リーンの状態
私を助けてくれたシルヴォと出会えた。
凄く嬉しかった。そしてまた、あの群衆の中から私を助け出してくれた。
シルヴォは私のされてきた事を知っているから、私が人々に上手く対応できなくて戸惑って……ううん、怖がっているのを分かってくれたんだと思う。
私は多くの人から助けて貰っていた。その事に改めて気づかされる。
なのになにも返せていない。だから少しでも返せたらって思って、リーンが好きだって言っていた存在であるヴィヴィと会わせるような事を言った。
でもそれを後悔してる。リーンの事を一番に考えたいのに、心は自分の気持ちを優先させちゃいそう。
見渡すと、そこは美しい花が咲き誇っている。またここまで帰って来ちゃった。
本当はすぐにリーンとシルヴォを会わせた方が良いんだろうけど、今はリーンはヴィヴィといる。
どうして良いのか分からずにそこから動けずにいると、何やらバタバタと人々がが走っているのが見えた。
「あ、聖女様!」
「良かった、ここにいらっしゃったんです、ね……誰だ!」
「お前が聖女様を連れ出したのか?!」
「えっ?!」
騎士が私を見つけてすぐにシルヴォを見て剣を向けた。それから空に火魔法を放った。それは高い場所で音を立てて弾けた。
それを見て聞いた騎士達が駆け寄ってくる。
あっという間に騎士に兵士に近衛隊もやってきた。
「貴様っ! 聖女様を離せっ!」
言われて、はっと気づいた。私がシルヴォの腕をずっと掴んでいて、それを離すのを忘れていたのに、何故かシルヴォが責められている。
「違うの! この人は悪い人なんかじゃない!」
「聖女様……なんて慈悲深い……っ!」
「庇う必要はありません! 必ず無事に助け出しますので、安心なさってください!」
「だから……!」
「いいさ、大人しくしてりゃ良いんだろう? 突然見も知らない奴がこんな所に現れたらこうなるさ」
「でも……」
「ジュディスっ!」
「陛……あ、父上……」
「貴様! ジュディスになにを?!」
「違います! この人は私を助けてくれたんです!」
「なに?! それはまことか?!」
「だからみんな、剣を収めてください! お願いします!」
「聖女様! そんな、我々に頭を下げないでください!」
「おい、みんな、聖女様の言う通りにしろ!」
やっとみんなが落ち着いた。良かった……
ゆっくりとシルヴェストル陛下が近寄ってくる。まだ少しシルヴォを警戒しているみたい。
シルヴォは両手を上げて、敵意はないと示している。シルヴェストル陛下は私の腕を掴んで、自分の胸に引き寄せた。
そうしてやっと大きく息を吐いて安心したようだった。
「ジュディス……心配させないでくれぬか……一体何があったと言うのだ」
「それは……」
「いや、まずはそちらの者が何者か教えて貰えぬか」
「この人は……リーンと一緒に仕事をしていた人で……私を地下牢獄から助けてくれた人なんです。私を助けたせいで、その……殺されちゃったかもって思ってたんですけど……」
「そうか……それが事実ならば失礼した。我が娘、ジュディスの恩人であった方に剣を向けた事を深く詫びる」
そう言ってシルヴェストル陛下はシルヴォに頭を下げた。それには流石にシルヴォが驚いて戸惑っていた。
「しかし、なぜこんな所に……王城は強固な結界が張られておる。ジュディス程であれば破るのは可能かも知れんが……」
「あの、なぜかいきなり思い浮かべた場所に行けるようになったんです。だから……」
「なに?! そんな事が! それは転移石を解析する事で術として使えるかもと、現在高度なレベルを持つ術師と研究員が秘密裏に研究中なのだぞ?!」
「そうなんですか?」
「流石と言うべきか……しかし知らずにそんな事が出来るとは……この事も口外せぬようにな」
「はい。あの、それで……シルヴォをリーンに会わせたいのですが、その……」
「そうだ、リーンハルト殿と何があったのだ?」
「え?」
「ヴィヴィとやらと会っていたのではないのか? 先程余の所に来てジュディスがいなくなったと言って、それから倒れたのだ」
「倒れた?! どうしてですか?!」
「それが余には分からぬのだ。だから聞こうと思ったのだが、ジュディスも知らなかったのか?」
「知りません! リーンは大丈夫なのですか?!」
「今、医療班に診せておる。余はそれよりもお前の事が心配でな」
「私は大丈夫です! リーンは何処ですか?!」
「部屋におるが……」
それを聞いて、すぐにリーンのいた部屋を思い浮かべる。するとさっきのように目の前が歪んで、私は庭園からリーンのいる部屋までやって来ていた。
そこにいた医師達が驚いて私を見る。
「えっ?! なぜいきなり聖女様が!」
「そんな事はいいです! リーンは?! リーンはどうなってるんですか?!」
ベッドにリーンがいた。すぐに駆け寄って、リーンの手を握る。
熱い……凄い熱……
なんで? あれからなにがあったの?
「リーンハルトさんは薬を飲まされたようですね。先程血液を採取しまして、今それを解析中なんです」
「薬……?」
「高熱ですからね、意識が朦朧とされているのでしょう。ですが、先程から何やらうわ言のように言われてる事がありまして……」
「なんですか?! リーンは何を言ってるんですか?!」
「『違う』とか、『行かないでくれ』とか、あとは何度も『ジル』という名前を呼ばれていました」
「リーンっ!」
「ジ、ル……」
「リーン、私はここにいるよ! リーンの傍にいるよ!」
「どこにも……行く、な……」
「行かないよ! もうどこにも行かない!」
「良かっ……」
それだけ言うと、リーンは安心したように何も言わなくなった。
でも、薬ってどうしたんだろう? ヴィヴィと話をしてあんな事をして……それからなにがあったの?
その時、扉がノックされて他の医師の人が入ってきた。
資料らしき物を持ってきて、ここにいた医師と何か話している。
「聖女様……リーンハルトさんが飲まされた薬が何なのか分かりました」
「そうなんですか! それは何だったんですか?!」
「媚薬と言われている物です」
「媚薬……?」
「はい。しかし、この媚薬は我が国では違法扱いとなっております。効果は目に見えた人全てに好意を持ってしまうと言う物ですが、それはかなり精神に異常をきたす物なんです。誰彼構わずに抱きついて……その……淫らな行為に至ろうとしてしまうと言う代物なんです」
「そんな物をなんで?!」
「それは分かり兼ねますが……しかし、リーンハルトさんは、かなり自制されたようですね。被害を訴える者はおりませんでしたから。それがこの状態となっているのでしょう」
「いっぱい我慢したから、熱を出しちゃったって事?」
「そうです。媚薬に抗う事で、体が拒否反応を起こしているのです。この媚薬はかなりキツイ物ですので、二、三日は様子を見ないといけませんね」
「リーン……」
「解毒剤を処方します。では調合してきますので、失礼致します」
「ありがとうございました」
部屋から医師達が出ていった。リーンは媚薬を飲まされていた。それはヴィヴィに? だからあんな事をしていたの? そう考えて良いのかな……
リーンが大変な時に傍を離れて、ごめんなさい。
もう絶対に離れないからね。




