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オトメクオリア  作者: invitro
第二章 壊れる魔法
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05 女子力でも負けぬ!

 チリンチリンとドアベルの清爽な音を鳴らしながら扉が閉まる。

 最後に宝石店から出てきたラウラは、巾着袋でお手玉をしてご機嫌そうだ。


「おまたー、なんか予定より儲かっちった」


 二人の白服シスターが店に現れてからというもの、どういうわけか宝石商は突然手の平を返してラウラが言う通りの金額を飲んだ。おかげで宙を舞う財布はパンパンに膨らんでいる。

 外で待っていたシスター達は、僧侶とは思えないケンカ腰で商人と交渉していたラウラに言いかけた文句を飲み込んでから挨拶に移った。


「こちらこそ、先に着いている予定だったのに待たせてしまったみたいで」

「いいっていいって、リットン爺さんが言ってた迎えの人だよな」


 以前ラウラがこの町に来た時は、教会に白服のシスターなどいなかったため、すぐに外からの人間だとわかった。

 軽く確認だけ済ませてから互いに自己紹介をする。


「私はメイア・バルテルといいます。こちらはポーさんです」


 微妙にチャラそうな感じがしなくもない、明るく柔らかい雰囲気を持つ色素の薄い赤毛の少女がそう言うと、ついでのように紹介された金色の髪を毛先だけカールさせた方の少女が顔をむっとさせた。


「雑ッ! 雑ですわ! ポーさんって呼び方もやめてって言ってるでしょう!」


 ポーさんと呼ばれた金髪の少女は薄っすらと伸びる赤のアイラインと口紅が印象的だ。

 澄ました表情の時は年上の美女に見えたが、むきになる様子を見て実は背伸びした化粧をしているだけで近い年齢なのだとラウラの緊張が弛んだ。


「メイアにポーさんね、よろしく。わたしはラウラ、こっちの小さいのがシェリルとマグナ。ほら、二人とも恥ずかしがってないで」

「「よろしくポーさん」」


 快活に挨拶を返すラウラの後ろでシェリルとマグナが控えめに手を振る。


「あなたたちまで! わたくしはポーネット・グレイス! 変な略し方はやめてくださいまし!!」

「おっけ、ポーさん」

「くっ、このっ……メイア! わたくしっ、この子苦手ですわ!」

「まあまあ、会ったばかりじゃないですか」


 肩を震わせるポーネットをメイアが落ち着かせる。

 その間、人見知りの激しい双子にずっと服を引っ張られては邪魔になると思い、ラウラは見える範囲の屋台で好きに使っていいと小銭を握らせた。

 自分の教え通りに屋台の店主と値段交渉からはじめた双子の背中を確認してから、迎えに来た二人に向き直る。


「ところで、聞きたいんだけど、子供のお迎えに来るほど高位神官って暇じゃないよね?」


 ぶしつけなラウラの瞳はメイアとポーネットの服装を捉えていた。二人の修道服はラウラ達が着ている黒衣とは大きく違っている。

 見るからに上質な布地は、高位の聖職者にしか許されない純白を基調とし赤を合わせた物だ。見習いのラウラはもらっていないがケープマントも教会の支給品で間違いない。腰は簡易なコルセットベルトが巻かれ、清楚でありながら動きやすい造りになっている。


