出会い
連れて行かれた建物は他の家よりも大きくて長椅子が沢山並べられていて、窓はガラスがいろんな色がひしめき合っていて、そこから陽が射して、様々な色で広々としたこの場所をキラキラと煌びやかに染めていた。
目の前には人のような白い作り物があって、それはとても美しく穏やかそうに見える人の形をしていた。抱き包むように両手を緩やかに広げていたヒトガタのそれは、私に優しく微笑みかけているように見えた。
きっとその人に包まれたなら、凄く幸せなんだろうなと思いながらその前を通りすぎる。
そしてその建物の奥にある部屋の一室に4人の子供達はいた。
みんな泣いていて、一ヶ所に身を寄せ合うように固まって震えている。
私の手を掴んでいた人が、その場所に私を放り投げるようにすると、扉はまた固く閉ざされた。
「……アンタも拐われてきたの……?」
「え?」
「住んでいた村が襲われて、僕達は捕まったんだ。君もそうなのか?」
「えっと……そうじゃ、ない?」
「じゃあアイツ等の仲間って事?!」
「なかま……?」
「ちょっと悪戯とかしてお仕置きにここに閉じ込められたとかじゃないのか? 気楽なもんだよな!」
「私達はどうなるか分からないって言うのに!」
「あ、の……」
「お前の仲間のせいで俺達の村は……俺の親は死んじゃったんだぞ!」
「私の親もよ! 返してよ! お父さんもお母さんも! 私達の村もっ!」
何故か分からないけど、皆が私に怒っている。それから、うさを晴らすように罵声を浴びせて殴りつけ、蹴りあげられる。私はただ、自分を守るように身を丸めて耐え忍ぶしかできなかった。
だって私より、私を殴る子達の方が悲しそうで辛そうだったから、何も言えずにそうさせてあげるしかできなかったんだ。
私がここに来た事がいけない事だったのだろうか。なんで怒っているんだろうか。
今まで薄暗い部屋の中で、絵本だけを眺めて生きてきた私には、人がどんな時に怒るのか、どんな風に考えているのかなんて分かりようがなかった。
きっと私が悪いのだろう。理由は分からないけど、そういう事なんだろう。
暫くそうされて、気がすんだのか体力が無くなったのか、皆が寄り添ってまた泣き出した。
痛む体で何とか起き上がり、皆とは距離をおくように離れて部屋の隅に一人踞る。
そうして暫くすると、殴られて痛かった所が段々痛くなくなってくる。そう言えば夜歩いた時に尖った小石を踏んで傷ついた足裏も、枝に傷つけられた腕も、いつの間にか綺麗に治っていた。
怪我をしたのが初めてだったから、その時は怪我はそうやってすぐに治るものだと思った。
アザができた所を撫で付けると、紫になって痛んでいたのが無くなっていつもの肌色に戻っていく。だから痛い所を手で撫でて、その痛みを全て取り除いていった。背中は手が届かなかったけれど、少ししたら痛みは無くなっていった。
それからも、時々思い出したように私は罵られ殴られ蹴られた。そうしないと気がすまなくて仕方がなさそうだったから、私は何も言えずにされるがままになっていた。
ただ、体の痛みをどれだけ取り除く事が出来ても、心の痛みを取り除く事は出来なかった。
何故そうされるかも分からないけれど、私を蔑む言葉に心は痛みを覚えてしまう。皆の私を睨み付ける目も怖かった。
そうやって時々いたぶられながら時を過ごした。ここは窓がないから外の様子は見られない。それが凄く残念で、早く外に出られたら良いのになぁって、それだけを思って部屋の隅で身を守るようにして過ごしていた。
どれくらいそこにいたのかは分からなかったけど、ドタドタと扉の向こう側がうるさく鳴ったかと思うと、勢いよく扉が開かれた。
現れた人達は私達を見ると怪訝な顔をしてから、
「もう大丈夫だ」
と言って部屋から連れ出してくれた。
外に出ると空は真っ暗で、水が落ちてきていた。空からなんで水が落ちてくるのかも分からなくて、その事にも驚きながら辺りを見渡す。
村人以外にも多くの人がいて、何故か村人達を取り押さえていた。
そんな事があってから、私達はこの村から出ていく事になったんだ。
翌朝には水も落ちてこなくなっていて、明るい空があった。空気を思いっきり吸い込んで、自然の匂いに体を馴染ませる。あぁ、やっぱり外は良いな……
他の子供達は馬車に乗せられて、私もそこに乗るように言われたけれど、きっと私が近くにいると皆が嫌な思いをするだろうから、馬車には乗りたくないと何とか言ってみる。
すると、大人の人より幼い感じの男の人が自分の馬に乗れば良いと言ってくれた。
その人は私を見て微笑んだ。
それは人から初めて私に向けられた笑顔だった。
絵本で見た微笑みよりも素敵に見えて、それを見た時は絵本を見て暖かな気持ちになるよりも心が満たされた感じがした。
私を抱き上げるようにしてヒョイと馬に跨がらせて、その人は私の後ろに乗った。体が密着して、それには凄く緊張した。
背中が暖かくて、初めての触れ合いにただ困惑しながらも、人とこうやって触れ合う事が凄く心地いいと知った瞬間だった。
自分の目線より高い景色が素早く流れていって、風が顔を通りすぎていく。時々後ろから私を気遣うように
「大丈夫か? 怖くない?」
と優しく話しかけてくれて、それが凄く嬉しかった。
その人は『リーン』と呼ばれていた。




