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ただ一つだけ  作者: レクフル


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自分との戦い


 あれからジルは、少し寝ては目覚め、また眠っては目覚めてを繰り返した。


 無意識に力を使ったからか、闇の力に抗っての事なのかは分からないが、俺はジルが眠っていても起きていても、なるべく傍にいたいと思った。


 時々ジルは(うな)される。その時に耳元で優しく俺が傍にいる事を伝えると、険しかった表情は和らいでいく。眠らずに起きている方が周りの皆の優しさに触れられるのだろうが、だからと言って睡魔に襲われているジルに、無理に起きていろとも言えない。


 今はジルの思うままに、体の望むままにさせてやりたいと思うのだ。


 夕食はジルの部屋で、シルヴェストル陛下も一緒に摂った。


 ジルの食欲はあまりなく、いつも魔力を多く使った後は男顔負けの食欲だったのに、今は少し食べただけで殆どを残す状態だ。

 それでも無理にとは言わずに、飲み物やデザート等を促していく。

 俺が食べさせてやろうとすると、ちゃんと口を開けてくれる。それにはシルヴェストル陛下は眉間にシワを寄せて凝視していたが、何も言わずに見過ごしてくれた。

 

 侍女達に連れられての入浴の時は流石に離れないといけない。ジルは

「魔法で浄化するから大丈夫」

と言って俺から離れようとしなかったが、湯に浸かった方が気持ちいいし疲れも取れるからと説得され、何かあればすぐに俺が行くからと言った言葉に渋々納得して浴室へと向かった。


 湯浴みから戻ってきたジルは、走って俺の元まで来て抱きついてくる。長年会ってなかった恋人同士のように。

 もう離さないと言わんばかりに、かなり強く俺を抱きしめる。俺は優しく抱き包み頭を撫でた。

 湯上がりの石鹸の香りとジルの香りにクラクラしたのは言うまでもない。


 俺も入浴してくると言うと、途端にジルは絶望したような顔をした。やっと会えたのに、また離れなくちゃいけないのかと言ったような顔だ。言わずとも感情が駄々漏れなのを見て、

「やっぱり、ジルに浄化して貰おうかな……」

と言うと、すぐに浄化魔法が発動した。当分俺は風呂に入れそうにないな……

 それから懇願するような顔で俺を見上げる。


 

「リーン……一緒に寝たい……ダメ、かな……」


「あぁ、一緒に寝よう」


「えっ?! 良いの?!」


「ちゃんと陛下に許可は貰った。今はジルから離れたくないんだ。俺が」


「良かった……嬉しい……!」



 途端に笑顔になった。本当に可愛いなぁ。


 寝室にはキングサイズのベッドが一つ。ここに二人で眠るということだ。

 よくシルヴェストル陛下も許可を出してくれたな。今回の場合は仕方ないと思ってくれたんだろうし、婚姻はまだだが一応婚約者だ。

 あまり良いことではないが、婚約者同士でも、体の関係になっている者達もいるのが現状だ。

 その時はやはり避妊は必須だ。婚姻前に身籠ったとなれば、社交界を重んじる貴族では恥さらしとされてしまい、家がらみで冷遇されてしまうからだ。


 って、俺は何を考えているんだ! ジルはまだ子供がどうやってできるのかも分かっていなさそうなんだ。そんな無垢な少女相手に婚約者だとはいえ、女性として求めるなんて許される事じゃない。落ち着け、俺!


 深呼吸をして何とか心を落ち着かせ、ジルと二人で寝室に向かう。ベッドには俺の夜着が用意されていた。

 寝室の横にはウォークインクローゼットがあり、そこで着替えを済ます。ジルもついてこようとしたが、それは流石に止めてもらった。

 本当に母親から離れたがらない子供のようだ。


 ベッドに腰かけているジルの手を取り、一緒にベッドに入る。こうやって同じベッドに入って寝るのは初めてだ。俺の方が緊張してしまう。


 優しく抱き寄せると、ジルは俺の腕の中で安心したように微笑んだ。

 俺もニッコリ微笑むが、どうにかしたい欲望と戦っている状態での笑顔は不自然ではないだろうか。上手く笑えているだろうか。そんな事ばかりが頭の中を巡る。

 


「ねぇ、リーン……」


「ん? どうした?」


「キス、して……」


「え……」



 そう言って目を閉じたジルに、俺は身悶えそうになる。どれだけ我慢しているのか分かっているのだろうか。いや分かる訳がない。ジルは思った事を言っているだけだ。それ以上を勝手に望んでいるのは俺なんだ。


 優しく頬を撫でて、そっと唇を落とす。触れるだけのキスをして、

「さぁ、もう寝よう」

と言って目を閉じた。


 そうしていると、ジルが俺の頬を両手で挟むようにして支えて、それから唇を重ねてきた。

 ジルからそうされて嬉しくない訳がない。だけどそんな事をされると俺の理性が……!


 ジルの濃厚な口づけに抗えず、俺も求めるように口づけを繰り返す。こんな事をされて止められる訳がない。いや、ダメだ。流されてはいけない。あぁ、でも止められない。ジルが欲しい。待て、シルヴェストル陛下に俺はなんて言った? けどこれで抑えるとか無理だろう? 


 頭の中で二人の俺が戦っている。頑張れ、理性の俺!


 

「リーン……えっと……胸も触っていいよ……?」


「ジル……けどそれは……」


「触れて欲しいの……もっと私だけを見て欲しいの……リーンになら、私何をされても……」


「ダメだ、それ以上言っちゃいけない……我慢できなくなる……!」


「どうして我慢するの? キスをするのも、触れられるのもすごく気持ち良いのに……どうして気持ち良いことを我慢しなくちゃいけないの?」


「ジル……!」


「怖いの……すぐに眠くなっちゃうのに、目を閉じると怖い夢を見ちゃうの……でも、リーンとこうしている時は、リーンの事しか考えられなくなるの……だから……」


「……っ!」



 思わず強く抱きしめた。それからキスを繰り返す。俺の事だけを考えてくれるなんて、こんなに嬉しい事はない。頬に、額に、首筋に唇を落としていく。ジルの身体中に優しく触れていく。俺のゴツゴツした手に、スベスベの肌が馴染んでくる。

 ヤバい……全部が柔らかい……でもここは特に……


 あぁ、また無意識に胸に手を置いてしまっている……どうやって止めたら良いんだ? 嫌がっていない、寧ろ求められているのに、どうやってこれ以上理性を働かせたらいいんだ?


 俺が自分自身と戦っていると、小さく寝息が聞こえてきた。



「え……そう、か……いや、良かった……」



 ジルは眠りに落ちていた。それに安堵したら良いのか落胆したら良いのか……


 仰向けにゴロンとなって思わず顔を手で塞ぐ。何やってんだ、俺は……!


 ジルが求めているのは温もりだったり安心だったりなんだ。今は恐怖に打ち勝つ為に、余計な事を考えたくなかったんだ。それがあの行為だ。

 なのに理性を失い求めてしまうなんて……!


 当分は眠れそうになくなった体の熱りが余計に情けなさを増長させる。


 俺は眠るジルの横で一人、反省するしかなかったのだった。

  

 

 

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