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オトメクオリア  作者: invitro
第六章 燃える魔法

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02 聖女を訪ねたら、、、

「ぶっちゃけさぁ……カツアゲマンより番長に報復される方が怖いんだよね!」

「財産持つの禁止されてるからカツアゲされてもたかが知れてるしな」


 提橋の結婚祝いで騒ぎに騒ぎ、二日酔いが引いた更に翌日の朝。

 結局、金剛寺と玄間は中央区の正門まで来ていた。


「おかげで満足におやつも買えな……あれ? 自分らの一番の敵って番長じゃね? なんで番長の言う事聞いてんだっけか」

「あの時の話をされると……うっ、頭が……」

「ハゲる?」

「もうハゲてる、って違うわアホ!」


 二人はずきずきと痛む頭を押さえる。痛みの原因は分からないが、聖女へ逆らう事を体が無意識に恐怖しているのかと強引に納得させ、思考を切り替えた。


「まぁことわざでも後悔役に立たずと言うしな、過ぎた事は忘れよう。では参ろうかゲンゲン、我らがパライソへ」

「おうよ、女のフリして自分だけエロの祭典に参加しようなんて許されんぜ番長」



 二人が中央区を訪ねて来た目的は、提橋から聞かされた「幽村悟きけんじんぶつが聖都に来ている」という情報を聖女に伝えるため――という建前で、実際には現在、聖都中央で行われているヨンロン祭に参加することだった。


 ヨンロン祭とは、聖獣ヨンロンにより魂の浄化と未来の祝福を行う洗礼式である。

 ただし、ヨンロンは過去に現れた転移者のペット、もとい従者であり聖なる獣とされる。そのためミラルベル教においても彼の行動を制限することはできない。年単位で冬眠することや気まぐれに大陸中を歩き回るせいで聖都へ訪れることも稀となる。だからヨンロンが聖都へ訪れた機会には、近隣諸国から権力者や将来を有望視される聖職者の子供達が集まり祭が開かれる。


 そして元貴族であるカロリーナから聞いた話では、ヨンロン祭における洗礼の儀式とは、男女共にほとんど裸で行われるというのだ。

 許される衣服は薄い前掛け一枚。胸から股下すれすれまでを隠しただけの姿となり、聖なる泉に浸かり身を清める。その後、女神と聖人へ祈りを捧げ、最後に聖獣ヨンロンから背中に聖印を授かれば儀式は無事完了となる。




「帰れ」


 しかし、二人は入り口で立ち往生していた。立ち入りが制限された中央区の正門を堂々とした態度でくぐろうとするも、門番の聖騎士が行く手を塞ぐ。


「だから至急報せねばならぬ用件があると言っているだろう!」

「こっちは聖女様の密命を受けているんだぞ。この件は問題にさせてもらうからな!」

「言伝があれば私が預かると言っている」


 二人は尚も強気で責めるが、門番は頑なだ。

 聖人候補である転移者を前にしても、はったりで背後にいるであろう権力者や責任問題を匂わせても、道を譲る様子は微塵もない。


「どうすんべよ。このおっさん、番長式交渉術が効かないぞ。この世界で困った時はだいたい恫喝すれば押しきれるって言ってたのに」

「むむ、今の拙僧ならスケ番になる前の番長にも負けない威圧力きんにくがあるはずだが、なぜ効かんのか」

「いっそ魔法で押し通るか」

「……お前達、私のことを覚えていないのか」

「あん?」


 ガンを飛ばすように、ひそひそ話に割り込んできた聖騎士の顔を睨みつける。恫喝の次は高校で見慣れた不良達のモノマネだ。だがそれでもやはり、聖騎士は厳しい表情のまま一歩も引かずにらみ返してくるだけだった。


