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ただ一つだけ  作者: レクフル


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感謝しかない


 旅をするリーンに、私は勝手についていく事にした。


 名前を聞かれた時、思わず

「ジ…」

『ジゼル』って言いそうになって、でもシルヴォから嫌な名前は名乗らなくて良いって言われたのを思い出して、

「ル……」

って、中途半端に名乗ってしまった。


 それからリーンは私を『ジル』と呼ぶようになった。


 リーンは最初は私に関心がないような態度でいたけど、勝手について行ってるのに何も文句は言わなかった。

 何度か、

「自分は贖罪の旅をしている。俺のせいで不幸になった子がいるから、その子の失った物を探す旅をしている」

と話していた事があって、だからついて来るなって、お前には関係ないからって何度も言われたけれど、私にはそんな事はどうでも良くて、ただリーンと一緒にいたいだけで、離れたくないだけでリーンと旅を続ける事にした。


 二人で旅をしていく中で、リーンとの距離は少しずつ縮まっていったように感じる。

 

 あまり話せない私に嫌な顔一つせずに、そんなに口数は多くないけれど、リーンは話を聞かせてくれた。

 それは魔物の捌き方だったり、ナイフの使い方だったり、食事の仕方だったり、話と言うより教えているような感じだったけれど、リーンの声は耳に心地よく馴染んで、聞いているだけでも癒されていく。


 勿論ちゃんと話は聞いていて、教えて貰った事は実践できるように試してみる。けれど、まだ上手く指の力を加減できなくて、倒した魔物はグチャグチャに切り刻んでしまうし、野菜はボロボロにしてしまうし、勢い余ってスプーンで掬ったスープを自分の顔にかけてしまうしで、思うようにいかなかった。


 そんな目も当てられない状態であっても、リーンは怒ること一つせずに

「仕方ないな」

って笑いながら後処理をしてくれる。

 リーンの優しさが嬉しいのと同時に、胸にズキリと痛みを覚えてしまう。


 私と一緒にいた事で、お父さんとお母さんも追われる身となったんだよ。もしかしたら、リーンもそうなっているかも知れないんだよ。


 優しく微笑むリーンに私も同じように返すけれど、心の中でいつも私はリーンに申し訳ない気持ちで謝り続けていた。


 ごめんなさい、リーン。


 私は一緒にいない方が良いのかも知れない。でも離れる事が出来ない。離れたくない。こんなに弱い私を許して欲しい。ううん、許さなくていいから、ずっと一緒にいさせて欲しい。

 

 こんな私でごめんなさい……


 それを言葉にする事も出来ずに、私はただリーンと共にいる事しか出来なかった。


 なるべく迷惑をかけないように。だから、私が義手と義足を身に付けていると思われないようにしようと思った。

 只でさえ迷惑をかけている。リーンは私に合わせて、歩くスピードを落としてくれている。食料も二人分だと多くなる。足に痛みが走って歩くスピードが遅くなると、何も言わずに休憩をとってくれる。

 

 今はリーンの優しさに甘えてしまうしか出来なくて、だからこれ以上迷惑をかけたくはなかったんだ。


 それにもし、私がそんな存在だと……手足の無い存在だと知ったら、リーンは私を嫌悪するかも知れない。疎ましく思うかも知れない。

 ううん、リーンならきっとそんな風に思ったりはしない。筈。そうと分かっていても、少しの可能性に恐怖して、大好きなリーンに嫌われるのが怖くって、本当の事を何も言えない日々が続く。


 けれどリーンとの旅は本当に楽しかった。立ち寄った街で何か美味しそうな匂いがすると思ったら、そこには肉を串に刺して焼いた美味しそうな食べ物が置いてあって、それを一つ勝手に取って食べたら、慌ててリーンが何かをその近くにいた人に手渡していて……

 後で聞いたら、お金と物を交換しないといけないんだって教えてくれて、そうやって食べ物を調達するのかと驚いたんだ。私は知らない事ばかりだった。でも知っていくのが楽しかった。


 じゃあお金を稼ぐにはどうすれば良いのか。それには仕事をするらしく、リーンの場合は冒険者の仕事をしてお金を稼いでるって言っていた。

 その事を聞いた時は凄く嬉しくなった。


 お父さん! お母さん! リーンは今冒険者をしているよ! この服、リーンにあげられたら良かったのに!


