表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ一つだけ  作者: レクフル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/141

残るモノ

残酷描写があります。


ご注意下さいませ<(_ _*)>


 失われた血が多かったからか、激痛が続く中意識は朦朧とし、何度も気を失いそうになり、けれど続く痛みで引き戻されるといった事が何時間も何時間も自分の体に起こっていた。


 涙がずっと溢れていて、もう歩く事が出来ないのかな、とか、私の足はどうされるのかな、とか、朦朧とした意識の中でそんな事ばかり考えていた。


 永遠かと間違えてしまう程の感覚がして、ずっとそうやって耐えていて、漸く痛みがひいてきて眠ることができて、それでも悲しみは消えなくて、多分私はずっと泣きながら眠っていたのだと思う。


 なんで私はこんな事をされるのかな……


 何がいけなかったのかな……


 皆は私の事が嫌いなのかな……


 どうやったら好きになって貰えるのかな……


 あぁ、そうか……守ったら好きになってくれるんだったっけ。なら、国を守る事になるって大司教って人は言ってたから、私は皆に好かれるのかな。

 でも、私の代わりって人がいるから、その人を皆が好きになるのかな。


 誰も私を好きになってくれないのかな。誰も私に笑いかけてくれないのかな。


 私に優しく微笑んでくれたのはリーンだけだった。彼だけが私に優しかった。

 だけどあれからリーンに会うことはできなかった。こんな私じゃもう会えないかな。


 

記憶を探ると、色とりどりの景色と一緒にリーンはいた。

 馬に乗って風を感じてリーンの体温を感じて、話をしながら流れる景色を見られたあの時が一番楽しかった。きっとあれが幸せと言うものだったと思う。


 もうここから出られないのかな。もう空を見ることはできないのかな。リーンに会えないのかな。


 大司教が言うように、また足が生えてくれば良いのに。そう願っても、私の足は太股の真ん中位から無くなったままだった。


 勝手に血は止まってる。けど他の人はそうじゃないんだって。これまでの私が受けた同じ事を他の人が受けたなら、とっくに死んじゃってるんだって。

 それと私の体は勝手に瘴気を祓うんだって。瘴気って放っておいたらダメなんだって。魔物がいっぱい出現して、水や土は汚染されて、人にも悪い影響を与えるんだって。だから私の力が必要なんだって。

 

 自分の役割みたいなのを思い返して、なんとか生きてる意味を見つけ出そうと試みる。そうしないと自分に起こっている事に耐えられそうになかったから。


 きっとこれからは良くなっていく。だって私は国を救ったんだから。だから好きになってくれなくても、これからもう酷い事は起こらないよね? 


 ねぇ、女神様……良い子にしてたら良いことが起こるかな? えっとね、悪い事はしないつもりだよ。私は人質だから。ジゼルだから。悪い事をしたら困る人がいるからね。

 

 優しく両手を広げて包み込むようにして存在していた女神像を思い出して問いかけてみる。

 

 もう痛いのは嫌だよ……傷は無くなっていくけれど、気持ちは痛くて悲しいままなの……

 足は無くなったまま、もう元には戻らないよ……


 悲しくて虚しくてどうしようもなくて、美しい思い出だけを頼りにする日々が続いた。


 自分が片足になったのを何とか受け入れ、そうやって生きていく事にも慣れてきた頃、また多くの人達がやって来た。


 そうして私は一つだけになった足を、またも無残に奪われてしまったのだ。


 私から両足が無くなってしまった。


 足は他国に渡したんだって、いつも様子を見に来る人が言っていた。東にある隣国で、武力が高い事から脅威的存在であったけれど、私の足を交渉材料にして優位に立つことができたんだって。


 足を手にした隣国は、瞬く間に酷い瘴気から解放されたんだって。良かったなって言われた。でもそう言われても、ちっとも嬉しくはならなかった。

 

 もう一つの足は、南にある大国に渡したらしくて、小さな国って事で冷遇されていた我が国と対等になるように交渉できたんだって。

 国を守れて凄いなって言ってくれたけど、その目は敬うような目じゃなくて、嘲笑うような目をしていた。


 次に多くの人達が来た時、もう涙しか出てこなかった。


 良いことが起こる事はない。この人達は私に嫌な事しかしない。それが分かっていても拒否なんかできない。声が出せない。思いも伝えられない。伝えたところで止めてなんか貰えない。


 震えるだけで逃げる事一つできない。恐怖に駆られて何とか体を捩り後ろへ行こうとするけれど、やっぱり思うように遠ざかる事はできなくて、そうするとすぐに眠りに落ちるように術をかけられて……


 次に目覚めるのは激痛で起こされる時だ。


 あぁ……腕が無くなっている……


 今度は腕を奪われてしまった……


 残ったのは腕輪のある左腕だけだった。


 この腕も切られちゃうんだろうか。私から無くなってしまうのだろうか。


 怖い……


 これ以上自分が無くなっていくのが怖くて仕方がない。動く範囲も狭くなってくる。自分で出来ることが一つずつなくなっていく。


 こうして奪われるだけ奪われて、最後に残るのはなんなのかな。

 

 まだ耳は聞こえる。目も見える。腕が無くなったら今度は何処を奪われるの? こんなので生きているって言えるの?


 自分の近い未来を考えると絶望しかなくて、これなら一思いに殺してくれた方が幸せなんじゃないかって思ってしまって、段々生きる意味が無くなっていくのが虚しくて、私の涙はずっと流れて止まらなかった。


 これ以上、もう奪わないで……


 この事が誰かを守る為であっても、奪われる事が辛すぎて、今は自分の事しか考えられない。


 だから?


 こんなだからいけないのかな?


 多くの人が助かっているのなら、私の体くらいどうなったって仕方ないと思わなくてはいけないのかな?


 そう思えないからこんな目に合うのかな?


 色んな思いが頭を巡って、でも答えなんか出せる訳もなくて、私は一人、薄暗い牢獄で横たわるのみだった。


 そうして幾日か経った頃。


 私の左腕も無くなった。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