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ただ一つだけ  作者: レクフル


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繋がる想い


 リーンがフェルテナヴァル国に向かった。


 戦争に……人を殺しに行ったんだ……


 それはきっと私のせいでもある。父上は私がフェルテナヴァル国で虐げられていた事に凄く怒ってくれていたし、それはリーンもそうだった。

 だけど私はされた事の仕返しをしたいとは思わなかった。私が望んだのは、私に優しくしてくれた人をあの国から助け出したい。ただそれだけだった。


 パーティーの日、私はあの国にリーンと共にフェルテナヴァル国の神官に拐われてしまった。それが父上の逆鱗に触れた。だから戦争を仕掛ける事になった。


 当初私もフェルテナヴァル国に行って、エルマとイザイアを助ける為に動く筈だった。だけど拐われた先でヒルデブラント陛下や神官達を見たら、恐怖でどうしようもなくなってしまった。


 もうヒルデブラント陛下も神官達も、私に危害を加える事は出来なくなった。リーンを傷つけられて理性を失って闇の力を発動させてしまった私は、あの人たちを生きる屍のようにしてしまったからだ。

 なのに……ううん、前よりも怖くなってしまったと言うのが本音だった。

 記憶にあるあの人たちは、私に痛みと恐怖をもたらした。そして今は、あの朽ちた姿で私を睨み付けているように感じる。

 

 それからは私の中にある良くない感情が胸に居座るように、だけどそれを理性で表に出さないようにして、ずっと燻っているような状態。

 ずっとスッキリしない。モヤモヤがあるような感じ。


 それに抗うように、誰にも良くない感情を知られないように押し込める。

 幸せそうな人を見て、今まで不幸がなかったからそんなに幸せに笑えるんだろうな、とか、怒っている人を見て、怒られる人の気持ちが分からない愚かな人かも、とか、悲しんでいる人を見て、そんな顔をしていたら余計に悲しくなるのに、とか、今まで考えた事もなかった考えが頭に浮かんでくる。


 その感情が本当に自分のものなのか、それとも何かが自分に居着いたのか、それすらも分からずに困惑していて、だけどそれをリーンに言うことも出来なくて……


 良くない感情を押し込めるようにしているからか、凄く眠くなってしまう。だから気づいたら眠ってしまっているんだけど、そうなるのも嫌だった。


 夢を見る。それは昔に自分に起こったことが今もこの身に起こっているという夢。


 薄暗く冷たい石畳の閉鎖された空間にいる私を殴り付け、腕を切り落とし、笑う神官達。

 何度も何度も短剣で私の胸を貫くヒルデブラント陛下。


 それはやけにリアルで、夢か現実かもその時は区別がつかない。怖くて悲しくて苦しくて、そこから抜け出すように目を覚ます。

 そんなとき、リーンはいつも傍にいてくれる。私を抱き寄せ、

「大丈夫だから」

って背中を撫でて安心させてくれる。


 リーンが傍にいてくれるだけで、良くない感情もどこかに行っちゃう。悪い夢からもすぐに抜け出せる。

 リーンの傍にいられるだけで、私は今までの私でいられるの。


 だから少しでも私から離れないで欲しかった。だけどリーンはフェルテナヴァル国に行ってしまった。

「すぐに帰ってくる」

と笑って出ていこうとする。


 そんなリーンに私は加護を贈った。それは私とリーンを繋ぐもの。私の意思をリーンの真相心理に送り、そしてリーンからの力の一端を受け取った。

 それからリーンの心の奥底にあった力の源を優しくゆり起こした。そうする事で、リーンは自分にあった力を全て引き出せるようになった。


 リーンの潜在能力は素晴らしいものだった。それは元々体に眠っているように存在していて、私はそれを引き出すのに手を貸しただけ。私がしたのは、ただリーンを守ること。外部からの攻撃に傷つかないように、決して死なないように守りを固めたこと。


 リーンと繋がったから、リーンが感じた事は全て私まで届いてきた。リーンの感情を感じられた事が私を安心させてくれる。

 傍にいなくても、それだけで心が安らいだ。


 だけど、流れてくる感情は悲しいものばかり。そうだった。リーンはフェルテナヴァル国で騎士をしていたんだった。だから戦う相手はかつての仲間だった人たち……


 嫌だって心が叫んでる。戦いたくない、斬りつけたくないって、身体中で訴えながらもリーンは剣を振るっている。


 ごめんなさい……


 ごめんなさい、リーン……


 悲しみに心を痛め付けながら、それでもリーンが想ってくれたのは私のことだった。

 それが申し訳なくて、だけど嬉しくて、でもやっぱり苦しくなって、私はリーンが出立した場所で佇んで涙を堪えていた。

 泣きたいのはリーンだから、私が泣いちゃダメなんだ。だけど、リーンの気持ちを共有できたことは単純に嬉しい。一番にリーンを分かってあげられるんだもの。


 指を組んで祈るような状態で目を閉じる。少しでもリーンから悲しみがなくなりますように。痛みが、苦しみがなくなりますように。そう願っていた時、リーンから嫌な何かが流れてきた。


 これは私の感情……?


 そうだ……私から発した闇の力だ……


 もしかしたらリーンは、ヒルデブラント陛下を、神官達を倒そうとしているのかも知れない。だからリーンは、闇の力に飲み込まれたヒルデブラント陛下達の発する闇に侵されそうになっているんだ。


 私が生み出してしまった闇の力がリーンを苦しめている。そんな事はあってはならないのに……!


 あの闇をリーンから取り除かなければ…… 


 リーン、ごめんなさい。私の悪い感情にリーンが侵されて身動きがとれないんだよね? それは私のなの。だから私がそれを引き受けるから。 


 リーン……リーン……


 どうか私を想って……そうしたら私はリーンともっと繋がれる……


 目を閉じると暗闇の中にリーンがいて、闇に取り込まれているような状態だった。


 大丈夫だよ。リーンから悪いの、取っちゃうからね。


 リーンの体に巣食っていく闇を自分へと導いていく。代わりに私の力で浄化させて……


 良かった……リーンは闇から抜け出せたみたい。だけど闇を引き受けた私の心に、更に良くない感情が占領しだす。ダメだ、耐えなくちゃ……


 私の様子がおかしいと、アデラが気遣ってくれるけれど、それが何だか鼻につく。

(私の苦しみを分からない癖に、気遣うふりなんてしないで)

そう思ってハッとする。


 違う、アデラは純粋に私を心配してくれているのに、なんでこんなふうに考えちゃうの?


 私は聖女……


 それを誇りになんて思った事はないけれど、自分がそんな存在だと言うことは受け入れている。


 だけど、聖女は聖なる力を持っているから聖女なんだよね? こんな悪い心は聖女じゃないよね?


 私は聖女なんかじゃない……


 あぁ、だけど……


 リーン……


 こんな私でも……貴方は愛してくれるのかな……


 ねぇ、リーン……





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