「誰だテメーは、因縁つけんなら相手選べよ、おおん?」

「覚えてないか……覆面をしていたから、どちらにやられたかは私も覚えていないが……あの時は世話になったな、奥歯が折れたぞ神殿荒らしのガキども」


 聖騎士は小指を唇の端に引っかけて横へ引っ張ると隙間のできた口内を見せる。続いて周囲にいた男達も、まだ新しい治ったばかりの傷跡やへこんだままの鎧を見せてくる。

 二人はそこでようやく「あっ」と小さく息を漏らした。気まずそうに何かを考えるそぶりを見せた後、玄間は開き直ったように顔を上げる。


「ハッ、昔の事をぐちぐちと。男のくせに女の聖女様より女々しい野郎だぜ。聖騎士ってのはせこい野郎ばかりなのか? 聞いて呆れるよな、カンちゃん」

「そうだなゲンゲン」

「ちなみに、あの時あなたを殴った犯人はコイツです」

「ゲンゲンっ!?」


 親友の裏切りに遭った金剛寺が、ドンッと背を押されて聖騎士の前へ突き出された。友人を生贄にして自分だけ逃げるつもりだ。

 しかし、周りを見れば既に玄間も包囲されつつあった。聖騎士の中には、金剛寺だけでなく玄間が倒したと思わしき聖騎士も見られる。記憶力の悪い玄間に覚えはなくとも、血走った相手の眼を見れば、自分にも敵意を向けられていることは一目瞭然だった。更に、


「待て、獣人の聖騎士とは戦った覚えないぞ」


 聖騎士団の中でも一際体格のいいケモミミを持った男達まで現れる。


「……貴様らは聖女様に面倒を見てもらっているらしいな?」

「身元保証人的なものにはなってもらってるけど、面倒は見てもらってないが」

「まあ聞け……我らは以前、聖女に任命される前のあの方が聖地へ不法侵入しようとした際に、聖女様から不当な暴行を受けたことがあってだな」

「それオレら関係ないじゃん」

「黙れ! 聖女の代わりに殴らせろ!」

「理不尽っ!?」


 聖騎士達が飛びかかる前に、二人はその場を逃げ出す。

 玄間は多くの技能を習得した覚醒魔法の使い手、金剛寺は人を超えた領域にまで肉体を強化する筋肉魔法の使い手である。聖騎士達の必死の追及も及ばず、二人を捕縛することはできなかった。




「ぜぇーっ、ぜぇー……ったく、なんて心の狭い連中だ」

「であるな、二ヵ月も真夏の炎天下で奉仕活動をやらせてまだ怒っているとは。日本なら人権団体が動くレベルの体罰だぞ」


 一時間ほど逃げ回り、追っ手の影が完全に見えなくなったところで、二人は愚痴を吐き捨てていた。

 本来であれば、投獄程度では済まない罪を犯しておきながら、数ヵ月の奉仕活動で償いが済んだと考えている事が、未だに二人が多くのミラルベル教徒から反感を買っている最大の理由なのだが、その事に気づけない辺りやはり問題児クラスの一員である。


「だけどこの警備の厳重さはどうよ。どうやら余程部外者には見せたくないエロエロな祭事をやっているようだな」

「ああ、どの世界でも宗教のやることは同じだろう……ロリ、処女、人妻を集め、信仰を盾に酒池肉林! うらやまけしからん!」


 余談だが、二人は過去、金剛寺の実家の仏寺が、犯罪紛いの新興宗教に信者を取られて貧しい想いをした経験があった。そのせいで他宗教に対して密かな偏見と敵意を持っていた。


「とまあそれは置いておいて……貴様ぁ! 拙僧を売ったな、このクズめ!」

「そっちだって足ひっかけようとしただろうが!」


 一息ついてから幼馴染の裏切りを思い出した金剛寺が玄間の胸倉を掴み、玄間も負けじと怒鳴り返す。

 真っ先に聖騎士達の怒りの矛先を友人に向けようとした玄間も玄間だが、全力で走る玄間を転ばせて時間稼ぎをしようとした金剛寺も同類である。悪い友と辻風には出会うなというが、二人は生まれた時からの腐れ縁なので仕方がない。


「死ねや、もやし小僧!」

「ハッ! そんな見え見えのパンチが当たるか、筋肉ハゲ!」


 ビシュッ――風を切る音が鳴る。恐ろしいほどの破壊力と速さを持った拳が玄間の顔面に迫る。しかし、動きを先読みしている玄間には、大きく振りかぶったテレフォンパンチなど当たらない。紙一重のところで交わして金剛寺の顎先にカウンターを入れる。

 覚醒魔法で多くの技を極めた達人と無双の力を持つ超人のケンカだ。格闘技マニアのラウラや鮫島が居れば、ポップコーンを片手に大盛り上がりしただろうが、誰もいない路地裏には、金剛寺の分厚い筋肉の鎧を叩く鈍い音だけが空しくこだまし続ける。