 加えて、メイアはキラキラと光を返す不思議な材質のストールを愛用し、ポーネットは特別な祭典で使われるような柄の長い儀仗を持っていた。

 修道服を改造することは許されず、また過度の装飾品を持つことも許されていない。普通のシスターとは違う立場にあるのだと一目でわかる様相である。


「リットン様から聞いていないんですのね」

「しょうがないですよ、余計な事を教えても不安にさせるだけです」


 自分と同年代であろう少女達から小馬鹿にされるような言葉を返され、ラウラのこめかみに血管が浮き上がる。

 しかし、つい先程、宝石店の中であったことが脳裏に浮かぶ。

 ポーネットに手首を掴まれた瞬間、へし折られると錯覚を起こすほどの異様な力を感じた。その正体を探るべく、ラウラはポーネットの上腕を叩いてみる。


「な、なんですの、べつにあなたをバカにしたわけじゃありませんのよ」

「おかしい…………二の腕、ぽよぽよ?」


 返ってきたのは、ごく普通の女性らしい柔らかな弾力だった。


「ぽよぽよなんてしてませんわ! 乙女になんてことを言うんですの!?」


 癇癪を起して叩いてきたと勘違いしているポーネットとメイアは顔を合わせる。その心底不思議そうな顔にラウラは呆然と立ち尽くす。


 ラウラが男だった頃、格闘技とトレーニングに目覚めてからケンカでの負けは一度として無い。

 女になった今も徒手での戦いならば大人の男にだって負けないという自信がある。そのラウラが、初めて戦わずして敵わないと感じた相手が同年代の少女。それも特別体格が優れているわけでもない細身の美少女だ。


(この世界には筋トレなんてしなくても強くなれる方法がある? 一年間、鍛え直そうとした時間はムダだったのか?)


 理解の及ばない敗北に、これまで築いてきた努力の価値が心の中でがらがらと音を立てて崩れていく。


「……ショックだ」

「ラウラもまーまーかわいいけど、びじんではないしね」

「ラウラもおっぱいあるけど、おとなには勝てないよね」


 ちょうど食べ物を買って帰ってきた双子がラウラの肩に手を乗せた。だが話の流れを把握していなかったせいで的外れな慰め方だ。むしろ傷口を広げていると言ってもいい。


「え、女らしさでも負けてる? てかなんでいつも上からなの?」

「きまってるじゃん」

「ラウラがリットン家のすえっこだからだよ」


 シェリル達にとって、リットンに拾われた順番がそのまま教会での地位に納まっていた。年齢に関係なくラウラはいつまでも新入りの下っ端である。


「そもそも勝負なんてしてませんけど」

「なっ、このわたしが相手にもされていないッ!? 屈辱ぅ」

「どれだけプライド高いんですの、この子」


 理解できないものを見るようなポーネットに、ラウラは声を荒げて噛みつく。


「人生とは闘争であり甘受していい敗北など存在しない! 女になったからには女らしさでも負けてはいかんのですよ! 美少女は美少女としての矜持を持つ義務があり、女子力の探求を放棄することは堕落のはじまりなのです!」


 力強い叫び声を聞き、珍しいシスターの口ケンカに注目しはじめていた周囲からまばらな拍手が起こる。


 ラウラが女子力をどう理解しているのかはともかく、“何事においても勝つことに最大の意義がある”というラウラの哲学は、女神の教えに対して非常に寄り添う部分があった。

 それは清廉で温厚な遺伝子を持つこの世界の人間にとって、魅力であり毒にもなり得る性質だ。幾度か訪れた他世界からの転移者の子孫の中でも、まだ一部の者にしか発現していない。

 強烈な個の主張を行えるラウラに、メイアは驚き何度もまばたきをする。


「なんちゅう過激派、リットン様はいつ宗旨変えしたんでしょうか」

「ラウラは村に来たときからこうだよ」

「とりあえず女性らしくしたいのなら、髪くらい整えたらどうかしら」


 ポーネットは歓声に手を上げて応えているラウラの肩を掴んで後ろを向かせた。ポケットから太い純白の紐を出すと、一切の抵抗を許さぬままラウラの後ろ髪をまとめて結ってしまう。

