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オトメクオリア  作者: invitro
第三章 食べられる魔法
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03 裏料理部

「ひさしぶり~……にしてもどうやったらそんなデカくなれんだよ……うらやましいじゃねぇか、この野郎」


 異世界の水があったのか突然の成長期を迎えていたクラスメイトを捕まえて、ラウラは自室に閉じこもっていた。


「いやいやいやいや! おれの事なんかより、そっちこそなにが起きたらそんな美少女ロリ子になれるのさ! つかマジ死んだと思って心配――」

「おい、今わたしをロリ子と言ったか?」

「ひぃっ! ごめんなさい番……副部長!」


 提橋はラウラを定番のあだ名でなく、敬意をもって副部長と呼ぶ。

 これは特定の人間しかいない空間でのみ使われるルール。

 ラウラと提橋の繋がりはクラスメイトという一点だけではない。二人は緋龍農業高校に20ほどあると言われている非公認クラブのひとつ、裏料理部のメンバーだった。


 部長、油小路巧。

 副部長、多々良双一。

 平部員、青木草太・小山内茶琉・提橋努・鉄哲也。


 部員は全6名、全員2-Aの生徒で構成されている。

 部活動の内容も、健康志向でハイカロリーな食事の研究という、一般的な料理部と比べてもそれほど乖離していないもの。


 と、正式な部活動として認められる建前は満たしていたのだが、裏料理部は昼休みや深夜でも腹が減ったらお構いなしに活動するので当然ながら認可されなかった。

 そして、非公式な活動には秘密厳守がお約束であり、他のクラスメイトとはまた別の絆があった。ラウラが簡単に正体を明かしたのもそれが理由だ。


「うーん、何回聞いても信じられない……」


 提橋の反応は少し前に再会した貴志とは違うものだった。

 どこからどう見ても別人、むしろ別種の生物になってしまったラウラを見ても笑うことなく、ただただ信じられないと戸惑っている。


「わたしとしてはソッチの謎成長が信じられないんだけど?」


 ラウラは壁に背をかけていた提橋の隣に立つ。

 腕を伸ばして「何センチあるんだ、前はわたしより小さかったのに」と指をのばして手を振って見せる。もっとも、背伸びをしても指先すら提橋の頭まで届かないのだが。

 そんなラウラの姿に、提橋は後ろを向き、


「うをああああああああああ!!!」


 奇声を上げて壁に頭突きしだした。

 額から血が出るほど何度も何度も強く打ちつける。


「お、おい、急にどうした!」

「くっそおおお! 番長に、あの番長に萌えるなんて、おれはああああ!!!」

「やめろ、教会が壊れる!」


 提橋の体を引っ張る。しかし、今のラウラでは提橋の巨体は止められない。

 もともと背は高く体格も優れていた提橋だが、今はボディビル世界チャンピオンも顔負けの肉体になっている。ラウラが殴っても蹴ってもビクともしない。次第に怒りが溜まり、後ろから股間を蹴り上げるとようやく床の上に大人しくなった。


「で、なんなのそのフィジカルモンスターっぷりは、お前の魔法?」

「ちょっと、まって……まだ、おねがいします……」


 提橋は床で転がってから這いずるように椅子に座る。


「ふぅ……悪いけど魔法のことは話したくない」

「もったいぶっておいて」

「じゃあ聞きますけど、双一さんもその姿と魔法についておれに話せるんですか」


 初めてラウラを見る提橋の表情が厳しいものになった。

 異世界で荒波に揉まれたのか、肉体だけでなく顔つきまで屈強な戦士のように変わってしまったクラスメイトの迫力に負けないよう、ラウラは睨み返す。


「副部長の言いたいことはわかるよ……でも、おれは神器を狙ってる連中とは違うから。イヤな思い出があるから話たくないだけなんだ、勘弁してくれ」


 降参だとばかりに提橋は手の平を上へ向ける。


「おれも森で別れてから数人しか会ってないけど、他人を出し抜いてまで神器を取りに行こうとしてるやつは少ないと思うよ」

「……そうなのか?」

「だってあの時さ、副部長とか安とかヤベー人らが明らかにやる気だしてたじゃん。博士とか御影さんも何考えてんかわかんねーし。そもそも、おれみたいな一般生徒は神頼みしたいような願い事もないし、魔法で楽してエンジョイライフできればいいんだよ。誰かが神器を使えるようになったら帰してもらえればそれでオッケー、みたいな」

「なるほど」


 一部は納得できる、と頷くがまだ不満そうな顔をしていた。


「……お前が一般生徒ってのはどうなんだ」

「なんでよ」

「だってお前、ウチの学年で最初に教員のブラックリストに載った要注意人物じゃねえか」

「入学前からブラックリスト載ってた人に言われたくない」

「え、それ知らなかったわ」


 言い返されたラウラが笑う。すると、提橋も緊張が解けて一緒になって大笑いしはじめた。


「んで、これからどうするつもりだったんだ?」

「とりあえずは神聖ミラルベル教国の聖都ってとこに行って、適当に仕事でも探そうかなって。やっぱ暮らすなら都会がいいよ」

「行き先は同じか……」


 ラウラは提橋から視線を外し、考えるポーズを取った。

 提橋本人は“とある条件”を破らない限り善良な人物だ。ただ、みすぼらしい恰好をしているせいで、放置すればこれからの旅も不審者として色んな場所で問題を起こしそうである。

 そしてラウラとしては、クラスメイトの動向は少しでも知っておきたいところ。提橋は貴志から聞いた“共に行動していたメンバー”に名前が含まれていなかったことも気がかりだった。


「よし、決めた! お前、聖都までわたしの従者になれ。金ないんだろ、面倒みてやるよ」

「相変わらず強引だなーって副部長も聖都に行くの?」

「おう、これから聖都で成り上がる予定だからな!」

「えー……宗教とかめちゃくちゃバカにするタイプじゃん」

「おいやめろ、そういう発言は二度とするな。この世界だとマジで消されかねん。それからわたしのことはラウラ様と呼ぶといいぞ」

「なにそれ、女の子プレイの源氏名? 別にいいけど」

「せめて偽名って言えよ」


 二人は改めて再会を喜ぶ握手を交わした。


 互いの足を引っ張りあう旅になるとも知らずに。

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