「……つぅ……手が腫れてこれ以上殴れねぇ……」


 やがて疲労に負けた玄間が膝をついた。


「だははは、筋肉の勝利! 筋肉こそ至高の力よ! 鉄、素晴らしいまほうをありがとぉ! いぇーい、筋肉筋肉ぅ!」


 どれだけ一方的に殴られようと、武器を持っていなければ、玄間の攻撃で金剛寺の肉体が傷つくことはなかった。くねくねと不思議な勝利の舞を踊る。


「筋肉体操やめろッ! それ見てるとマジむかつくわ!」

「そうか? 楽しいぞ?」

「てかカンちゃんさあ……最近、言う事が鉄に似てきたけど大丈夫かよ。風呂上がりとかバラ咥えてポージングしてたりするし。前はそんなナルシー入ってなかったろ」

「む? 新しく呪文は唱えていないのだがな……言われてみると確かに、最近自分のマッスルに美を感じる。特に、この割れた腹斜筋と広背筋とか彫像にして後世に語り継いで欲しいほどだ」

「……思ったより症状が進行してんな」


 二人は地べたに腰を下ろし、屋根の間から青空を見上げる。雲の向こう、青空に思い浮かべる人物は、二人にとって救世主になるはずの相手、聖女ラウラだ。

 愛らしくも憎らしい笑みを浮かべる美少女の顔を思い出すと同時に、二人は聖域で行われているというエロスな祭事を覗くという目的を思い出した。


 しかし既に、正面から素知らぬ顔をして侵入するという最も安易な道は閉ざされた。

 中央区には周囲の区画を断絶するような外壁があるわけではないが、聖騎士団が常時周囲を巡回している上に、不審者がいないか屯所から目を光らせている。厳戒態勢期間に、騒ぎを起こさず誰にも知られずに侵入することは難しい。

 金剛寺は座禅を組んでハゲ頭の横で指をくるくると回して考えるが、どこぞのとんち小僧のような名案は浮かばなかった。


「ハッツの天啓魔法があれば予言で簡単に人の目をかいくぐれたものを」

「しゃーねー、こうなったら緊急用のアレを使うか」

「アレとは?」

「まあその……いいモンがあんだよ」


 二人は中央と外の地区の中でも最も人通りの多い南西部に移動した。人混みに紛れて、とある教会に隣接した物置小屋の裏近くで足を止める。


「うん……この辺りに……」

「どうする、上から行く気か?」


 一番背の低い物置小屋が指さされる。覚醒魔法で得た技術でも筋肉魔法の超人的なジャンプ力でも、数秒あれば屋根まで上れる高さだろう。建物の上までは巡回している聖騎士の目も届かない。

 金剛寺が準備体操に屈伸を始める。しかし、たかが数秒と言えど昼間では人目につきすぎると玄間は首を振った。何かを探すように道行く人々や馬車を観察する。そして懐から小さな筒を取り出すと口に咥えた。


「なんだそれは、笛か」

「見とけって。合図したら後に続けよ――――ぷっ!」


 二頭の馬に牽かれた一際大きな馬車が通りの外側に来た瞬間、玄間の頬が膨らんだ。吹き矢の筒から針が飛び出し馬の腹に刺さる。

 突然前足を上げて暴れだした馬に注意が集まり、周囲の人間は我先に逃げようと騒ぎが大きくなる。多少大きな音を出しても誰も気づかない状況だ。

 近くにいた警備の聖騎士も馬車を制御しようと動いたことを確認してから、玄間は金剛寺に肘打ちした。先ほど目星をつけていた物置小屋の壁に向かって走り、そのままスライディングでぶち当たる。すると壁の板が回転して玄間の体が建物の中に消えた。


「忍者屋敷かよ。いつの間にこんなものを……」

「へへッ、聖地で壊した建物を修繕する時に内緒でいろいろ細工しておいたのよ。また何かあった時に脱出できるルートは確保しておかないとだろ」

「天才かおぬし、これでいつエロ祭事が行われても覗きに来れるな」

「いやいやクソバカでしょ、何勝手に秘密通路なんて作ってるんですか」


 物置小屋を出ようとしたところで、女の声がかかった。


「何奴!?」

「あらあら、外が騒がしいと思ったら予定外の獲物がかかりましたわね。メイアは壁に仕掛けがあるって知っていたの?」

「いいえー。でもこの建物、深夜にラウラちゃんがたまに入ってくところを目撃されてるんで、何かあるんだろうなーって」


 この物置は滅多に使われることがないと調査したからこそ、玄間は抜け道を作る場所に選んだ。だと言うのに、灯りもつけず明らかな待ち伏せをされていた事実に気づき、全身から冷たい汗がふき出た。