 ラウラは鬱陶しかった背中が軽くなった様子に新鮮さを感じながら、巨大なリボンを指でつついてみる。


「なるほど、女子力とは髪を結うことと見つけたり」

「違いますけど」

「……じゃあ、ポニーテールにしたのには何の意味が?」

「あなたの場合、センスが致命的にな――髪の切り方が雑だっただけですわ」

「わけがわからん。快適だからもらっておくけど」


 まとめられた髪を触るラウラを見て、シェリルとマグナがうらやましいと声を上げる。

 ただ、二人は初対面のポーネットにはねだれないようで、ラウラをアクセサリーの出店に連れて行こうとする。


「まだ話の途中ぅー」

「わたくし達も着いたばかりで少し休みたいですし、どうぞ行ってらして」

「あらそう? じゃあ自己紹介もすんだし、また教会でー」


 町の外からきたシスターを歓迎し、商人や町の住人が三人を連れて行ってしまう。

 メイア達の前からいなくなる前には、ラウラが少しだけ見せた剣呑な雰囲気は消えていた。子供に振り回される面倒見のいい姉にしか見えなかった。


「あのラウラさんという方、不思議な子ですわね」

「ていうか普通じゃないですよ。ところでポーさん他に何か感じませんでした?」

「負けず嫌いは良いことですわ」

「あー、ポーさんもソッチ系の宗派ですもんね」


 子供を見守っているというより観察しているかのような無機質な視線を切り、メイアとポーネットは一足先に教会に戻る。


「それよりよかったんですか、アレ?」

「リットン様が育てているのでしたらわたくしの妹弟子にあたりますし、リボンくらい問題ないのではなくて? あんなザク切りのぼさぼさ髪を放置してる方が教会の尊厳に関わりますわ」

「うん、そうじゃなくて」

「今はこのバレッタがお気に入りですから、捨てるのももったいないでしょう」

「だからそうでもなくって」


 見当違いの答えを返され、メイアは同じ質問を重ねる。


「あのリボン、ポーさんが初めて教会に連れて来られた頃に使ってたやつですよね。たしかラウラちゃん、私たちよりひとつ年上ですよ。普段使いにあげちゃっていいんですか」

「えっ!? 手紙に年齢なんて書いてあったかしら」

「ポーさんってば、また要件しか読んでない……」


 ポーネットの足取りが徐々に重くなり、しばらくして止まった。

 子供っぽいから――という理由で、自分が何年も前から外で使わなくなったリボンを年上の女性にあげてしまうのは礼儀に反する。

 子供向けの物だと気づかれた時のためと、メイアに一言断りを入れてポーネットも出店が並ぶ祭の喧騒へ紛れていった。




――――――――――




 三人の小さなシスターは日が暮れた頃に帰ってきた。

 しかし、祭で別れた時の楽しそうな笑顔はなくなっている――といっても、主に表情が暗いのはシェリルとマグナの二人だけだが。


「何かあったの?」

「……ラウラにぜつぼう」

「……ラウラにしつぼう」


 頬をふくらめたシェリルとマグナはそう言ってメイアの胸に顔をうずめた。少し遠慮が見られるのは、甘えられる対象がいなくなったので仕方なく、といった様子だ。


 理由は聞くまでもなかったが改めて聞くと、二人の髪がメイアの顔をくすぐってくる。

 表情が暗い原因はその髪にあった。

 シェリルとマグナの茶色い髪には、確かに新しく買ってもらった綺麗なリボンが巻かれている。ただし、全ての髪の毛を頭頂部に集めて束ねただけの“たまねぎヘアー”としか呼びようがない髪型だった。


「なんで、たまねぎかわいくね」

「はあああぁ~、二人ともこっちにいらっしゃい」

「え、なにそのクソデカため息、ケンカ売ってんの?」


 質問には、一呼吸おいてから再度深い息で答えられた。

 ポーネットは二人を呼び寄せる。三つ編みでおさげを作り、リボンで蝶々結びをして毛先をかわいくまとめてみせた。よく誰かの髪を梳いてあげているのだろう、ラウラにやった時と同じで非常に慣れた手つきだ。

 双子が並ぶと左右対称になるよう、おさげは一本ずつ左右に分かれている。それまで半べそをかいていたシェリルとマグナはお互いの髪型を見て、すぐ笑顔に戻りポーネットに抱き着いた。


