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ただ一つだけ  作者: レクフル


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再会


 森の中を暫く歩いて、足の装着部分が擦れて傷が出来て出血してしまうと一旦休憩して、傷が治るのを待つのと同時に魔力の回復も促す。


 それでも休憩中に腕の動かし方もちゃんと練習しておかなくちゃいけないから、傷が癒えるまでは腕を上下左右に振って、それから指も動かすように練習する。


 この手に合う手袋を、お母さんは私用に作ってくれた。身に付けている物はどれも愛情のこもった物で、どれ一つとっても愛しさが胸に湧いてきて、それを見ているだけでまた泣きそうになってくる。


 あぁ……ダメだ。こんな事で挫けてちゃ。


 あの薄暗い牢獄から解放されたかった。私を訪ねて来るあの人達は怖くって、足を奪われてからと言うもの、いつも

「誰も来ませんように……」

と心の中で祈るしかなかった。あの時は一人の方が怖くなかった。


 だけどお父さんとお母さんと3人で過ごした日々が幸せすぎて、そばに誰かがいると言うことに安心できる事が有り難くて、それに慣れてしまったからか、今は一人が怖くなってしまっている。


 誰にも守って貰えない。そんな事ははじめから分かっていた事じゃないか。

 思い起こす日々の中、お父さんとお母さんに私は守られていたんだって、今更ながら気づかされる。

 なのに守りたい存在であった人達を危険な目に合わせてしまうだなんて……


 どんなに悔やんでも、今は私が出来る事がなくて、これ以上誰かに迷惑がかからないように、しっかり自分で歩いていかなければならないって思うと、こんな所でのんびり休憩なんてしてちゃダメだって、またすぐに木を頼りに何とか立ち上がって進んでいく。


 足が痛い……でも進まなきゃ……


 そうやって何とか歩いて、地図に書かれた場所まで行こうと森を進んでいく。

 夜になると土魔法で家を作り出し、その中で一人眠る。結界を張るのを忘れずに。

 

 時々休憩しながら歩いて、シルヴォから貰った食料を少しずつ食べて、道なき道を進んでいく。歩くのに魔力を使うから凄くお腹が空くけれど、今は我慢しなくちゃ。

 

 そうやって歩いてきたから、歩くのに慣れてきてスムーズに移動できるようになってきた。もしこの姿をお父さんとお母さんが見ていたら、きっと誉めてくれた筈だ。

 

 お父さん、義足、私ちゃんと使えてるよね?


 お母さん、ここまで一人で歩いてきたんだよ。すごいでしょう?


 心の中でそうやって何度も問いかける。答えてくれる人は誰もいないのに。


 そう思いながら歩いていた時、何かにつまづいてその場に転げてしまった。

 起き上がらなくちゃって思うけれど、力が上手く入らなくて上体を起こす事も出来ない。


 どうしよう……こんな所で倒れたままなんて……


 もう少し魔力が戻ったら起き上がれるかな。お腹が空いているから、魔力が戻りにくくなっているのかな。せめて上体だけでも起こさないと……


 だけど上手く力を入れる事が出来なかった。今きっと魔力は、足の傷を癒す事を優先しているんだな。

  

 あぁ……空が青い……薄い雲がなんて綺麗……


 木々から覗きこむようにして見える青空に改めて心が洗われるような気がして、暫くそのままでいるしか出来ずに流れる雲を眺めていた時。



「どうした? 怪我でもしたか? 大丈夫か?」



 そんな声が聞こえてきたかと思うと、倒れていた私の背中に手をまわして、ぐいっと上体を起こしてくれた人がいた。

 その人がもし私を追ってきた人だったらどうしよう! と思って顔を恐る恐る見た途端に、私の心臓は飛び出るのかと思うくらいにうるさく高鳴った。


 それはリーンだった。


 会いたかった……


 会いたかった! 会いたかった会いたかった会いたかったっ!!


 思わず泣きそうになってしまったけれど、それを何とか我慢して笑顔を見せた。



「こんな所に武器も持たずに一人で……自殺行為だぞ? 何しにここにいる?」



 そう言われて戸惑った。リーンは私の事が分からなかったようだからだ。

 

 それはそうか……はじめて会ったのはずっと幼い頃で、その次に会ったのは地下から助け出された時……多分私はボロボロの見た目だったんじゃないかな……布団にくるまれていたけれど、僅かに覗いた顔だけで誰かとか、そう言うのは分からなかったんだろうな……



「あ……え、と……」



 ガラガラの声を聞かせたくなくて、どうにか声を上手く出せるようにしてみる。喉は痛いけど、いつもよりちゃんと発音できた。良かった。

 それでも、それ以上何を言ったらいいのか、どう言ったらいいのか分からずに、言葉を繋げる事はできなかった。



「言いたくないのか? まぁ無理には聞かないが……立てるか?」



 そう言われて、私は何とか立ち上がろうとして、だけど上体が起きているのに上手く足と腕に力を入れる事が出来なくて、それには気持ちが焦ってしまって、こんな状態の自分を見られるのも情けなくて、何度も立ち上がろうとするんだけど気だけが焦って余計に上手く力が入らなくて……


 そうして試行錯誤していると、屈んでいたリーンが立ち上がって、私の義手を握ってきた。

 思わず体はビクッとなってしまったけれど、お父さんの作ってくれた義手を、その息子のリーンが触れる事を拒んではいけない気がして、そのまま手を握った状態でいると、リーンはぐいっと私を引き上げて立たせてくれた。


 あぁ……やっぱりリーンは優しい……


 あのね、話したい事がいっぱいあるんだよ。

 リーンのお父さんとお母さんはね、私のお父さんとお母さんにもなったんだよ。凄く優しくてね、いつも二人は私に笑いかけてくれてね、だから私も笑うことが出来るようになったんだよ。

 

 言いたい事がいっぱいあるけれど、それを言葉で伝えるには今の私にはまだできなくて、想いだけが胸に燻ったままの状態で……



「ここは軽装で来る場所ではない。街へ帰れ」



 そうリーンは言い放つと、私に背を向けて去って行こうとした。


 待って……待って待って待ってっ!!


 やっと会えたのに! ずっと会いたかったのに!!


 そう思ったらいてもたってもいられなくなって、リーンの後をついていく事しかできなくて、痛む足で置いていかれないように魔力を何とか必死に足に這わせて、去ろうとするリーンの姿を求めて歩いていく。


 時々立ち止まり、リーンが私の様子を伺う。私を気遣ってくれているのが嬉しくて嬉しくて、その度に私は笑顔でリーンに答えた。


 会いたかったんだよ。ずっとずっと、リーンに会いたかったんだよ。やっと会えたんだよ。だから離れていかないで。私を置いていかないで……!


 そんな言葉に出来ない想いを胸に、私はリーンについていく事にしたんだ。


 


 

 

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