「そ、そなたはいつぞやの……シスタービッチ!? なぜここに!」

「シスター顔面凶器もいるぞ!」


 金剛寺達は話をするまでもなく建物の外へ逃げ出していた。

 侵入者を待ち受けていたのは、使徒座の巫女ポーネットとメイアだ。聖遺物や転移者といった女神の力を分け与えられた者の事件を処理するための実働部隊である二人は、聖騎士以上に冗談が通じないというのが金剛寺達の見解である。


 自由都市同盟シルブロンドで立ち上げられた新しいミラルベル教分派の独立と経済的決別の騒動でも、何人かのクラスメイトが捕らえられたという情報が入っている。

 詳細は聖女と会えていないため不明だが、その際、転移者に死人が出たとか苛烈な尋問により廃人になった者が出たなどの噂もあった。


「にしても……ぷぷっ、シスタービッチですって。悪名が広がってますわね」

「ぷぷぷー、そっちだって顔面凶器とか言われてるじゃないですか。……でも顔面凶器ってどういう意味ですかね。ポーさん、頭突きで誰か殺したことあります?」

「そんな野蛮な。わたくし、人を殴る時はちゃんとコブシを使いますわ」


 ポーネットとメイアは互いの顔を指さして嘲笑する。しかし、互いにバカにした笑いもすぐに収まった。

 メイアの“獣王の手ぬぐい”がほどけて銀糸の大蛇となる。それを“波乙女の杖”で身体能力を強化したポーネットが握る。ポーネットは大蛇にいくつかレンガを噛ませるとカウボーイのように振り回し、遠心力をつけて逃げる男達の足に向けて投げた。

 金剛寺と玄間は蛇に両脚をからめ取られ、顔面から地面に突っ込んだ。立ち上がる暇もなくそのまま銀糸の蛇が全身に巻きついていく。


「なんで教えてないのに隠し通路を知ってんだよ、あのクソデカリボンは!」

「聖女というより疫病神であるな」

「カンちゃん、こんな糸はやく引きちぎれって!」

「そうは言われても……これたぶん呪文使っても無理なやつだぞ」


 金剛寺の怪力を以ってしても、硬化した皮膚に大蛇を形作る糸が食い込むだけだ。獣王の手ぬぐいは解くことも破壊することもできなかった。

 二匹のイモムシは、それでも捕まるわけにはいかないと気持ち悪い動きで路地裏に逃げ込もうとする――しかし、ぺちぺちと聖杖を手のひらに打ちつけながら、ポーネットが二人の前に立ち塞がる。


「ひいいい、いやあああ、来ないでぇ、近づかないでぇ」

「……なんかめちゃくちゃ怖がられてますね、この人達に何かしましたっけ」

「さあ? 前の事件以降、一度も会ってませんけど……どうして逃げるんですの? 殴る前に話くらい聞きますわよ」


 ポーネットが聖杖を地面に打ちつけると、石畳が割れて小石が金剛寺と玄間の顔を打った。観念した二匹のイモムシは顔を伏せたまま動きを止める。


「ポ……ポーネット様は美人すぎて、近くで見ると緊張して吐きそうになるので半径5メートル以内に近づかないでいただきたく……」

「そうなの? 初対面で求婚されたことならありますけど、そんな風に卑屈になられたのは初めてですわ。異世界の殿方はよくわかりませんわね」

「ポーさんだまされてますって」

「そんなことはありません、マジの本音です。本物の美女とか二次元の中だけでいいんで! あとシスターヤリマンビッチは威圧感といいますか、童貞を小バカにしてる感じを受けるのでもうちょっと離れてください」

「……ヤリマンビッチ、だと?」


 顔を真っ赤にしたメイアがポーネットから聖杖を奪う。しかし、両腕を振り下ろす前に後ろから羽交い絞めにされた。


「どうどう、落ち着きなさい」

「ポーさんはなしてっ、こいつら殺せない!」

「ふむ、ところでどうして……」


 スケベだが直接女性と向き合えない卑屈なオタクコンビにとって、美女もビッチも存在そのものが暴力だった。地面で震えながら薄目でシスター二人を見上げる。だが金剛寺達も理由があってここまでやって来たのだ。その目的を果たすべく質問を投げかける。


