かつての仲間
結界の前に出たヴァルカテノ軍とフェルテナヴァル軍の騎士達。
既に戦闘は始まっている。
結界内では魔術師が敵に向け魔法で攻撃し、結界を強化し続けている。
そして向かってくる魔法を無効化するように常に詠唱を繰り返している。
結界から出た俺たちは、剣を携えて向かってくる敵と対峙する。
俺の顔を見たフェルテナヴァルの騎士がピクリと眉をしかめた。そこには共に遠征に行ったラディムもいた。
「リーン……か? 何故だ! 何故お前がそちら側にいるんだ!」
「ラディム……俺はこの国の在り方に耐えられなかったんだ。だから俺を敵と思ってくれて構わない」
「見限ったという訳か。しかし何故なにも相談してくれなかった! 俺はお前を友人だと思っていたのに……!」
「ラディム……! 出来ればお前とは戦いたくはない! お前さえ良ければ俺たちと共に……」
「そんな事が出来るわけがないだろう! こんな国だが忠誠を誓ったんだ! 俺はこの国と共にある!」
「ラディム……っ!」
「リーンっ! 貴様は……俺の敵だ!」
ラディムは泣き出しそうな顔をしながら、悲痛な声で叫ぶようにして俺に斬りかかってきた。ラディムの剣筋は把握している。何度も共に戦ってきたし、訓練でもよく打ち合っていたからな。
だから分かる。俺が勝ってしまう事が。
出来れば一番戦いたくなかった相手だった。馴れ合おうとしない俺が一人でいる時に、唯一話しかけてきたのがラディムだった。俺が相手にしなくても、気づけばラディムは勝手に横にいた。
最初は煩わしく思ったのだが、気づけば近くにいて喋っているラディムのペースにいつの間にか慣れていき、それが苦ではなくなっていった。騎士団の中では、共にあるのが普通になった程に……
駆け寄って来たラディムは剣を振りかぶる。それがやけにスローに見えてしまう。
あぁ……嫌だな……ラディムの攻撃は容易に躱わせてしまえるし、すぐにラディムを斬りつける事も出来てしまう。
それが分かってしまうのが嫌でどうしようもない。
いつも無反応な俺を引き摺るようにして酒場に連れていき、楽しそうに酒を飲み話した事。
俺の剣筋が良いからと、どうやっているのかを教えて欲しいと頭を下げてきた事。
共に魔物を討伐した時の、俺を頼りにしてると言いながらも怯むことなく勇敢に戦っていた事。
好きな子が出来たと嬉しそうに言ってきた事。
結婚するんだと言って、俺に彼女を勝手に紹介した事。
結婚式では俺に友人として祝辞を述べてくれと、恥ずかしそうに言った事。
ずっとこうやって一緒にここで昇り詰めていこうなと、騎士舎で夢のように語っていた事。
そんなラディムとの思い出が、この僅かな一瞬の間に脳を駆け巡る。
ラディムは子爵家の三男だ。代々騎士を輩出している家系であり、父親と長男には騎士爵位が与えられる程に武力に長けており、それに憧れたか、そうするのが当然とばかりにラディムも騎士になった。
しかし、ラディムの実力は然程高くはなかった。だがラディムは諦めなかった。誰よりも熱心に努力をし、鍛練し、少しずつ少しずつ実力をつけていったのだ。
誰にも気さくに話しかけては友達になり、ラディムの周りには人が多く集まった。そんなラディムが何故俺に絡んでくるのかが分からなかったが、それが嫌ではなかった。アイツの話を聞くのは嫌じゃなかった。
俺もお前を友人だと……
「あ、ぐっ……リ、リーン……っ!」
「ラディム……すまない……」
脇腹に一突き。刃はかつての友人を貫いていた。
ゆっくり崩れ落ちるラディムをただ見るしかできない。
バタリと仰向けに倒れたラディムの腹からは、ドクドクと流れ出る血が床を染めていった。
「やっぱ……負け、ちまった、な……」
「…………」
「聖女、か……?」
「なぜそれを?!」
「ハ、ハ……やっぱり、そう、か……俺が、何も……知らないと、思うな、よ……?」
「ラディム……っ!」
「惚れた、女、の……為、か……」
「それは……」
「案外……お前も、普通の男……だったん、だな……」
「……っ!」
「それで、良い……惚れた女の味方に、なれ、ないで……どうする、ってな……」
「すまない……」
「謝ん、な……あぁ……ユリアナ、に……言っといて、くれ……愛して、いた、と……」
「ラディム……」
「……ユ……リア……ナ……」
愛しい人の名前を最後に呼んで、ラディムはゆっくりと目を閉じた。ポロリと涙がこぼれ落ち、ラディムの頬を濡らしたのはラディムの涙だったか俺のだったか……
滲む目をラディムから背け、大きく深呼吸してから駆けていく。
俺を許すな。恨んでくれ。こんな恩知らずな奴……! 俺自身が許せないんだ!
それでも! 俺は手を止める事はない!
向かってくる相手を次々に斬り伏せていく。それは後輩の騎士、それは上司だった隊長……みんな知った人達だ。共に訓練を重ね、共に戦った俺の……
気づけば俺に向かってくる敵はいなくなっていた。そして俺の足元には、かつての仲間だった人達の姿があった。
自分がした事だ。そこから目を逸らすな。しっかりと見届けろ。その目に焼き付けろ。そして決して後悔をするな。
そう何度も自分に言い聞かせ、俺はその場から離れた。
まだ終わっていない。
まだ戦いは続いている。
俺は血に濡れた剣に魔力を這わせ、駆けていく。
そうして目の前に張られてある強固な結界に向かって、大きく振りかぶって剣を叩き込んだ。
その瞬間、結界は
バリバリバリバリバリバリーーーーッッ!!
という大きな音を立てて壊れていった。
目の前にはミロスラフと、守るようにミロスラフを取り囲む近衛隊。
なんだ、近衛隊は全員逃げ出した訳じゃなかったのか。けどそんな事は関係ない。
俺が倒す。必ず倒す。
それが贖罪とは言わない。自分の罪は自分が背負っていく。
ただこの国が、この国のやり方が許せないのだ。だから刃を向けた。ジルの為とかじゃない。これは俺が決めた事だ。
そうして俺は、剣を振るったのだった。




