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ただ一つだけ  作者: レクフル


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行く末


 初めての事だらけで見るもの全てに驚きがあって、私はとても開放的な気分になっていた。


 馬に乗ったのもそうだし、人と触れ合う事もそうだった。濡れた木々の彩りの良さと水を含んだ空気の匂い、感じる風、流れる景色、どれを取っても凄く素晴らしく綺麗で、こんなに世界が広かった事に感動を覚えていた。


 

「水、もう落ちてこない」


「水? あぁ、雨か。昨日は大雨だったからな。まぁ、そんなだったからあの村に立ち寄る事になったんだけどな。そこで君達を見つけられて良かったよ」


「良かった?」


「あぁ。まさか教会に閉じ込められていたとはね。全く、神への冒涜も甚だしい」


「神?」


「教会に女神像があっただろう? 皆を守ってくださる方なんだよ」


「皆を守る……」


「そうだよ。だから皆敬うんだよ」


「うやまう?」


「えっと……まぁ、好きになるって事……だな」


「守ると、好きになる?」


「そうだよ」



 言われて私は納得した。だって、私はリーンを好きだと思ったからだ。


 馬車に乗るのを嫌がったのに、何も言わずに微笑んで私を馬に乗せてくれた。あの子達は私といるのを嫌がると思ったけれど、私も一緒にいてまた殴られたりするのが嫌だった。

 そんな事情を知ることは無かっただろうけど、結果リーンは私を守ってくれた事になる。だから私はリーンを好きだと思った。


 そうか。守ると好きになるのか。なら、私も誰かを守る存在になれば、皆が私を好きになってくれるんじゃないのかな。

 そんなふうに考えると、何だか嬉しくなってきた。好きになって貰える方法を教えてくれた事が凄く有り難かった。

  

 

「私も、守る!」


「ん? 守る?」


「うん! 守る!」


「ハハハ、そっか」


「そして、いっぱい好きになって貰う!」


「ハハハ、そうかそうか」



 リーンが笑ってる。それって凄く嬉しい気持ちになるんだな。そんな事、初めて知った。


 そうやって馬に乗りながら、時々話をして進んで行く。どこに向かっているのかは分からない。その時は自分がどうなるのかなんて気にもしなかった。ずっとリーンと一緒にいられるんだと思った。



「君は何処から来たのかな?」


「どこ……」


「分からないか?」


「家、から?」


「そう、だな……覚えてる事はないかな?」


「えっと……誰かが来て……外に出て……色んな物をいっぱい見れた」


「……そうか……その腕輪と首飾りは誰から貰ったのかな?」

 

「んっとね、お母さん!」


「お母さんに貰ったんだね」


「うん!」


「お母さんはどうしたのかな?」


「えっと……分からない……もう、いない」


「何処か行ったのかな?」


「遠……く……」



 正直お母さんの事はあまり覚えてなかった。顔も朧気で、お母さんは何処か遠くへ行ってしまったように思ってて、焦がれるような思いであの絵本の中で微笑む母親と自分のお母さんを、私は無意識に重ねていたのかも知れない。

 

 私がそう言ってから、リーンはお母さんの事をそれ以降聞いてこなくなった。


 それから何度も空が明るくなって暗くなって、景色も見たことのない所がいっぱいあって、私は目に見える物全てにワクワクしどおしだった。


 そして着いた場所がフェルテナヴァル国王都ラザラリア。


 凄く大きな壁、多くの人、いっぱいの綺麗な家、大きな大きなとても美しい建物……

 どれも全てが壮大で煌びやかで、何も言えずにただ辺りを見るしか出来なくて……

 驚きだけが自分を占領していて、暫くは声が出なかった。


 馬から降ろされ、暫く歩いた場所に一緒に行って、リーンは私を他の人に渡してからその場を去った。


 呆然として、自分がどうなるのか分からなくて、リーンが私のそばからいなくなる事が理解出来なくて、どうしたら良いとか分かる事もなくて、私は流れに身を任せるしかなかった。


 それでもまた、リーンに会えるのだとその時は思っていた。少し離れるだけなのだと……


 他の子達とは別にされ、私だけが別の場所へと向かって行った。


 連れて行かれた先は温かいお水がいっぱいある場所。そこで私はしっかり何度も洗われてから綺麗な服を着さされて、ちゃんと髪も整えられて、また別の場所に連れて行かれる。


 ここは部屋の中なのに凄く明るくて、凄く広くって、キラキラ輝いているように見えて、それに目を奪われてしまう。


 とある部屋に入って行くと、そこには怖そうな顔つきの人達が3人程いた。



「この者が、か?」


「はい」


「こんなみすぼらしい子供が?」


「先程湯浴みをさせた侍女が確認したところ、胸に痣があったとの事です」


「それは真か?!」


「ご確認を」



 私を連れてきた人がそう言うと、私の服のボタンを外しだした。戸惑ったけれど、どうしていいか分からなかったから、何も動けずにそのままにいた。


 私の胸には何かの模様がある。けど、それは誰にでもあるものだと思っていた。そうじゃなかったのかな……



「これは……! ではその者が聖女と言うのか?! どうなのだ! 大司教!」


「この文献に載っている模様そのものでございます! 間違いありません!」


「なんと……!」


「とにかくその者を調べるのだ! どの様な力があるのか、どこまで出来るのか、何が出来るのか、全て徹底的にだ!」


「御意に!」



 何を言っているのか分からなかったけれど、私はここにいる事になるのかな?


 どうなるのかな……?





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