表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ一つだけ  作者: レクフル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/141

闇が戻る


 アデラから、俺が転移石でフェルテナヴァル国に行った後のジルの様子を聞かせて貰った。


 ジルは俺たちが出立した王城の広場で佇んで、祈るように俺の帰りを待っていたと言う。


 

「聖女様は時々、悲しそうに、お辛そうにしておられて……私が声を掛けようとしても、それを拒絶するように頭を横に振られて、私達侍女や執事達も近寄らせない状態でございました」


「それは何故なんだ?」


「分かりません……ただ、誰にも心を開こうとされていないような……いえ、いつも私達の事を気にかけてはくださってはおりますが、打ち解けてくださっているのかと言うと、そうでは無かったのは事実でございます。しかし、そんな感じではなくて……まるでここに信用できる者はいないとでも言うような……」


「ジルがか?」


「そう言われた訳ではございませんが、そんな印象を受けました。それはどこか寂しそうで、私達がおそばにいるのに、それが届かないもどかしさがありました。どうすれば聖女様は心を落ち着かせて頂けるのかと……そればかり考えながら、私達は見守っていたのでございます」


「もしかして……ジルに芽生えた心の闇のせいか……?」


「ジュディスは負の感情に戸惑っておったのかも知れぬな……聖女たる者、正しく清くあるべきと思っていたのかも知れぬ」


「ジルは聖女になりたかった訳ではありません。ですが、ジルは清い人です。酷い目に合っても誰も恨む事なく、どんな困難にも耐えてこられた強い人です。そんなジルに芽生えた負の感情に、ジル自身が戸惑い自分を責めていたのかも知れません」


「そうですね……私達は聖女様と思うあまり、求めすぎていたのかも知れませんね。ですが聖女様は人間です。まだあどけない少女です。そんな当たり前の事に、今やっと気づくだなんて……申し訳ありません……」


「アデラだけがそうではない。皆がそうだったのだ。それは余もだ」


「眠っている時のジルは、夢に怯えている様子でしたが、起きている時はいつもと変わりなかったので、私もそこまで気にかけていませんでした。しかし、ジルは自分に芽生えた今までにない感情をどうすればいいのかと悩んでいたのかも知れないんですね……一番傍にいながら気づいてやれないなんて……!」


「ジュディスももしかしたら知られたくなかったかもな。あまり自分を責めるでない。これに関しては皆同罪ぞ。それでアデラ、それからジュディスはどうなったのだ?」


「はい……祈るように佇んでいらした時、突然聖女様自身が光られました。と思ったら、今度は黒い何か影のようなモノに被われて……私達は驚いて近寄る事ができませんでした」


「影のようなモノ……」


「はい。それは聖女様から滲み出るような感じでしたが、また聖女様へと戻っていったような、そんな感じでございました」



 ジルから闇が出てきて、それからまたジルに戻った? 


 あの時……俺がヒルデブラントの闇に盧まれそうになった時、俺は何故か光った。体に侵食していた闇が無くなって、自分から光を発したようだった。

 あの時はたしか……そうだ、ジルを想っていたんだった。


 あぁ、やっぱりそうか。ジルはここで俺を助けてくれていたんだな。ジルから得た加護は、ただの加護と言うものではなかったのかも知れない。


 俺の事を分かるようにしたのか? いや、そうしたんだろうな。心配性のジルだ。何もせずに送り出すなんて出来なかったんだろうな。

 そして俺のピンチを知って、ここから助けてくれたのか……

 自分から出た闇だとしても、それを受け入れる事に日々戸惑っていたジルが、ヒルデブラントから出た闇も、神官達から出た闇も全て自身に受け入れたとは……


 俺の横で眠っているジルの髪をそっと撫でる。


 ちゃんと気づいてやれなかった。ジルの心を全て見てやれなかった。悔しさで、自分に腹が立つ。誰よりも傍にいたのに……



「それで……私が倒れてからはどうなりましたか?」


「ジュディスは何度もリーンハルト殿の名を呼んでな。泣きながらすがりついておった。それからすぐに自分の寝室に運ぶようにと指示をしたのだ。その気迫に余でさえ何も言えなかったわ」


「すぐにリーンハルト様は聖女様の部屋……ここに運ばれました。寝室には誰も入らないようにと言われて……」


「流石にそれは、と余も思ったのだが、ジュディスが、必ずリーンハルト殿を助けるからと必死の形相で言われてしまえば、ジュディスに託すしかなかったのだ」


「そうでしたか……」


「しかし、こんなに部屋を荒らして……前に報告があったが、それと同じようになったと言うのか?」


「それは私にも分かりません。ですが恐らくそうだろうと考えられます。気付かれなかったのは、ジルが防音の結界でも張ったのでしょう。それはジルが倒れてしまったから、効果を無くしたのでしょうが……」



 目の前に広がる惨状は、あの時のように闇の力が暴発した後の状態と同じだった。俺に残っていた闇を自分へと戻したジルだが、燻って残っていた程の闇だ。なかなか強力なモノだったのかも知れない。


 それを何とか吐き出させた時にこうなったのか……? 全ては憶測だが、十中八九そうだろうと考えられる。


 眠るジルは、いつものあどけない少女のままで、何も変わりないように感じる。だけどあの闇を自分に全て取り入れたジルはどうなる? 自分に残っていた闇でさえ、ジルは戸惑い苦しんでいただろうに……


 元はと言えば、闇の力を発現させたのは俺が原因だ。俺が弱かったから……


 後悔してもどうにもならないが、俺は自分の弱さに悔やむしかできなかった。


 そしてジルは、それから眠り続ける事となった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