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ただ一つだけ  作者: レクフル


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フェルテナヴァル国へ


 現れたシルヴェストル陛下に、集まった者達が皆、緊張の面持ちで見つめる。


 通常、国王であるシルヴェストル陛下は戦場には赴かない。全体の戦況を知りならが指示を出す立場であるからだ。現場では隊を纏める優秀な隊長を据え、状況に合わせて攻撃の仕方等を変えていくのだが、その全体像を把握し最終的に決定を下すのは国王だ。


 だが今回に限り、シルヴェストル陛下はフェルテナヴァル国に行くと言って聞かなかった。

 余程ジルにしてきた仕打ちに怒りが収まらなかったからだろう。気持ちは分かる。だけど国王が自ら戦場に赴くなど、通常は有り得ない。

 

 だから周りの皆が必死に止めたのだが、この件に関しては一歩も譲らなかった。

 そして、もしシルヴェストル陛下に何かあれば、王位継承権は従兄弟にあたる人物にと書面に記したそうだ。


 ジルに王位継承権をと言わなかった事には、シルヴェストル陛下の親心が伺えた。

 ジルは決して女王等になりたくはないだろう。そんな事は一度も考えたことが無いはずだ。それはジルを思っての事なのだ。全く、本当に頭の下がる思いだ。

 

 

「これより、フェルテナヴァル国に侵入し、戦いに挑む。皆はこれまでに叩き込まれた計画通りに行動すれば良い。しかし、状況により戦況が変わることもあるだろう。その場合は己で判断し、より良い選択をとって貰って構わぬ。一番肝に銘じておいて欲しいのは……」



 皆が真剣にシルヴェストル陛下の言葉に聞き入る。尊敬する威厳ある君主の言葉を何一つ聞き逃さないようにと、ゴクリと息を飲み緊張の面持ちで見つめる。


 

「己自身の命を一番に考えよ! 戦場で死ぬ事を誇りと思うな! 必ず生きてこの国まで帰って来るのだ!」


 

 その言葉を聞いた者達皆が、

「「「うおぉぉぉぉぉーーーーっっ!!!」」」

と熱狂し声を上げ、拳を突き上げた。

 誰よりも何よりも、自国民の命を重んじる国王に、皆が心酔したように声を上げる。

 これが王たる者なのだろう。シルヴェストル陛下は、まさに王者として相応しい人物だ。


 士気が上がった騎士や兵士達はすぐに動き出す。俺のそばに5人の騎士が駆け寄ってきた。


 転移石を握り魔力を込めると、俺と5人の騎士はフェルテナヴァル国内の、ジルが捕らえられていたあの塔の近くまで瞬間移動した。


 ここで一旦騎士には待機してもらい、俺はもう一度ヴァルカテノ国まで戻り、また騎士を5人そばに置いて転移石で移動する。

 これを何度も繰り返す。


 事前に王城への道のりや入口と裏口、内部構造等知りうる限りを教えてある。転移場所には護衛の者を数人置き、50人揃ったところで第一軍が王城へと向かう。

 俺はそうやって何度も騎士と兵士を転移石で人員を移動させていくが、通常はかなり魔力を使うはずなのに今日は一向に疲れない。

 無限に力が湧いてくるような感じで、魔力も尽きる事なく溢れてくる。


 きっとこれがジルの加護なのだろう。


 心なしか、移動するために俺の傍に来た騎士や兵士達も、いつもより力が溢れているように感じる。ジルの恩恵が俺から伝わっているようだ。本当に凄いとしか言いようがない。


 何度もそうやって騎士や兵士達を送り出す。事前に打ち合わせた通りに皆が機敏に動いていく。連携が取れていて行動に無駄がない。流石だ。


 最後に兵士に連れられたヴィヴィとシルヴェストル陛下がやって来た。

 

 ヴィヴィは辺りをキョロキョロ見渡して、ここがかつて自分が住んでいた塔であると悟ったのだろう。塔を見つめたまま、何も言わずに動かなくなった。

 

 この塔にヴィヴィは一旦据え置かれる事になっている。この頃には既に塔は制圧されていた。兵士はヴィヴィを連れて塔へと向かって行く。ヴィヴィはまだ俺に助けを求めるような目を向けているが、目を合わせずにヴィヴィがここからいなくなるのを待った。

 やるせない思いが胸に残るが、これは仕方ない事だと自分に言い聞かす。

 

 ヴィヴィから得た情報だが、ヴィヴィはこの塔で暮らしていた頃、地下通路から様々な所に出掛けていたと言っていた。一番によく行った場所は王都だったそうだが、たまにヒルデブラント陛下に呼び出されて王城まで赴いていたのだそうだ。


 それを聞いて俺は呆れてものが言えなくなった。地下通路は敵に侵略された時に、王族が逃げる為に作られた隠し通路の筈だ。だから一般に知られてはいないし、知られてはいけないのだ。

 それをヴィヴィごときが使う事ができた等、しかも王城へ行く通路まで教えられていた事が驚きだった。

 一体何を考えていたのか。いや、何も考えていなかったのだろうな。


 ジルがいることによって、政治的に有利になって過信したか。なんと愚かなのだろう。


 その通路は王城から様々な場所へと繋がっている。勿論、全てヴィヴィが把握はしていないだろうが、この件に関して調査をしていたのが暗部のイザイアだ。

 密かにシルヴォと連絡を取り合い、地下通路を調べていたそうだ。


 正々堂々と王城へ向かう部隊、そして通路出口で逃げ出した者達を蹂躙する部隊と、地下通路から侵入して内部へ向かう部隊と大まかに分けられていて、俺たちは地下通路から侵入する事になっていた。


 そして、この計画を進めていくうちに調べて分かった事だが、自国に反発を持っていた者達も多くいて、反乱軍が存在していた事が判明したのだ。


 そこにもイザイアが動いてくれた。反乱軍リーダーと掛け合い、一緒に戦う事を承諾させたのだ。


 これは罠かも知れないとの懸念があったが、決して裏切らない為にと、互いに契約書を交わしたのだ。契約書には関わる全ての者達の血液が一滴落としこまれてあり、契約を破った者がいるとその時点で、血液をしたためた者の命が尽きる、というものだった。


 そうやってヴァルカテノ国と近隣国だけでなく、自国の反乱軍にも追い詰められたフェルテナヴァル国は、もはや勝ち目はないと考えられている。

 

 反乱軍ができると言うことは、自国に対して不平不満を持つ者が多いからだ。古来より続く王族至上主義のこの国において、平民が反旗を翻す事は並大抵の事ではない。

 それでもこうやって密かに力を付け、この国を変えようと立ち上がっている者達がいた事に、俺は感動すら覚えたものだ。


 地下通路から王城へと向かう。


シルヴェストル陛下自身もかなり武力と魔術に長けていると聞いたことがある。実際に戦っている所を見たことはないが、かなり強いらしい。

 それでも国王に何かあってはいけないから、この部隊は今回で一番の強者が集まる部隊となった。


 それでも油断はできない。


 必ずシルヴェストル陛下を守らなければ。


 周囲に気を張りながら、俺たちは慎重に地下通路を進んで行くのだった。

 




 

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