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ただ一つだけ  作者: レクフル


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幸せの日々


 私に宛がわれた部屋には大きな窓があって、近くにベッドは置かれてあったから、ベッドから外の様子は手に取るように分かるのが私にとって本当に嬉しい事だった。


 とは言え、もう手で何かを取ったりすることはできないんだけれど。


 それでも、また陽の光がこの目で見られる、感じられる事が幸せで、夢なんじゃないかって何度も壁に頭をドンドン打ち付けて確認してしまった程だった。

 その度にリーンのお母さんやお父さんには泣きそうな顔をして止められたけど。


 ここに来てからと言うもの、リーンのお母さんは何も出来ない私の世話を甲斐甲斐しくしてくれている。


 浄化ができるから必要ないんだけど、体を優しく丁寧に拭いてくれたり、食事も食べさせてくれたり、私がよく外を眺めているので外が好きだと分かったのか、よくベランダに連れ出してくれた。


 シルヴォから外には連れ出さないようにと言われていたから、リーンのお母さんはそれを守ってくれていて、だけど晴れた日は一緒にベランダでお茶を飲ませてくれたりもした。


 リーンのお父さんは、腕の良い鍛治職人だった。自分では動く事が何一つできない私を見かねて、義足と義手を作ってくれたんだ。


 金属で骨組みを作り、その上からケイ素と言うをモノを使って何やら加工して骨組み部分を覆うと、それは肌のように弾力がある状態となるんだって教えてくれた。

 


「前からこういう義手とか義足とかを作ろうと、色々考案してたんだよ。元冒険者や傭兵にはそういった奴等も結構いるんだ。だから試したかったってのもあってな。一番のお客さんになってくれて助かったよ。ありがとな」


「…………」


「でも、まだ色々手直ししなきゃなんねぇと思うんだ。それに実は、これを上手く使うには魔力を這わせてやらなきゃなんねぇ。だから魔力を持ってない人には、ただの飾りにしかならねぇんだけどさ。ゆくゆくはちゃんと動くように作りたいんだが、動かなくても無くなったモノの代わりとなると思うのか、期待して待っててくれてる奴もいるのさ」


「あ"……ぅ"……」


「えっ?! 声っ!」


「あ"い……あ"……と……」


「嬢ちゃん……ありがとうって、言ってくれたのか……?」


「ん"……」


「そうか……そうかっ……!」



 奪われた腕や足は返ってこないけれど、代わりになってくれるモノを用意してくれた。それが凄く嬉しくて、どうにか思いを伝えたくて、なんとか喉に魔力を這わせて喋ってみた。

 そうしてやっと、ガラガラで拙いけれど、少しだけ発声する事が出来た。


 声を出せた事が自分でも嬉しくて嬉しくて、私の声を聞いたリーンのお父さんが口を押さえて目を潤ませてくれたけど、私も嬉しくて涙が出てしまった。



「おーい、母さん! ちょっと来てくれ! 嬢ちゃんがな、嬢ちゃんがな!」


「どうしたの? 何かあったの?」


「い"つ"、も……あ"…あ"、い……あ"と……」


「えっ!」


「いつもありがとうって、言ってくれてんだよ! 嬢ちゃんが!」


「声……頑張って出してくれたのね……」



 私が頷くと、リーンのお母さんも涙を溢した。

 そして私をギュッて抱き締めてきた。それには思わずビックリしたけれど、抱き締められた事は初めてでどうしたら良いのか分からくて、そのままただじっと身を委ねていたけれど、気持ちは凄く暖かくなって心が満たされていくのが分かった。



「こっちこそ、ありがとね。笑顔が凄く素敵ね。貴女の笑顔が見られて、凄く嬉しいわ」


「本当だな。最高の笑顔だな!」



 あぁ……私は笑っていたのか……いつぶりだろう? また笑えるようになったんだ……


 こうやって喜んで貰えるのなら、これからも私は笑っていよう。それしか今の私にはできないのだから。


 魔力を這わせる事で何とか声を出せるようになった。それには凄く疲れて喉に痛みが走るけれど、練習すればもっと声が出せるようになるのかも知れない。


 着けて貰った義手と義足にも魔力を這わせてみる。そうすると腕はピクリと動いた。それを見た二人は凄く驚いた。



「嬢ちゃん! アンタ魔力持ちだったのか?! それならその義手も義足も自分の手足のように使えるかも知れないぞ!」


「凄い! 凄いわ! でも、そうだったのね……だから貴女は囚われていたのかしら……あ、ごめんなさい! 気にしないで! ね!」


「そ、そうだ! これから嬢ちゃんは義手と義足で自分で上手に生きていけるんだ! 良いことしか起こらねぇぞ!」


「そうよ! 私たちにも協力させて! 私たちは貴女の事を娘のように思いたいの!」


「そうだな! 嬢ちゃんが嫌じゃなければ、俺達を親と思ってくれねぇかな?」



 そんな風に言って貰えた事が凄く嬉しくて、涙をボロボロ流したまま何度も何度も首を縦に振った。そうするとまた、リーンのお母さんは私をギュッと抱き締めた。


 私もそうしたくて、義手に魔力を這わせて何とか腕を動かしてみる。フルフルと震えながら、腕は少しずつ上がっていって、リーンのお母さんの背中まで到達できた。


 動かすと義手と腕の装着部分が擦れて痛みが走ったけれど、それでも動かせる事が嬉しかった。

 まだ調整は必要だから、不具合は都度なおしていくからと言われた。そんな気遣いが有り難くて有り難くて仕方がなかった。


 その日からは、義手と義足を使いこなせるように練習していくのが日課となった。


 動かすには魔力調整が難しくて、手と足に程よく魔力を這わせるのがなかなかに上手く出来ないのだ。腕の上げ下げ、椅子から立ち上がるように足に力を入れる、と言う些細な動作でさえも思うように出来なかった。


 それでも少しずつ少しずつ動かせるようになっていった。

 指を上手に操るのは本当に難しく、指一本ピクリと動かせる事も初めは全く出来なかった。


 魔力を指先まで巡らせる事もそうだけど、どの指にどこまで力を入れるのかの調整に凄く苦労した。

 そうであっても、出来ることが増えていくのはやっぱり嬉しくて、初めて私が辿々しくだけど歩けるようになった時は、三人で抱き合って泣いたのを覚えている。


 幸せだったんだ。


 あの時、私は凄く幸せだったんだ。

  




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