物達だ。


 私は魔術で大体の魔物を倒す事が出来る。牢獄にいた頃は、毎日のように実験と称して魔物の相手をさせられたりした時期があって、その度に恐怖に駆られ、震えながら、泣きながら、自分の身を守る為に必死に魔物に攻撃を与えたことを思い出す。

 そんな経験から魔物を倒す事は慣れたけど、今もあの時の恐怖心は残ったままだ。


 だから長引かせたくない。すぐに方をつけたい。自分の恐怖心に負けてしまいそうだから。


 それに、今はそばにリーンがいる。リーンは強い。その剣捌きは鋭くて素早くて凛々しくて、凄く格好が良い。けど、もしリーンが怪我をしてしまったらって考えてしまうと、その方が怖くって勝手に体が動いてしまう。

 誰にも、どんなモノにもリーンは害されたくなかったからだ。


 それに、守ったら好きになって貰えると教えてくれたのはリーンだ。だからリーンを守って、私の事を好きになって欲しいっていう想いがあったのも否めない。


 でも単純に、リーンには傷ついて欲しくないと言うのが本音なのだけど。心身共に。


 だから今のお父さんとお母さんの現状を伝える事は出来なかった。上手く喋られないというのは大前提だけど、追われる身となった事を告げないのは、リーンを動揺させたくなかったのもある。

 そうなった原因が私だと言うことで、リーンに憎まれたくないと言うのも本音で、自分のズルさに辟易してしまう。


 こんなに優しくして貰って、何度も助けて貰って、なのにそれに何も返せていないどころか、恩を仇で返すような行為。本当に自分が嫌になる。


 そんな私にリーンは、何処か行きたい場所はないか、会いたい人はいないかって聞いてくれる。本当に優しい。


 会いたい人は勿論、お父さんとお母さん。だけどそんな事はやっぱり言えなくて、

「今はいない」

としか言えなかった。


 同じように聞いたら、リーンは聖女に会いたいと言った。それは私じゃなくて、身代わりとなった子の事だった。

 リーンはあの子が好きなんだ。私じゃなくてあの子が……

 

 でも、それも仕方ないと思った。私はこんなだし、リーンには負い目があるし、だからリーンの気持ちを尊重しなくちゃって。リーンが好きなら、私も好きになろうって。

 少しでもリーンに返したい。役に立ちたい。私にはそうする義務がある。今は迷惑しか掛けていないけど……


 聖女の腕輪があるという情報を得て、とある街へとたどり着いた。


 街へ向かうにつれて、自分の魔力に近づいているのが分かった。体に馴染むように戻って来る感じがする。

 それがなんだか心地いい。自分の魔力だからか、この空気感に満たされていたくなる。


 街に入ると、それは更に強く感じる。でも、私が感じるのと他の人が感じるのとでは違うみたい。リーンもそうだけど、澄んだ空気が気持ちいいなって言っていて、それは瘴気を祓ったからこそ感じる空気感を心地いいと思っているようだった。


 そう思ってくれて私も嬉しい。私の存在が認められたように思えるから。


 この街に来てから少し機嫌の良さそうなリーンと朝食を摂っていた時。サンドイッチの玉子が口元に付いていたのを取って口に入れたリーンを見て、凄くビックリしてしまった。

 

 私の口に付いたモノなんて汚い。卑しい身分のくせに。近寄るな。穢れが移る。そんな言葉が頭に渦巻く。

 

 けれどリーンはそんな事は言わなくて、戸惑った私を気遣うように

「こういうのは嫌だったか?」

って聞いてくる。そんなハズは無くて、かなり強く違うと態度で示したけれど、それを宥めてくれるリーンの優しさに、また想いは募っていく。


 リーンに頭をポンポンされたり、グシャグシャってされるのが好き。少しでも触れられるのが嬉しい。体温を感じられると安心する。段々好きになっていく。想いばかりが募って溢れそうになってしまう。

 

 リーンも私と同じように感じれば良いのに。だけどそれを求めてはいけない事は分かってる。今はそばにいられるならそれでいい。


 そんな答えともつかない結論に行き着き、だから私は笑う事ができる。


 朝食を終えて神殿に向かう。神殿には既に行列ができていて、今か今かと、開場されるのを心待にしている人達がそこにはいて。


 だけど私はこれ以上近づいてはいけないと感じた。


 私が神殿に近づく度に、魔力が元に戻るように体に入ってくるのが分かるからだ。

 それに神殿にある腕輪も、多分私が近づくと戻ってこようとする。それが神殿に入る前から分かってしまう。

 

 だから体調が悪いと言って宿屋に戻ることにする。リーンは気にしてくれたけど、嘘を言った事に罪悪感があって、いたたまれない気持ちのまま宿屋へ帰った。


 宿屋の部屋に着いてベッドに横たわる。勿論体調は悪くも何ともない。なんなら良い方だ。

 それなのに嘘を吐いて心配させて。リーンに申し訳ない。


 あの人達につけられた腕輪には、高価な石が嵌められてあった。石に魔力は貯まりやすいから、服よりも多く魔力を抱え込む事が出来る。

 だから余計に私に戻ろうとする。この澄んだ空気が良いと言ってくれている人達の為にも、あの腕輪から魔力を奪ってはいけない。

 

 だからなるべく早くにこの街を出なくちゃ。


 私はこの街にいちゃいけないんだ。 


 

 


 

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