 そう心の中で報告して、途端に自分がこの服を着ている事が申し訳なくなってきた。それでもこの服は愛情のこもった物で、それを身に付けている自分は幸せに包まれているように感じてしまう。だからこの服を手放したくないと思ってしまう。


 リーンのお父さんとお母さんは、私のお父さんとお母さん。だけど、それをリーンに言ってはいけないような気がした。

 

 リーンは魔力があるから貴族の子供になったんだって。だからあの優しいお父さんとお母さんから引き離された。本当は一緒にいたかった筈なのに。

 リーンが受ける筈だった優しさをいっぱい貰って、何も返す事が出来ないままに私のせいで追っ手に追われる事になってしまって……


 私がいたからそうなったのに、リーンのお父さんとお母さんは私のお父さんとお母さんだよ、なんて、考えれば考える程に言えなくなってきたんだ。


 だから不意にリーンに

「親とかはいるのか?」

って聞かれた時に、思わず

「……んーん……」

って答えてしまった。


 心の中で、何度も何度もお父さんとお母さんに『ごめんなさい!』って謝りながら……


 それから

「いないのか……では故郷は何処だ?」

って聞かれて、考え込んでしまった。


 私が物心ついた頃には既に、薄暗い部屋に一人でいた。その前の記憶は、お母さんと思われる人から首飾りと腕輪を着けて貰った事だけだ。

 それがいつだったか、何処だったかなんて事は分からなかった。

 自分が何処の誰かなんて、それは私にも分からない。なぜ閉じ込められていたのかも。

 

 あの頃はそれが当然だと思っていた。比べるモノが無かったから。地下の牢獄にいた頃も、なぜ自分だけがこんな酷い目に合うのか、なんて事は考えられなかった。疑問はあったけど、そうされるのは仕方のない事だったのだと、それに耐えられない自分がいけないのだと、そんな風に思っていた。


 そんな事を考えていると、リーンは

「変な事を聞いて悪かったな」

って謝ってきた。リーンが私に謝る事なんて何もないのに。


 リーンは、昔助けたと思っていた子達が、王都に連れてきて不幸になってしまったと言っていた。もし今も虐げられているのなら、どうにかしてあげたいって、申し訳なさそうに言った。


 それを聞いて、それは私達の事なのかも知れないと気づいた。


 確かにあの村から私と他の4人の子供達はリーンがいる騎士団に助け出された。私はその後、王都にある王城へ連れていかれ、それから大神殿で研究と称して様々な実験をされて、その後王城地下へ幽閉された。


 今考えてもあの日々は辛くって悲しくって怖くって、思い出すだけで恐怖で身震いして動けなくなってしまう。なるべくなら思い出したくなんかない。


 だけどそれをリーンのせいだなんて、一度も思った事はない。


 それよりも、リーンが私に向けてくれた笑顔や優しい言葉に救われた記憶しか思い浮かばない。それ以前も多分私は囚われの身だった。その場所が変わっただけだ。


 ……手足は無くなっちゃったけど……


 でもそれも、やっぱりリーンのせいじゃない。リーンにはそんな事を負い目に感じて欲しくない。


 そうは思っても、他の子達はどうだろう……とか考えてしまう。


 私は大丈夫って思っても、他の子達は恨んでいるんだろうか。そう考えると何も言えなくなってしまった。少しでもリーンの気持ちを軽くしてあげたいのに、私には何も言ってあげる事が出来ない。


 リーン、どうか気にしないで……


 私はリーンに助けられたんだからね?


 貴方には感謝しかないんだからね……  





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