「ポーさんすきー!」

「ポーさんすてきー!」

「……リボン買ってやったのはわたしなんだけど」

「ラウラはじょせいとしてのセンスがない」

「ひんもない、はずかしいレベル」

「んだとぉッ!」


 ラウラが怒鳴ると双子は走って逃げてしまう。

 礼儀知らずは許さん、と追いかけようとしたラウラだったが、首根っこをメイアに捕まえられていた。明らかな怒りを宿した瞳にラウラはそっと目を逸らす。


「……時代がわたしのセンスに追いついていないんすよ」

「負けは潔く認めなさいな」

「二人ともそうじゃなくて、ラウラちゃんに昼間の話です。まずひとつ!」


 メイアは子供を叱るように、腰に手を当ててラウラの顔に指を突き立てた。

 ラウラが姉として接している双子が見えなくなってから説教をはじめたのはメイアの優しさだろうが、また子供扱いされているとラウラの神経を逆撫でする。


「あんな風に人に強くものを言ってはいけません! 修道服を着ていても悪い事をしてくる人はいるんですよ!」

「うぃー」


 そんな気遣いなど知ったこっちゃない、とラウラは適当な相槌を返す。


「それに軽々しく神罰などと女神様の代弁をすることは許されません! いいですか!」

(こっちの世界に来た時、天使公認で亜神だか神様見習いらしき存在になったようなこと言われてるけど……言ったらもっと怒られそうだな)


 大声で注意されると反射的に言い返したくなる気持ちを唇をすぼめてこらえた。

 天使の件は事実を言っても理解されることはないだろうし、ラウラは素性を隠している。また、階位の高いメイアとポーネットには、正式な叙階を授けられていないラウラを叱責できる権利がある。


「ほんとにわかっているのかしら」

「おら昔のこと覚えてないんだっぺ。まだ言葉も覚えてる途中だし……だから難しい話は苦手なんだっぺ」

「手紙でその話は聞いてますけど」

「都合が悪くなると記憶喪失の芋女になるのやめてくださらない? それに記憶力までなくなっているとは聞いていませんわ。あなた一年近くリットン様の教えを受けているのでしょう?」

「ちっ……次はもっと上手くやります! オス!」


 以前過ごしていた緋龍高校で問題を起こした生徒が反省の代わりに言う決まり文句を言って、ラウラは双子を追いかけていった。

 静止を求めるメイア達の声ではその背中を捕まえられず、ラウラは薄暗い廊下の向こうに消えてしまう。角を曲がったところでラウラが説教される様子を笑って見ていた双子の悲鳴が響き、夕暮れの教会が騒がしくなる。


「もうっ、都合が悪くなると芋のフリをして逃げる、リットン様の手紙通りですわね」

「さすがに芋とは書いてなかったですよ」




――――――――――




 翌日の深夜、ラウラはメイアとポーネットの寝室の外にいた。窓の中からは、荷物をまとめているらしく布ずれの音と話し声が聞こえてくる。


「これでよしっと、ポーさんも準備できました?」

「わたくしはいつでも。あとは鬼教官が来れば出発できますわ」

「あっ、またキスキル様の悪口言った。私を巻き込むのやめてくださいよー」

「鬼教官はただの事実でしょう」


 生まれ持った褐色の肌に畑仕事で日焼けを重ね、黒髪に黒い修道服を着たラウラは闇夜に隠れると簡単には見つからない。

 祭の夜でも、ざわめきが残っているのはせいぜい酒場の辺りだけで人影はない。ラウラは窓の下で地面にあぐらをかき、気を抜いた姿勢で聞き耳を立てる。


(女の部屋を覗くのは気が引けるけど、妹分を連れてよく分からんお偉いさんと旅はできんしな)


 メイア達の服装や立ち振る舞いから、ラウラは二人が貴族の出なのではないかと疑っていた。

 比較的平和なこの世界においても、長期的に見れば徐々に大きな争いが増えている。そうした原因を作る権力者には異世界からの転移者を先祖に持つ者が多く、ラウラが拾われたナルキ村の住人のように優しい人ばかりとは限らない。


 ラウラも最初はアザナエルの情報から異世界を楽観視していた。しかし、何度か大きな町までお使いに出る内に、過去の転移者から欲と同時に傲慢さや凶暴さも受け継いでいる人間が増えてきたのだと警戒が生まれていた。


(一日一緒に過ごして感じた俺達を見張ってるような態度……爺さんだって偉い人が来るなら一言あっていいはず。一体何を隠してるのや……へくちっ)

