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ただ一つだけ  作者: レクフル


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自分の存在


 リーンは自分を責めているようだった。


 だけどその事は気にして欲しくない。


 リーンが旅をしているのは、聖女の奪われた持ち物を探し出す事だと知って、その事に私は戸惑ってしまった。


 それは私の首飾りと腕輪の事だろうか? それとも、私の代わりになってしまった子の身に付けていた物の事だろうか?


 私の物であるなら、首飾りは今も私が身に付けている。

 腕輪は……左腕と一緒に持っていかれてしまった。


 だから腕輪はまだ王都にあると思う。交渉に使われていないのだとすれば、だけど。

 私がいなくなってしまったから、私の左腕がないと王都の空気は瘴気に侵されていくはず。だから手放す事はできないと思う。

 

 多分……


 この首飾りは、私から魔力を寄せ集めている。首飾りに付いている石に魔力が奪われていて、その魔力は左腕にあった腕輪に付けられた石へと流れて行っているんだと思う。

 それは体内で魔力の流れが分かるようになってから気づいた事だった。


 まだ私に手足があった頃、腕輪の石は魔力が貯まりすぎると、時々私自身に返ってきていた。そんな時は溢れだして暴走しそうな魔力を遠くに飛ばす感じで放出させていた。そうしないと、膨大な魔力に気づいて、またあの人達に何かされそうだったから。


 首飾りや腕輪は外せなかった、と言っていた。首飾りに触れた人達は皆意識を失っていった。それは、その人の持つ魔力を首飾りが吸い取ったからだ。

 魔力がそんなに多くない私以外の人達は、すぐに魔力切れを起こして倒れてしまった、という事なんだろう。

 腕輪は高濃度の魔力が貯まっているから、それに耐えられずに倒れたとか、恐らくそんなだと思う。


 そんな腕輪でも外そうと思った事はないし、今着けている首飾りも外すつもりはない。

 だから私の魔力は万全じゃない。常に奪われ続けていたからだ。


 幼い頃の記憶にあるお母さんは、そんな物を何故私に身に付けさせたのだろうか。何がしたかったのか。それは分からないけど、お母さんが私を守る為にそうしたのだと思っていたい。そうじゃないかも知れないけれど。

 

 今も私から魔力を奪い続けている首飾りは、王都にあるだろう左腕に着いてる腕輪に貯まっていってて、その魔力は私が以前、身に付けた衣服や腕輪、指輪、足輪に分散されて行っている。私の魔力と同化しようとして勝手に分散されて行くのだ。

 だから常に以前身に付けた物は、今でも瘴気を祓う事が出来ている。


 それでも自分にはまだ魔力が残っている。これだけ奪われていても。

 そう考えると、本当に自分の存在は何なのかと不思議に思えてくる。

 

 普通であれば良かった。魔力なんかいらない。ただ普通に生きていたかった。その普通と言うのがまだよく分かっていないけど。


 だから今は自分が出来ることをする。出来ない事の方が多いけど、少しずつ頑張って出来るようになっていこう。

 

 そんな事を考えながら野宿をしている時に魔法で釜戸に火を着けていたら、不意にリーンが髪について話をしてきた。私の髪が不揃いだったけど、伸びてきたから切ってやろうか、と言ってくれた。

 その申し出は本当に嬉しかったし、リーンが髪に触れてくれるのなら、どんな髪型になっても良いとさえ思った。


 でも、私の髪にも魔力は宿っている。今は首飾りに魔力が集められるから私の魔力が微量であると思われているみたいだけど、一旦私から離れたモノは解放されたように魔力を放つ。

 そうなれば私の異常な体質がリーンにバレてしまう。自分でもこんな力、可笑しいと思ってしまうのに、リーンが思わない訳がない。


 だから断った。本当は断りたくはなかったんだけど……


 その時、リーンが驚いた声を出した。何事かと思ってリーンの視線を辿ると、自分の腕辺りだったから見てみると、釜戸の火が勢いよく私の義手を服諸とも焼いていた。

 

 熱さは感じない。それはそうだ。これは義手なんだから。それでも燃えているのはお父さんの作ってくれた義手、お母さんの作ってくれた服。どうしよう……って、動揺して何も言えずに微動だにせずにいると、その様子に驚いたリーンは、すぐに水魔法で炎を消してくれた。


 私が熱がったり痛がったりしていない様子を見て、リーンは驚いたように

「痛覚がないのか?」

と聞いてきた。

 痛覚がない人は、痛みや熱さとか感じないらしく、だから物を持つ感覚が難しいのかと勘違いしてくれた。

 そう思ってもらえて良かった。


 手当てしようとしてくれるリーンの気持ちは有り難かったけれど、そうしたら私の腕は義手だとバレてしまうから、魔力を最大にして黒ずんだ腕に回復魔法を施した。

 そうすると、義手と服は元通りの状態になってくれた。


 大切な義手と服が復元出来て良かった。


 そう安心していると、またリーンが驚いたようだった。


 回復魔法はなかなか出来る事じゃないんだって。だから他の人の前でしちゃダメだって。


 自分自身は常に魔力によって回復している。それはやっぱり異常なのだと、リーンに言われて再認識してしまう。


 こんな有り得ない力を持って


 私は何のために生まれてきてしまったんだろう……?


 それはこの世に蔓延る瘴気を祓うため? なら、今はその事から逃げ出している私は、これから何を目標に生きていけば良いんだろう……


 漠然とした考えが脳裏に浮かぶ。そんな私を心配そうに見るリーンには笑顔で答える。

 

 でも今は良い。リーンと一緒にいられるなら、今は何も考えないでおこう。


 だって今私はとても幸せなんだから。


 

 



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