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ただ一つだけ  作者: レクフル


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首飾りと腕輪


 ジルがメイヴィスから赤子の時につけられた首飾り。そして腕輪。


 首飾りはジルの力を抑制していたが、ジルの命も守っていた。そして押さえ付けられた魔力は腕輪へと流れて行ったと、そう言えばジルは言っていたな。

 


「首飾りは、つけていると命を守ってくれる物です」


「はい、それは分かってたけど、でも魔力も抑制されていて……」


「あぁ、それは聖女様の魔力が元々とても多かったのでしょう。聖女となられる方は通常、とても魔力が多いものなのですが、お相手の方、父親ですね。その方の魔力が多いと、それも受け継いでしまわれるのですよ。だから魔力の高い方と婚姻を結ばないように心掛ける必要があるのですが……」


「え? そうだったんですか?」


「はい。メイヴィス様はかなりの魔力持ちでした。おそらくおばあ様のお相手の方の魔力が高かったからでしょう。ですので、と言いますか、本来そうなのですが、メイヴィス様の伴侶となる方は魔力のない人物と決まっていました」


「お母さんの結婚する人は決まってたって事なの?」


「そうです。そうしなければ生まれる赤子が膨大な魔力に耐えられず、亡くなってしまう場合があるからです。聖女は一人しか子を産みません。しかも必ず次代の聖女となるべく女児を生むと決まっております。もしそんな理由から亡くなってしまったら……この世界は瘴気に穢されまくりですよ」

 

「そうか……シルヴェストル陛下の魔力はかなり多いと思う。だからジルの魔力も多いんだな」


「でも、それじゃあ私が赤ちゃんの頃、すぐに魔力のせいで死んじゃってたんじゃないのかな。私、どうして無事なの?」


「生まれてからすぐは、魔力はあまりない状態なんです。それから徐々に魔力が増えていきます。普通の人であれば、10歳頃に魔力量は頭打ちになります。しかし、聖女様の場合は、僅か3歳頃には、成人程の魔力量になります。そして膨大な魔力を持つ人は1歳にも満たないうちにそうなります。しかも上限なく増える場合もあります」


「そうなったら体が持たないのは明白だな……」


「はい。ですので、あの首飾りは魔力を抑える事もしていたのでしょう。成人を迎えれば魔力は体に定着しますから、首飾りが無くとも問題はなかったかと。ですが、命の危険は付きまといます」


「それはそうなるな……」


「ですが本来、首飾りを身に付ける事はしません。持っておくに留めておくのです。それは首飾りは、聖女の力も押さえ付けるからです」


「でもお母さんは私に首飾りをつけた。それは私がまだ赤ちゃんだったから、ずっと持っておくとか出来なかったからってのもあったんだろうけど……」


「きっと、ジルの命を守りたかったんじゃないかな」


「そうですね。そう考えられます。守ると同時に、抑制作用もあった首飾りでしたから。それも聖女と知られない為の物です。今、聖女様は首飾りをつけられてませんね。ですから、聖女様は誰が見ても聖女様と認識できるのです。その溢れ出る聖気は抑えられませんからね」


「え? そうなの? 私、聖女ってバレちゃってるの?」


「まぁ……そうだな」


「そうなんだ……知らなかった」


「聖女を良いように使われない為の措置でもありました。それでも分かる者には分かるのでしょうが。身に付けてしまった場合、それは簡単には外せません。ですから首飾りには封印を解く鍵のようなものが必要でした。それは首飾りをつけた人が設定するのですが」


「それがジルの名前だったんだな」


「あの時父上に名前を呼ばれて、首飾りは壊れちゃったんだね。それで聖女の力が溢れ出たんだ……」


「そうでしたか。で……その、対になっている腕輪はどうされてますか?」


「腕輪はつけているよ。ほら、ここに」


「え?! なぜつけられているんですか?!」


「それはお母さんが首飾りと一緒につけたからだよ」


「腕輪にはなんの作用があったんですか?」


「それは通常、伴侶となる方にお渡しする物なんです」


「そうなの?!」


「はい。その腕輪は首飾りから抑制された聖女の力を引き受ける作用があります。その伴侶の方がそれを持つ事で、聖女との絆を結ぶのです」


「絆を結ぶ……」


「要は聖女の力を得て、聖女のサポートする役目を担うのですよ。同じ程の力とはなりませんが、もし聖女が何かの事情で倒れた場合や、次の聖女を生む前にこの世を去る事になった場合、聖女の力を得ていれば次の聖女を産み出せますから」


「え? それはその伴侶となった人と他の女性との間に生まれた子でも、聖女になれるって事ですか?」


「はい。そうしなければすぐに世界は破滅してしまうでしょう? 聖女の恋は一度きりでも、伴侶となる方はそうではありませんから」


「え? そうなの?」


「いや、俺は……!」


「聖女様、そう言うものなのですよ。これも世界を守る為なのです。ご理解ください」


「そうなんだ……」


「聖女の力をその身に受け止める為にも、伴侶となる方に魔力はあってはならないのです。言うなれば、器は空の状態でなければ聖女の力に耐えられない、と言う事です」


「耐えられなかったらどうなりますか?」


「それは……力が暴走してその身は耐えられなくなって……」


「死んじゃうの?!」


「その可能性はあります。ですから伴侶となる方は魔力のない方で、その運命を引き受けられる方でないといけないのです」


「なら、お母さんの伴侶となる人はどうしてその腕輪を持ってなかったのかな。お母さんが渡したくなかったのかな」


「首飾りをお渡しした時に、この話もさせて頂きました。先程も言ったように、腕輪と首飾りは対となっております。ですから手渡す時は同時に渡します。本来それは母から娘へ託す物なのですが、おばあ様がこの村を去る時に置いて行ってしまわれたのです。全く……完全な聖女放棄ですよ」


「聖女放棄……」


「はい。ですから村長の家系である私共が管理させて頂いておりました。伴侶となる人に、来るべき時にお渡しするようにと」


「来るべき時って?」


「婚姻を結ぶ時ですよ。成人を迎える日、メイヴィス様が15歳になられたら婚姻を結ぶ予定でしたから」


「でもお母さんは帰って来なかった……」


「えぇ……伴侶となる者をメイヴィス様は唯一と思えなかったのですね……それは私達の不徳の致すところです。ちょうど幼馴染みとして育ったメイヴィス様と同い年の男の子が魔力なしだったので、こちらでそのように決めたのです。メイヴィス様もそれを受け入れるだろうと勝手に思ってしまったんです」


「でもそうじゃなかった……」


「兄妹のように感じていたようですね。愛情はあったでしょうが、それは恋ではなかったのでしょう」



 メイヴィスが恋をしたのはシルヴェストル陛下だった。しかし、メイヴィスは腕輪を渡さなかった。それはシルヴェストル陛下の魔力が高いからと考えられる。


 なら、なぜジルに……


 知っていくと新たに生まれる疑問。


 だが、きっとそれもジルを守る事だったんだろう。メイヴィスは自分の母親とは違い、子に愛情を与える人だったのだから……






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