「メイア、いま外で音がしませんでした?」


 春も終わろうという季節だが夜風はまだ冷たい。くしゃみに反応したポーネットが立ち上がって窓際に近づいてくる。


「ブルーリアだ、入るぞ」


 カーテンが開かれる直前、ラウラの知らない声と共に寝室のドアが開かれた。

 逃げようとして四つん這いのまま上を見れば、一瞬隙間から漏れ出た部屋の光が消えている。ポーネットは物音を確認するより来訪者を迎える方を優先したようだ。ラウラは手についた土を静かに払うとカーテンの隙間から部屋の中を覗く。


「あらキスキル様、お時間がかかりましたわね」

「正確な情報を集める必要があってな」


 ノックも無しに部屋を訪れた女性が真っ黒な外套を脱ぐと、下にはメイア達と同じデザインをした純白と赤の修道服が現れた。

 特別な位階を示す修道服で、キスキルと呼ばれた女性がメイアとポーネットの所属する組織の一員だと一目で予測できる。


(三人目の高位神官? 探りを入れにきて正解だった)


 先程ポーネットが鬼教官と言っていた女性を見てラウラは唾を飲む。

 キスキルは教官というより裁判官といった雰囲気だ。メモ帳のような書物を持ち、足を組んで座る姿は冷厳、威圧的な空気を纏い、修道服を着ていなければ誰もシスターとは思わないほど。背中から伝わるメイア達の緊張から三人の立場が対等でないこともわかる。


「双子は?」

「騒ぎ疲れたようで、もうぐっすり寝ていますわ」

「どう見る」

「少し話したくらいじゃ素質までわかりませんよ」


 簡潔な質問に淡々と答えが返されていく。


「私は双子ちゃんより付き添いの――」

「だが、以前教会を襲撃した連中の残党がまだ探しているのは事実のようだ」


 メイアの報告を遮ったキスキルの言葉に、部屋の緊張がさらに重くなった。

 話を半分も理解できていないラウラも、不穏な単語を聞き取り慎重に耳を傾ける。


「しかも半年前に現れた魔人の一人がいるらしい」

「はあっ!? それは魔人が帝国に加わったということですの!?」

「落ち着け、そもそも一年前の残党に帝国の中枢に残れるほどの力は残っていない。聞いた話では魔人が傭兵として雇われているようだ」


 ガタリ、と少し大きな音が聞こえた。続けて静かな水音がする。部屋を覗けばメイアがポーネットを落ちつけようと客人の分も含めてお茶を淹れている。

 しばし沈黙が流れる中、ラウラは冷や汗を拭いながら心の中で悪態をついていた。


(魔人てアイツらの誰かだよな。もう教会にマークされてんのかよ)


 魔人、伝承に出てくる単語でありラウラも知っていた。それは前々回にあたる異世界からの転移者を示す言葉だ。


 五百年前に来た異世界人も、ラウラ達と同じく複数人が同時にやってきた。そして、本来ならば案内人と呼ばれる異世界に旅立った者が、人格者を選別しているはずだったのだが――彼らは世界の覇権を取ろうと戦火を撒き散らした。

 異世界に“強い欲の力”を求めたこの世界の住人も、行き過ぎた欲は世界を滅ぼすものと理解するきっかけを作った集団。以降、転移者の中でも世界に災厄をもらたす者は教会に魔人と認定されるようになった。


「もうひとつ悪い報せがある」


 メイア達の顔を見ながら考え事している様子だったキスキルが追加の情報があると言う。


「その賊がナルキ村に向かったと情報が入った」

「あの子たちの生まれはリットン様が隠していたはずなのに……」

「一年前に変わった少女が拾われたことが近隣の村で噂になり、その者を生き残りと勘違いしたようだ」

「でしたらここで二手の別れて応援に――誰ですのッ!?」


 僅かに聞こえた音に反応してポーネットが勢いよく窓を開いた。蝋燭の灯りが暗闇から地面を照らす。しかし、そこには小さな足跡が刻まれているだけで誰の姿も残っていなかった。

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