「おふたりは、どうして服を着ていらっしゃるのですかな」

「はい? 服?」

「服は着てるに決まっているでしょう、バカですか」

「だって今、聖地ではヨンロン祭とかいう、少女たちが性獣と半裸でエロエロな儀式を行う奇祭を行っていると聞いてや――ぐぺッ!?」


 金剛寺の顔面へポーネットの聖杖が叩きつけられた。口を開く間も許さず無言で滅多打ちにされる。


「ポーネット殿、いきな、なにを……いたいっ、やめっ……死ぬっ……」


 聖獣ヨンロンを最も信仰しているのは獣人達であるが、極度のかわいいもの好きであるポーネットもまたヨンロンの熱心な信奉者だった――というより、聖獣ヨンロンを侮辱する者を許さない獣人以上の過激派である。


 ボコボコに殴られた金剛寺が命乞いすらできなくなった頃、やっとメイアに止められてポーネットの制裁が終わった。

 ただ、金剛寺の筋肉魔法は肉体の回復に優れているため、呪文を唱えるとすぐに元の無傷な姿に再生される。


「やっぱりトドメまで刺さないとダメかしら?」

「待ちたまえ! 冗談だ、本当は聖女様に報告をしに来ただけだ、信じてくれ!」

「エロ祭を見に来たのは本当だけどな」

「黙れもやし小僧! お前も殴られろ!」

「ふざけんな筋肉ハゲ、あんな怪力で殴られたら死ぬわ!」

「ハァ、言ってることが同じレベル……転移者ってこういう所に共感してラウラちゃんについてくるのかなぁ」


 メイアとポーネットは、洗礼を受けていないということで初日に参加したラウラの起こした騒動を思い出すと揃って溜め息を吐いた。


「まあ、あの衣装を大人が着たら確かにエロいですけど……今日は10才以下の子しかいませんよ」


 ポーネットは縛られたままの二人を広い通りの見える場所まで引きずっていく。


「ねえシェリル聞いた? しんにゅうしゃだって」

「ほんとマグナ? ろりこんはぼくめつしに行かなきゃ」

「こらー! そこの双子、物騒なことを言ってないで列に戻るにゃ! これだからポーネットの教会の子供はいやにゃん」

「ピリカちゃん、あれはたぶん聖女様の教えだよ」

「余計タチが悪いにゃ、そう言えばラウラはもう捕まったにゃんか?」

「まだ目撃者もいないみたいよ」


 そこには、獣人で使徒座の巫女でもあるピリカとキナが、ヨンロンの待つ舞台まで小さな子供達を先導している姿があった。


「一番期待していたケモミミシスターズも服を着ているだと!?」

「それじゃ無駄足だったってのかよ、ちくしょう!」

「無駄足て、ラウラちゃんに会いに来たって言ったじゃないですか、ウソなんですか」

「あ、それもあったわ。聖女様イズどこ?」


 ついさっき言ったことを忘れている異世界人コンビに白い眼が向けられる。

 聖女ラウラの口利きと先輩巫女キスキルが聖遺物を用いて尋問したことにより、一定の信用は得られているものの、自由都市同盟の一件で教会の転移者への警戒心は強くなっていた。

 それでも、ラウラへ忠誠を誓っていることは間違いないらしく、ポーネットは二人の疑問に答える。少し答えづらそうに視線を外しながら――


「というか、こちらがラウラさんの居場所を聞きたいのですけど、今回の侵入はラウラさんの指示ではないということかしら」

「みたいですねぇ。でも連携されたら面倒ですし、この人達も先に牢屋にぶち込んでおきましょうか」

「牢? え、え、待って待って意味わかんない、どういうこってす?」

「ラウラさんは今、指名手配されて逃亡中なのですわ」

「マジなにしてんのあの人……」




――――――――――




 一方その頃、薄暗い地下にラウラはいた。


「くそっ、まさか、あれだけでこんなことになるとは……」


 狭い室内で、ザクッ、ザクッ、と何度もスコップを地面に突き立てる音と荒い息遣いが静かに反響する。そしてその音をかき消すように、


「ぐあああああ、やめろおおおおおおぉ!!」


 男の叫び声が響く。


「だったらわたしに協力しなさい」

「ダメだ、おれはあいつを裏切れない。あいつはおれに本当の自分を教えてくれた。あいつを解放してくれないならおれは協力しない!」

「んじゃ死ね」

「生き埋めはいやああああああああぁ、だれか助けてえええええぇ」


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